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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百五十六


「私には、あの『女』の気持ちは分からない。でも、アンタは、分かっているでしょ」


「……うん。あいつの歌は、悲しいが……見事で……歌を、やはり好きなのだと思う。とくに聖歌は、女神イースを讃えるものだし……」


「好きなことからは、逃げられないのもヒトの本能よ」


「あいつ……リュドミナさまに、会おうとしたのかも。『プレイレス』に任務で行って、そこで……いや、もっと前から……ときどき、会っていたのかも。私が知らないだけで。いや、どこか……避けていたのかも。『私は、あいつを……見たくなかったのかもな』」




―――誘導の技巧は、ヒトを素直にさせる。


性格や理性が封じてしまっている本音を、明らかにしてしまうんだ。


フリジアはビビアナの技巧に、とても強く『入っている』。


残酷なまでの無邪気さで、自分の内心も周囲も見通せるようになるのさ……。




―――フリジアはとてもいい子だけど、『彼女』はあまりにも痛ましい。


ヒトは誰しも、不吉や不幸を本能的に避けてしまう。


本能が避けた事実は、理性がちゃんと隠すように動くんだ。


忘れてしまったり、意識の果てに追いやったりする……。




―――意地悪なヤツが、意地悪したのを覚えていないのと同じさ。


本能の持つ自浄作用、心は自分にさえ嘘をついて心を守る。


だからね、それを自覚して取り戻したフリジアは失った記憶も使えるんだ。


本物の尋問術は、ちゃんと忘れていた事実さえ引きずり出せるんだよ……。




「……見えた。目を閉じたら、まぶたの裏に見えたぞ。あのとき、レナスが歌ったとき。リュドミナさまも、聖堂にいた。席にいて、ほめていた。誰よりも、強く拍手して……うっとりしていた。それが、私はイヤだった。『レナスは不幸だが、気持ち悪いと思っていた』」


「気持ち悪いヤツを、『カール・メアー』の高い身分にいるリュドミナが褒めた。それが、アンタには嫌でしょうがなかったのね」


「……うん。私は、嫌なヤツだ。私こそが、気持ち悪い……あいつは、あわれむべきみじめな虐待の被害者なんだぞ」


「今よりガキならね、残酷なのは当然なのよ。だって、子供は残酷で素直だもの。あの『女』は、あまりにも扱いが難しいから、しょうがないわ」




「……ああ。でも。私は、成長したんだ。あいつを、レナスをちゃんとあわれんでやれるハズだ。あのみじめで、悲しい、被害者で……マジメな同胞……元・同胞を」


「そうね。アンタは成長したのよ、フリジア。だから、あの『女』にも、正しく対処できる」


「『うん。殺す』」


「敵を倒すのも、慈悲で倒すのも、アンタの使命だからね」




―――『人買い』の技巧に長けているビビアナは、最高の理論武装の術者でもある。


これは催眠術にも近いもので、フリジアを『より完成した戦士』に変えた。


護衛の戦士は、その進化を目の当たりにして背筋に冷や汗をかいていたよ。


正しい判断だ、フリジア・ノーベルは彼の三倍は強い戦士に化けたのだからね……。




―――ビビアナは、別に親友を洗脳して『強力な殺人狂』を作りたいわけじゃない。


フリジアが容赦や手加減をせずに、格上である『彼女』と戦えるようにしたいのさ。


そうでもしなければ、次に戦ったとき同情心のせいで殺されるだろうからね。


友情ゆえの行いでもあり、戦場において実に正しい心理の構築だよ……。




「それじゃあ、話を元に戻しましょう」


「うん。さっきよりも広く見える。深く見えるぞ。リュドミナさまからも、レナスに声をかけたのだ。レナスの歌声に、魅了されたのだと思う」


「レナスが、特別な戦士になれた理由の一つかしらね」


「『ザクっと心に刺さったな。痛かったぞ』。そう、あいつは歌声で評価されたし、それだけじゃない。武術の訓練をさせれば、強かった。才能があるんだ」




「失い過ぎてるからね。しかも、男が嫌いでしょうから。あの『女』は、金持ちの男の犠牲者だから」


「……うん。『想像したくないが、とても気持ち悪い行為をさんざんされてしまったのだろう。そんな目に遭えば、男を殺すための技巧の修得は早い』」


「尼僧武術の源流は、間違いなく護身術だからね。あれは、男に犯されないための動きに見える」


「『そうだぞ。女神イースに純潔を捧げているのだからな。ああ、そうそう。尼僧たちは、もちろんレナスと武術の訓練するのも嫌っていたな。表面では、取り繕っていたが、本心は駄々洩れだった。私たちは、思っていたよりも意地悪らしい』」




「そんなものよ。誰しも、『異分子』には残酷なのがヒトの本能。『カール・メアー』の尼僧たちも、ヒトの子だからね」


「『しかも、亜人種や『狭間』を積極的に排除しようとしている。それは、もともと、とても攻撃的な面もあったコトの証明なのだ』……私は、悪い子だったかもしれん。やはり、お山は、少し間違ってもいる」


「今は、成長した。だから、私はフリジアの親友でいられる」


「うむ。ありがたい。おかげで、見える……お山の間違いも、お山が進むべき新たな道も」




―――フリジアは賢くはないけれど、賢くない方が純度も高い。


彼女は宗教改革者の才にも、恵まれているんだよ。


『歪んで特化してしまった宗教過激派を、修正して新たな形に導きたい』。


そんな願望を、この催眠状態の瞬間にハッキリと自覚していた……。




―――未来の目標を得た者は、強くなるものだよ。


これはビビアナの意図した結果ではないけれど、良き方向に作用する。


フリジアは精神的に、より完成した戦士になった。


生存競争においては、この急成長は有効となる……。




「『虫けらのように気味悪がられていたが、レナスは明らかに殺し屋の才があった。男を殺したいし、ぐちゃぐちゃに台無しにされた自分を大切だとも思えないんだ。自滅するような攻め、壊れるような鍛錬。何でも喜んだ。自分を罰すれば、聖なる存在に近づけるとでも考えていたのかもな』」




―――フリジアは容赦なく、真実しか見ないし語らない。


子供のように純度が高くて、知覚も認識も思考もストレートだ。


ビビアナは、少し自分の術が利き過ぎている気がしていたよ。


でも、『今は緊急事態だからしょうがない』とも考えられるあたりが天才だ……。




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