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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百七十七


「れ、レナスと……合流ができないときは、こ、ここから……き、北。北の港の近くだ。放棄された、灯台……そこに、向かう手はずになっていた」


「なるほど、ありがとう。リュドミナ・フェーレンの拠点は?」


「ひ、東……ここから、東だ。正確な場所は、聞いてはいない。でも、作戦が失敗したときに、徹底すべき方角は指示されている。東に、逃げろと……私たちは、女神イースに仕える尼僧だ。教会を、頼れという意味になるだろう」


「東、ね。東にある教会のどこかに、リュドミナ・フェーレンがいる。東。お兄ちゃんたちも……東に向かっていた」




―――偶然というものは、戦場には滅多と存在しない。


合理的な悪意で埋め尽くされた空間は、いつでも作為がひしめいている。


ミアはリュドミナ・フェーレンが、クリア・カニンガムと接触していると予想した。


戦場はとても狭くて単純で、幾何学的な傾向が支配していく……。




―――あらゆる職業のベテランが、自覚的か無自覚的かはともかく。


『形』や『構造』として、状況を整理して管理しているよね。


彫刻家や建築家が、決して設計図を必要とはしないように。


料理人が塩や砂糖の量を手で掴むだけで感じ取るのも、そういう力さ……。




―――船乗りや漁師が岸の形だけで、波や風を判断し予想するのもそうだし。


旅慣れた商人たちが、宿の信頼性を街道の何処に建っているかで推し量るのもそうさ。


チェスの達人は、盤上の形で潜在的な勝敗の可能性を読み解いている。


絵描きが構図を作るときなんて、まさに幾何学を利用しているとしか言えないね……。




―――見たときの形、さわったときの指の形。


多くの職業人は、ベテランほどに見た目や手触りが教えてくれる『形』で管理する。


そっちの方が、早く豊かな判断力が使えるから。


知識との齟齬があるときも、すぐに探り当てて対応も取れるという点でも優れる……。




―――戦場を司る、戦術家たちもそうなんだよ。


ボクたちは地図に囚われて、卓上の戦術もしっかりと研究もするからね。


その傾向は、他の職業人たちよりも露骨なところがあるかもしれない。


他の業種と比較してどれほどのものかはともかく、戦術家は幾何学の囚われだよ……。




―――この決して日常の広さを持っていない、限定的で閉鎖的な戦場で。


強大な悪意は、好き勝手に寝転がってはいられない。


とくに『攻撃』という、計算の力がモノをいう戦術を実行中のときはね。


リュドミナ・フェーレンは、『おそらく』クリア・カニンガムと一緒にいる……。




「お姉さんは、クリア・カニンガムを知っているよね」


「……え、ええ。知っている。お料理を、いただいたの。宿泊施設も、貸してくれたわ」


「いつから、知っているの?」


「わ、私は、三週間前から」




「レナスと、リュドミナ・フェーレンは?」




「す、少なくとも、私よりは、前からでしょう」


「クリア・カニンガムに、何かを頼んでいたの?」


「私は、頼んでいない。レナスと、リュドミナ・フェーレンさまも……そもそも、クリア・カニンガムは良い料理人だし、好感の持てる人物だった。礼儀正しく、服装も小奇麗。尼僧に、何かを要求するような方には……」


「世慣れしていないって、怖いよね。クリア・カニンガムって、極悪人らしいよ」




「そ、そんな……っ!?」


「リヒトホーフェンとも、つながっていたの。貴方は、知らなかったんだ」


「し、知らないわよ。カニンガム氏は、そんな素振りを見せなかった……」


「お姉さんは、ただの連絡係なんだね。あまり深い情報に関わってはいないみたい」




「……そ、そうよ。私は……大して、有能じゃない」


「無能でもないよ。私に負けたのは、しょうがない。私は、猟兵だから。落ち込まなくてもいい。戦士としての鍛錬は、評価していいレベルだから」


「あ、ありがとう。貴方は……特別、なんでしょうね」


「うん。だから、気にしなくてもいいよ。私も、そろそろ、ここを出発するから」




「つ、つまり。私を、解放してくれるという意味、かしら?」


「お姉さんは、本当にただの連絡係だからね。情報源として、そんなに価値はない」


「ええ。それは、悔しい評価だったわ。今日まで。でも、今は、少し、ありがたいと感じられる」


「見逃してあげるよ。だから、お姉さんが亜人種や『狭間』を殺すような日が来たら。見逃してあげてね。じゃないと、お姉さんのこと、許さない」




―――『カール・メアー』の教義より、ミアの笑顔が怖かった。


この巫女戦士は、おそらく山に戻るだろう。


『外の世界』の恐ろしさをミアに教えられ、自分の適性の低さを教えられた。


政治的な活動なんか、しなくてもいいさ……。




―――尼僧として、ただ祈りを捧げる暮らしも悪くない。


女神イースの教えを広め、実践していかなくてもいい。


宗教家は世のためヒトのために、動こうとするけれど。


『カール・メアー』のそれは、ボクらにとっては非常に厄介だからね……。




「……お山に、帰るわ」


「そうするといいよ。女神さまに、お祈りだけ捧げて。世の中から、不幸なヒトが減るようにね」


「……貴方は、どこに行くの……?」


「聞かない方が、いいよ。関わりたく、ないでしょう」




「え、ええ」


「じゃあね。気を付けてね。しばらくすれば、戦闘になるから」


「あ、貴方も……ね」


「うん。ありがとう。『カール・メアー』の、お姉さん」




―――ミアは走り出し、窓から外に飛んだ。


チェーン・シューターを使い、『オルテガ』の入り組んだ城塞の一つに向かう。


そこを伝いながら、街を駆け抜けるんだ。


巫女戦士は、その速さと機動力に圧倒されていた……。




「あ、あんな子供でも……あんなに、強いとか。やっぱり、外の世界は、怖いわ」




―――ミアは廃棄された北の灯台、そこを目指す。


役割分担だよ、クリア・カニンガムとリュドミナ・フェーレンはソルジェに任した。


ミアが取り戻すべき二人のために、『彼女』との対決を求めている。


そのために、脚を探した……。




「『ストラウス商会』からも、連絡要員が来ているはず。ディアロスの、ユニコーンなら。港にも、あっという間に辿り着いてくれる」





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