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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百五十八


「『その通り。あれは、離さないだろう。あそこまで、気に入ってしまえば。レナスは、リュドミナ・フェーレンに、永遠に融けない飴でもあげたのかもしれない。虫歯になってしまうかもしれないな。過ぎたる甘さは、ヒトに噛みつく』」




―――役者と同じだよ、仮面を使いこなせば性格も口調も変わる。


当然のように『語彙』だってね、祭りで悪鬼のお面をかぶったとき。


君は、『どれだけ言葉を忘れてしまう』かな。


せいぜい、獣のように唸ったり吼えたりさ……。




―――仮面を使いこなすとき、ヒトの心は変わってしまう。


ビビアナの催眠術めいた誘導が、フリジアをその境地へと至らせてしまった。


難しい言葉だって、今のアルティミスには使える。


何せ『カール・メアー』育ちだ、記憶のなかには難解な説法の数々があった……。




―――フリジアにとって、『アルティミス』は一種の神格だ。


気高く賢く強い、フリジア普段の性格よりもね。


これは一種の演技であるし、神さまを憑依させる巫女の技巧でもある。


武術と信仰の経験があるフリジアには、到達しやすい境地なのさ……。




「……あの『女』は、啓示を聞いたとか、言っていたわね」


「『啓示……啓示ねえ。私は聞いたコトがない。イース教全体では、ちらほらあるが。私は……女神イースの声なんて、聞こえないし……そもそも、聞こえなくても分かるからいいだろう』」


「……分かる?どういう意味かしらね」


「『教義と戒律に従いたければ、それでいい。信仰に、決断などいらない。分かっている。それ以外をしたいときにだけ、助言を必要とするのだ』」




「啓示なんて、嘘だと?」


「『あいつには聞こえたのかもしれないな。だが、本当に女神イースがささやいたのか?『あんなに間違っている』あいつなんかを、喜ばせるような都合の良い言葉を、もらえるとは思えん。ニセモノを、本物だと信じたいだけだろう』」


「ニセモノの啓示、ね。たしかに、私も神さまの神秘を信じられない。『ギルガレア』は、いたけれど」


「『実在する神など、惑わすだけだ。安心はするが、それでは救えない者たちを、救ってやるために不在の女神イースはいる』」




―――仮面の力は、何とも偉大なものだった。


女神イースに依存したがっている聖なる少女は消えて、今はまるで賢明な聖戦士だ。


ビビアナは、自分とフリジアの才能の融合に冷や汗をかく。


親友の別人格を、深層心理の底から引きずり出してしまった気持ちになったよ……。




「不在の神だけが、救える……ね。奇跡なんて、ない方が、みんな幸せなのかしらね。ゆっくりと、人々だけの力で世界を変えて行った方が……?」


「『感傷的になるなよ、ビビ。私たちは、正しく戦うべきだ』」


「……そうね。敵について、より知らなくちゃならない。リュドミナ・フェーレンが、嘘の啓示を吹き込んで、あの『女』を洗脳したとする。問題は、何を吹き込んだのか」


「『蟲だろう。蟲で、女神イースを作る。その方法までは、見えん。だが、狙われているのは、ビビと……ビビで動かせる、メダルド・ジー』」




「……このゲームは、私が敵の手に堕ちなければ勝てそうだわ」


「『ああ。そうらしい。私は、勝つぞ。ビビのために、私のために。それに、女神イースと、あわれでみじめなレナス・アップルのためにも』」


「やさしいのね、フリジア」


「『当然だ。私は、『アルティミス』。『女と子供の守護者』なのだ。弱者を守る。女神イースの最初の弟子だ』」




―――フリジアが、恐るべき成長を遂げていたころ。


『彼女』は地下へと、到達しようとしていた。


『ゴルメゾア』を追いかけて、戦士たちは分散してしまっている。


地下は十分に守られているからこそ、『ルファード』の城塞の守りに戦士を割いた……。




―――潜入の技巧を有する『彼女』なら、この程度の守りを破るのは難しくない。


隠れながらやり過ごし、殺さなければならないなら殺す。


残酷な判断力と、高度な暗殺者の技巧により静かに深く入り込んでいた。


こちらの警備に慢心があったわけじゃない、たんに『彼女』が有能なだけ……。




―――返り血を浴びるほど、今の『彼女』は冷静になれた。


赤い赤い記憶がある、赤い竜が大嫌いなんだよ。


血にまみれたような色で、『狭間』の少女が乗っている。


夢に見ていた啓示のように、あの光景は心にやってきて忌々しくも乗っ取っていたんだ……。




―――殺したくてしょうがないほど、生粋の暗殺者は落ち着ける。


女神への聖なる信仰と、はげしい憎しみが組み上げる復讐心。


どちらもが、使命の化身へ変えるコツだ。


無音を帯びた潜入は続き、標的の気配はすぐそこ……。




―――「言葉を使いましょう。自分に言い聞かせるのです」。


「正しい言葉の使い方が必要なのは、歌だけではないのよ」。


「自分の心を操るためには、正しく単語を並べていきなさい」。


「『貴方には、女神イースの啓示があるわ。それを実行するためには、間違いを犯してはならない。慎重さが要る任務のときには、常に私の言葉を心に招き入れなさい。詠唱するのです』」……。




「……はい。分かっています。敬愛する、詠唱長リュドミナ・フェーレンさま。私には、聖なる任務がある。啓示があります。啓示が。間違えません。教えられた通りに、この怒りも、この憎悪さえも、御してみせます。心も体も、貴方がくれた言葉に委ねます」




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