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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百六十六


―――『カール・メアー』の猛毒だ、シンプルだけど効果は強い。


ビビアナもエルフの薬草医も、とっくの昔に意識は消え失せていた。


リュドミナは美しいハミングを響かせながら、薬草医に近づく。


約束を守るんだよ、ビビアナが自ら毒を飲んだからね……。




―――その口を開かせて、薬瓶を突っ込むようにして解毒剤を与えた。


フリジアは、もちろん激怒している。


怒りと憎しみがあふれて揺れる瞳になって、リュドミナに襲い掛かった。


獣のように速いが、リュドミナには敵わない……。




―――回避されて、次の瞬間には叩きのめされる。


解毒は完璧だったとしても、その影響はまだ体に残っていた。


床に叩きつけられて、身が弾む。


体は痛いが、それ以上に心が痛い……。




―――必死な腕が伸ばされて、リュドミナの足首を掴んだ。


ハミングを継続するリュドミナは、フリジアの頭を踏みつける。


割れるような痛みだが、それでも怒りが優先された。


起き上がろうとする、奪い取りたいと考えているのだ……。




「ビビに、解毒剤を……ッ。寄越せ……寄越せよ……ッ。じゃないと、お前、ぶっ殺してやるぞ……ッ」


「『あらあら。絨毯みたいに這いつくばってしまっているのに。そんな強気な言葉を使うなんて……滑稽だと思わないかしら。笑わせたいの?』」


「ビビ……ビビっ。助けてやる、私が……お前を……お前を、死なせるもんか……っ」


「『そんなに女々しく泣いていると、体にムダな力が入り過ぎてしまうわよ。『カール・メアー』で叩き込まれた武術の教えさえも、忘れてしまったのかしらね』」




「う、ぐうう、あああっ!?」


「『背教者の脳は、どんな色なのか見てあげましょうか。私は、芸術用の解剖講座も見たのよ。ヒトの中身は、とても美しいの。丁寧に解剖しながら、探したの。歌の起源を。声の作られる場所を。くわしいのだけれど、もっと勉強するのもいいかもね。背教者の脳で』」


「ぐ、ぐ、ああああああ……ッ!?」


「『貴方は、これでも尼僧だから。泣いて乞うなら、許してあげるわ。どうするの?戻って来るのなら、慈悲深く抱きしめてあげるわよ?』」




「も、もどらない……こ、殺す。奪う。助けるんだあ……ッ」


「『フフフ。どこまでも、背教者なのね。これでは、救えないわ。罰してあげないと、いけないわねえ』」


「わ、私は……どうだっていいんだ。ビビを、ビビを……ッ」


「『貴方もビビアナさんの生贄になりたいのね。じゃあ。こういう罰を、与えてあげましょう』」




―――リュドミナが、薬瓶を床石に叩きつけてしまった。


それが何を意味しているのかを、フリジアは気づく。


叫びながらそれに手を伸ばす、当たり前だよ。


だって、ビビアナを助けられる薬が目の前で床に飛び散ったんだから……。




「『ムダよ。床に飛び散った薬の液なんて、どんなにかき集めたところで足りないわ。どうにもならないの。指からこぼれ落ちていくのが分かるでしょう。それは、ビビアナさんを助けられたかもしれない可能性。ほうら、空気に融けて、地面に吸われていく』」


「いやだ……やだっ」


「『嫌がったところで、どうにもならない。これは、運命なの。ビビアナさんは、罪深い『狭間』として、このまま死ぬのよ。生まれて来た罪を償ってね!』」


「そんなの、嫌だよお……ッ」




―――泣きじゃくるフリジアを見下ろしながら、リュドミナは計略を固めた。


実際のところ、リュドミナも追い詰められている。


体力も魔力も残り少ない、フリジアを圧倒できたのは同門だからだ。


他の戦士たちの包囲を打ち破るためには、力が足りない……。




―――この邪悪な詠唱長は、絶望にむせび泣くフリジアから足をどけた。


必要以上に、痛めつけるつもりはない。


残酷な企みがあり、それを成し遂げるための協力者にしたてあげる必要がある。


聖なる母親みたいな微笑みになりながら、フリジアのそばにしゃがみ込んだ……。




「『フリジア・ノーベル。ビビアナさんを、そんなに助けたいのね。おぞましい過ちだけれど、貴方にとっては、彼女は本当に親友なのね』」


「そ、そうだ……ビビは、ビビは……っ」


「『貴方が、そこまで心の底から彼女を守りたいと言うのなら。私が助けてあげてもいいのよ』」


「な、なに……っ!?」




「『私だけが、ビビアナさんの解毒が可能。手持ちの解毒剤はもうないけれど。私が使っていた拠点にまで逃げられたら、渡してあげてもいいわ』」


「…………そ、そんなこと―――」


「『―――信じられないなら、ここで、ビビアナさんは死ぬだけね。どんなに腕がいい薬草医でも、知らない症状には対応不可能。『ブランガ』の毒じゃ、ないものね。どうするの?5秒以内に、答えてくださいね。4……3……2……』」


