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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百七十四


―――床板というものは、意外とおしゃべりなんだよ。


少なくとも、家のなかの動きを余すことなく伝えるほどにはね。


ミアの手と足は、ちいさいけれど鋭敏だ。


床板が伝える軋み方で、まだ見ぬ敵の動きと心を探る……。




「……動いてる。ちいさく、あちこち。落ち着きがないね。立ったり、座ったりを繰り返している。迷いがあって、考えてる……ううん。悩んでいるんだ」




―――行動は心理を物語り、それらを隠し切ることは不可能だ。


とくに本気のミア・マルー・ストラウスの、獲物になった者はね。


ミアの想像力と洞察力が、敵の動きを心に描いた。


そいつは窓から通りを見ているんだ、とても神経質にね……。




―――ミアは背後を取っている形だけど、作戦を立てる必要があった。


だから、三秒使って組み立てる。


それで十分だよ、ミアには多すぎるぐらいだ。


敵のあわただしさは、見張りながら逃げ道を確保しようとしているからだね……。




―――いつ踏み込まれるか不安だということさ、それは罪の自覚があることを示す。


そいつの逃げ道を、絶対的に潰さなければならない。


だからミアは、テンポを作る。


街道には、工事のための石材を運ぶ馬車が走っているからね……。




―――その車輪は、なかなかに大きな音を立ててくれる。


だから、そのガラガラという音に『合わせる』ためにテンポを作った。


不自然さがないように、その音に完璧な同調を帯びた『そよ風』を放つ。


ミアはこの教会の内部構造を、『そよ風』の奏でる反響で掌握した……。




―――十分だった、もはやミアがガマンする必要はどこにもない。


無音を帯びた神速が、教会の床板を踏みつける。


振動が伝わり、広がるよりも早いのさ。


理不尽なまでの速さで、敵の背後に向かい急接近した……。




―――まったくの無音であり、通りを走る馬車の音にも紛れている。


経験値に埋め込まれた無数の知識と技巧が、完璧を究極にまで磨き上げていた。


その巫女戦士の背中を見た、背が高く腕も脚も長い。


初めて見る相手だが、だからといって容赦してやる気が起きるはずもなかった……。




―――背後から飛びついて、腕を首に回すのさ。


敵が反応するために必要な速度の十分の一も、かからなかったよ。


あまりにも理不尽なまでの速さであり早さ、ミアは本気で怒っている。


力はほぼつかわないが、頸動脈を完璧に曲げた右の肘関節で挟み込んだ……。




―――そのうえ、背後から首を前に押し込んでいる。


窒息しながら、首の骨をへし折られる。


致命的な威力が、同時に二つ巫女戦士を襲った。


意識が保てるはずもないけれど、ミアは意識の喪失も許さない……。




―――のめり込むように前方へと倒れ込む敵の顔面を、床に強く叩きつけた。


押し潰れるような声が口からもれるが、次の瞬間には激痛で身を固める。


ミアが敵の利き腕の肩を、外していた。


右の肩関節が脱臼して動かなくなる、次の瞬間には左の肩も外される……。




―――本当に解剖学を使いこなしたとき、ヒトの肩関節は簡単に外せるものさ。


大げさな体の回転も、てこの原理さえも要らない。


猟兵体術の神髄を、ミアは叩き込んだ。


窒息して脳震盪をさせて両肩を脱臼させている、数秒もかからなかったよ……。




「か、はあ、は、あう。う、く……っ!?」


「動くな。しゃべるな。殺されたくなければ、命令を聞け」




―――13才の言葉なんて、絶対に思えないほどの鋭さだった。


圧倒的な強者の命令は、心に響く。


やせた長身の巫女戦士は、『カール・メアー』のプライドなど忘れたよ。


ただのおびえた無力な女のように、涙を流しながら首を縦に振る……。




「こ、ころさないで―――ひ、ひい!?」




―――容赦はしない、ミアは怒っているからね。


彼女の細い首に、ナイフを押し付けた。


『ちゃんと痛みが分かるように計算しながら』、しっかりと脅したよ。


巫女戦士は全身を動かさないように、心の底から自主的な努力を始める……。




「それで、いい。情報を、吐け。お前は、誰だ?」


「に、尼僧ですっ。い、イース教の」


「『カール・メアー』か?戦士としての訓練をした体だった」


「そ、そう、です。『カール・メアー』……よ」




「そうか。私の探しているヤツと、関係がありそうだ」


「あ、あなたは、だ、誰なのよ……っ」


「猟兵。知っている?『パンジャール猟兵団』」


「りゅ、竜を駆る……竜騎士の……傭兵たち……っ」




「正解だ。私は、その『パンジャール猟兵団』の一人。ミア・マルー・ストラウス。ソルジェ・ストラウス団長の妹」


「……そ、ソルジェ・ストラウスの……妹……っ」


「怖がれ。それが、正しい。私は、残酷だし、怒っている」


「……わ、私は……」




「理由が、分かるよね。分からないなら、あんたは用済みなんだけど」


「わ、分かるっ!!分かる……わ。きっと、私は……情報を、教えられます」


「そう。なら、ナイフを離してあげるね」


「……っ。こ、子供……っ!?」




―――ミアは椅子を用意した、横たわるまま震え続ける巫女戦士の前にね。


そこに座って、冷たい視線で尋問対象を見下ろしている。


殺気が押し付ける重圧を浴びせられ、巫女戦士はガクガクとあごを震わせた。


どうにもならないことだけが、悟れたのさ……。




「さあ。情報を吐いてね、『カール・メアー』のお姉さん。殺されたくないよね」


「……は、はいっ」


「『カール・メアー』の誰かが、『ルファード』を襲撃した。お姉さんは、そのことを知っていた?」


「……な、何か、作戦があるのは、聞かされていました……っ」




「そう。素直で、いい態度だよ。お姉さんは、その作戦と連携しようとしている。『ルファード』でジーの屋敷を襲ったヤツは、東に……『オルテガ』の方角に逃げた。ここで、そいつを待っていたの?」


「……く、くわしくは……知らない。本当、よ。私は……命令されて、ここに来ただけ。こんな今にも戦いが始まりそうな……そんな街に、やってくるのは、不本意なことだったの」


「そう。誰が、お姉さんに命令したのかな?」


「…………え、詠唱長の、リュドミナ・フェーレンさま……ですっ」





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