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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百七十


―――心臓が打ってはならない拍を打ち、メダルドの脳は血が足りなくなる。

体を自力では支えられなくなり、素早く飛びついたミアに支えられた。

メダルドの意識は混濁して、時間の軸が揺らぐんだ。

たくさんの時間が見えて、たくさんの記憶があった……。




―――すべてはビビアナの姿であり、ビビアナの顔である。

ビビアナの声を聴き、ビビアナの動きを見た。

子供の頃のビビアナで、大人になった今のビビアナもいる。

つながる記憶が不安も呼び起こす、『未来』のビビアナだけは見えないからだ……。




―――周りの家族を失い過ぎているから、不安も大きくなる。

これまでも、これからも周りは自分を置いて冥府の川を渡るんじゃないかと。

どうにかしたいと藻掻きたくて、揺れる視界のなかで腕を伸ばした。

幻のビビアナにさえも、その腕は届かない……。




「……ビビっ。ビビ!!ああ、ああ……ッ!!」

「おっちゃん!!落ち着いて、落ち着きなさい!!私を見て!!深呼吸しなさい!!」

「……ッ!?ビビ……じゃない…………ミア……っ」

「落ち着いて。おっちゃん、深呼吸をするの。ヒトはね、ヒトの体は、心だけじゃなくて呼吸でも操れるんだから」




―――『人買い』として、ビジネスの技巧に長けた男だ。

ミアの言葉も、およそ理解する。

深呼吸をあやつることで、大きな商談前でもいくらか落ち着けられた。

「落ち着くべきだ、それが全てを成し遂げる」、父親が伝えた一族の教訓が頭に響く……。




―――メダルドは、深呼吸を繰り返す。

ミアはそれを促してやるように、両腕を大きく広げて呼吸を作った。

自分のためでもある、この手紙が与えた動揺は当然ながら大きい。

それでも信じるべきを信じて、疑うべきを選ぶ必要がある……。




「……おっちゃん。フリジアは、裏切らない」

「……それは……それは、オレもそうだとは思いたい。だが、この報告に書かれている。『カール・メアー』は、あの子には、フリジア・ノーベルにとっては、家族だ。一族だ。それが接触してくれば、そちらに従ったとしても、おかしくはない」

「ううん。フリジアは、ちゃんと『カール・メアー』を裏切れるよ」

「……言い切れる、のか?」




「当然だよ。だって、フリジアにとって、ビビはとっても大切な親友なんだから」

「……それは、そうかもしれないが……」

「フリジアは、『仮面』を使っていたもん。あれは、きっと……ううん。絶対に、『カール・メアー』を裏切るための方法だ」

「……そう、かもな。普通のままじゃ、素顔では、『カール・メアー』に堂々と逆らえたりしない。だから、あれを選んだ……」




「弱いからじゃない。フリジアは、本当に、『カール・メアー』のお山を大切にしていたんだ。でも、それを裏切るには、ちょっとだけ『仮面』の力が必要だっただけ」

「……だが。状況は……うちの部下は、不確かな情報は省くようにしつけている。それが、この報告を上げて来ているんだ」

「信じるべきは、何?疑うべきは、何?」

「……猟兵は、何を、信じるんだ?」




「猟兵が信じるのは、行動だよ。ガルフおじいちゃんが、教えてくれた。言葉じゃない。見た目じゃない。行動。そこに、全部がちゃんと含まれている」

「……行動……フリジア・ノーベルと、『カール・メアー』が、巨大な獣とやらで襲撃して……ビビを誘拐した」

「うん。ビビが誘拐されたのは、真実だと思う。でも、フリジアが『カール・メアー』と共に行動している模様って、書いてある。憶測が混じっているよ」

「……つまり、確証を得られていない」




「そうだよ。この報告を受けたヒトは、『カール・メアー』を警戒している。襲撃者が『カール・メアー』だって、ハッキリしているから。でも、フリジアについては、確信を抱けていない。自信がない。それをさせるに足る、行動があったから」

「……どんな、行動だろうか」

「フリジアが、ビビにしていた行動かもしれない。ビビを守ろうとしていたんだ」

「……それは、そう、だろうな。あの子は……フリジアは、ビビを好いているように見えた」




「うん。それは絶対だよ。だから、『カール・メアー』と決別しようと、『仮面』を使ったんだから。自分を押し殺してでも、ビビのために戦うつもりだった」

「……知っている。それは、オレも……」

「フリジアは、絶対に裏切らない。それは、信じられるよ」

「……だが、襲撃者と……一緒に動いているようだ」




「それを、しないとビビを守れないとすれば?」

「……何かで、脅していると?」

「『カール・メアー』は、女子ばっかりだから。そういうの、得意だと思うの」

「…………確かに、な。宗教というのは、戒律で縛るのが得意だ……」




「おっちゃん。落ち着いて、聞いてね」

「……ああ。大丈夫だ。落ち着けている。深呼吸のおかげでな」

「ビビは、本当に危険な状況ではあると思う」

「……ああ。そう、だろうな」




「フリジアは、そのときなら『カール・メアー』に従える。ビビを守るためなら、自分の本心だって、押し殺せるんだから」

「……仮面は、そういう決意かい」

「うん。それに、これは……私の、直感でもあるの。フリジアはね、強いよ。ちょっとしたキッカケがあれば、化けられるくらいには強い。『カール・メアー』の襲撃者は、フリジアを倒せなかったのかもしれない」

「……あの子が、化ける……か。戦闘に関しては、オレの意見よりも、猟兵の直感の方がはるかに正しいだろうからな」




「信じて欲しい。フリジアは、弱い子じゃない。ビビを守る。自分の命に代えても。そういう覚悟は、とっくにしてた」




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