「……きょ、協力するからっ。ビビを……助けろっ!!」




―――悪魔との契約だ、それは百も承知している。


それでも助けてあげたいのだ、青ざめて倒れたままピクリとも動かない親友のことを。


リュドミナ・フェーレンは、満足した。


床から助け起こしてまでやるんだよ、フリジアのことをね……。




「『お帰りなさい。『カール・メアー』に』」




―――心の奥まで、その言葉は突き刺さった。


呪術ではないけれど、それ以上の呪いでもある。


どれだけの覚悟を使い、フリジアが過去と決別したのか。


それをリュドミナは理解しているからこそ、意識させたんだ……。




「『二重の背教者として、罪科を背負うのよ。私に協力しなさい。ビビアナさんは、私が抱えていてあげるから。邪魔する戦士を、貴方が倒して道を開くの。やれるでしょう?……やれなくちゃ、ビビアナさんはこのまま死んじゃうんだから』」


「……や、やる。やるから、急げ……」


「『聖なる任務のために、やらせて下さい、リュドミナさま。そう言ってみなさい』」


「せ、聖なる任務のためにっ。やらせて下さい、リュドミナさまっ!!」




「『はい。よく言えました。さあ、行きましょう。音が……教えてくれています。あちらからなら、脱出できる。邪魔者を、全員、殺しなさい』」


「う、うう……ッ」


「『その仮面をつけて、自分を騙して、強さを得なさい!!』」


「わ、わかったからっ!!」




―――仮面を使わせる、フリジアの仮面遣いとしての才能を評価しているからだ。


とてつもなく純粋であり、ビビアナを信じているからこそ強くなれる。


肉体の限界も精神の限界も、演技で騙して底上げするんだ。


『アルティミス』が、戻る……。




「『さあ、始めましょう。脱出よ』」


「…………任せろ。守るんだ。ビビを」




―――詠唱長の耳が、示す方角に三人は進む。


戦士たちがビビアナの誘拐に気づき、対処しようとするけれど。


『アルティミス』の剣が、容赦なく叩きのめした。


強かったよ、今の『アルティミス』は『彼女』を圧倒したときよりも……。




―――泣きながら、心の奥で謝りながらも剣を振るった。


返り血を浴びても、耐えるんだ。


『カール・メアー』も、『ルファード軍』も裏切って。


自分が罪科に呑まれながらでも、ビビアナを助けたくて戦い抜く……。




―――リュドミナは、微笑みながら見守る。


その内心では、『アルティミス』の強さを警戒しながらもね。


『彼女』と同じか、それ以上に暗示を受け止められる器でもある。


それは才能があったからだ、フリジアにね……。




―――『使いつぶすべきだ』、リュドミナは考えた。


フリジアに体力も魔力も、残しておくことは危険だ。


これを完璧に制御する自信が、リュドミナにもない。


戦い方まで命じて、魔術も使わせる……。




―――戦士たちの悲鳴が上がり、裏切りを罵る怒りの言葉も放たれた。


泣きながらでも、戦える。


二重の裏切りの苦痛のなかで残ったのは、ビビアナへの友情だけだから。


悲しくて苦しい戦いの道を貫いて、その場へと到着する……。




―――詠唱長の優れた聴覚が、見定めた場所だ。


ちょっとした地下の広がりで、角が丸みを帯びている部屋。


その直上で、『ゴルメゾア』が地面を殴りつけた。


天井が破裂して、『ゴルメゾア』の腕が地下へと伸びる……。




―――その巨大な手のひらに、ビビアナを抱きしめた詠唱長が飛び乗った。


フリジアを見る、まだ体力が残っていたのは誤算である。


あちこち傷だらけに見えるが、それは返り血かもしれない。


判断はつかない、ここで置き去りにしたくはあったものの……。




「私も、ついて行くぞ。ビビを、助けてくれるまで、何処までもな。助けてくれないなら、お前を殺す」




―――フリジアが発したとは、到底考えられないほどの低い声だった。


気圧されたわけではない、たんに手負いの獣は危険だと判断した。


ビビアナは必要なんだ、メダルド・ジーに対しての取引に。


下手を打ちたくない悪魔のような詠唱長は、うなずいた……。




「『もちろん助けてあげますとも。さあ、行きましょう。私に抱き着きなさいな、フリジア・ノーベル』」




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