第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百六十三
「フリジアっ!?だ、大丈夫!?」
「う、うう……っ。だ、大丈夫だ。ちょっと、しびれるだけだから……っ」
「『ウフフ。ダメですよ。フリジア・ノーベル。強がって、自分を偽ろうとするなんて。分かっているでしょう?私が使う毒は、ちゃんと、致死性の毒ですよ』」
「……こ、こちらにっ!!処置を、しますっ!!」
「『エルフのお医者さま。そんな余裕を、この私が与えてあげるなんて、思わない方がいいですよ』」
「そ、その通りだっ。私に、任せろっ!!勝つ……勝てばいい、か、『仮面』の力を借りたら、まだ戦えるような気がする……っ。う、うぐうっ」
「バカ言いなさい、フリジア!!ふらついているでしょう!?」
「『動きなさい。そうしたら。それだけ早く、死に近づけますからね』」
「こ、こいつ!?」
「ビビ……逃げろっ。私は、やれる……『アルティミス』……ッ。力を、くれっ」
「『そんな仮面に、魔法は宿りません。私が、否定してあげます。それは、一種の催眠術でしかありません。覚悟や心構えを、作り……貴方が本当に絆と尊敬を持っている、そこの『狭間』に心理的な依存を行うことで得られた、『妄信』の一種に過ぎないの』」
「だ、だとしても。強くなっていたぞ、私は……ならば、ならば―――また、やればいいだけじゃないか!!」
―――黄金猫の仮面をつけて、フリジアは呼吸をコントロールする。
魔力の制御をしようとして、それに成功する。
全身を蝕む毒には、魔力の属性が宿っているからね。
それを中和するためにしているのさ、まるで猟兵みたいな技巧と言える……。
「『なかなか、上手じゃありませんか。貴方も、心に大きな空虚がいますからね。本当に『アルティミス』を創作して、心に招いたなんて!』」
「や、やるだろ……っ。自分でも、ビックリだぞ……っ」
「『天賦の才があったのですね。貴方も私の道具にしてあげれば良かったわ』」
「お、お前は……っ」
「『でも、人格を入れてあげられるほど、私を信じてくれていませんでしたからねえ』」
「と、当然だ……っ。怖い笑顔だった」
「『あら。飴をあげたのに?美味しそうに食べていたじゃないの。たくさんの子供たちと同じく。美味しそうに。とても幸せそうに』」
「……それと、これとは、別だ……っ」
「まさか、フリジアたちに食べさせたその飴に……変なモノ混ぜていたんじゃないでしょうね!?」
「『賢いのね。それとも、疑り深いのでしょうか。あるいは、ここでも、使っていたんです?ヒトの心に影響を与えられる薬を?エルフさんのお薬ですか?』」
「ジーの一族は、そんな薬は使わない!!私たちが、使っていたのは、あくまで職業倫理と、権威よ。正しい振る舞いをすれば、ヒトは、ついて来てくれる!!」
「……そうです。お嬢さまも、メダルドさまも、奴隷たちを残酷に扱おうとはしなかった」
「『ウフフ。『人買い』ごときにも、矜持というものがあるんですねえ』」
「うるさい!!ヒトの心に、き、『寄生虫』みたいに入り込むような外道に!!馬鹿にされる筋合いなんて、ありはしないんだから!!」
「『怒っちゃいましたか。そういう態度は、貴方が背負っている罪悪感の現れでしょう。『狭間』なのに。亜人種を奴隷にして、売り払うなんて。なんて、嘘つきなのかしら』」
「……そ、それは……ッ」
「……ビビ、聞くな。こいつの言葉こそが、毒なんだ……ッ」
「わ、分かっているわ」
「『詠唱長ですからね。言葉が、ちゃんと。信徒の心にも届くように。調整する技巧を確立しているのです。もちろん、異教徒たちにも通じるように。だって、布教活動のためにも必要ですし、異教徒に罪科の重さを与えて差し上げるのも、言葉の力ですものね』」
「……ほんと、厄介な外道だわッ。嫌な言葉でも、聞いてしまう……ッ」
―――やさしさに偽装した、とても耳心地の良い声だからだよ。
詠唱長リュドミナの話術で、聖歌の達人の美声が使われているのだからね。
その洗脳の力は、ちょっとした呪術以上の力だった。
話術というのも極めれば、とても怖い兵器にもなるのは歴史が証明済みだ……。
―――ビビアナに与えられた高等な教育が、『中海』沿岸部の知識が守ってくれる。
リュドミナの言葉が、自分に突き刺さる理由をビビアナは素早く考えて対策したのさ。
理論武装していく、理解してリュドミナの話術の仕組みを分析してね。
権威を保てばいい、それが話術に呑まれないための有効な防衛策だよ……。
「私には、親友がいる。恋人も……部下も。叔父さまも……」
「『そうなのですね。たくさんの奴隷たちを犠牲にして、彼らから搾取した幸せと富で、貴方は幸せを買ったんですね』」
「ビビに……失礼過ぎるだろうがああ!!」
「『あら。まだ動けるなんて、さすがは『カール・メアー』に長くいた子』」
―――フリジアの斬撃は、素早かった。
当たらなかったのは、リュドミナが酷いヤツだからさ。
『彼女』の身体能力を、限界以上に引き出して使っているから速さがある。
『道具』としての使用をリュドミナは望み、『彼女』もそれを受け入れていた……。
―――悲しくて、残酷な仕組みだよ。
穢されて壊された『彼女』は、自分に勝ちを見つけられない。
だから尊敬する『聖なるリュドミナ』の、『道具』にされたがっていた。
そうすれば、価値が生まれると信じているからだ……。
「『あわれな捨て子に、皆がたくさん捧げてくれたおかげです。フリジア、貴方には王道の『カール・メアー』武術を。レナスには……孤独の絶望を。皆が、対応を持て余してしまった、悪人たちの罪の被害者でしかない、この子を。ああ、本当に。全ては、女神イースのお導きだわ』」
「お前はッ!!ゆ、ゆるさん―――」
「『毒が回り過ぎたわね。鼻から血が、出てるわよ。もうすぐ、死ぬ―――』」
―――ビビアナが、リュドミナに襲い掛かっていた。
華麗な動きで、リュドミナは避ける。
だが、ビビアナもあきらめはしない。
『ハーフ・エルフ』だ、身体能力は十分に高いと判断している……。
「私なら、弱ったお前なら倒せる!!その『女』のためにも、勝つ!!」




