第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百五十四
「……それを訊いているのは、私の方なんだけど?あんたも、『カール・メアー』の一員だったわけでしょう?」
「そうは、言うが……」
「ちゃんと考えてみなさい。不得意でしょうけれど、まずは絶対に信じられるあの『女』の行動を一つだけでもいいから行ってみなさい」
「……女神イースに、絶対だ」
「他にも、あるでしょう」
「うええっ。一つじゃなかったのか?」
「次から次に、考えつく限りを、想像して口にする。はい、スタート!!」
「お、お山に忠誠も誓っているはず、諜報活動もしていた、歌が上手い、く、くやしいけど強くて、私よりも才能があるっ」
「有能だった。明らかに、あんたよりも」
「う、うるさい。私だって、必死にがんばって生きているのだ」
「あちらも、そうでしょう。死だって、恐れていないみたいね」
「そう、だな。私も、少しは強くなったが…………実戦を経験したからに他ならない。あいつは、つまり、何度も、何度も、『カール・メアー』のために死線を潜り抜けた。これも、信じられる」
「歴戦の猛者。組織において、異端者でもありながら」
「まあ、男だもんな」
「女の群れっていうのは、残酷なものよ。基本的に、とっても保守的で、序列に対して厳しいのが一般的。宗教極右の組織ならば、とくにその傾向はあるでしょう」
「意地悪は、していなかった……だが、あいつは……あの歌は……孤独だった。あんな目に遭った者への接し方は、私たちにだって分からなかったから……」
「孤独、これも真実ね。あの『女』について、集中して想像を働く。目を閉じてみてもいいわ。『外』を意識しない。あの『女』を、想像力で見るの。どんな人生?どんな目に遭っていた?『誰がそばにいた』?はい、想像して、言葉を口にする」
「……孤立は、している。特別な戦士だった。特別とは、聞こえがいいが。あいつを同情の目で、見ずにはいられない。尼僧はやさしい。巫女戦士も、あいつを責めはしない。あいつは、被害者だったから……だから、みじめな気持ちでもいたのだろう」
―――ビビアナが受け継いだジーの一族の知恵は、フリジアの心を操る。
物事の考え方を、与えているんだよ。
催眠術とは言わないが、教師が生徒によくやるような誘導だ。
目を閉じたフリジアには『見え始めている』のさ、『彼女』の苦しい日々が……。
「きっと、一人じゃ耐えられないわね」
「……そう。特別な戦士だ。おそらく、『カール・メアー』で、唯一の男……いや、元・男なのだろうか。どう扱っていいかも分からんような、悲惨な立場……女神イースは、救ってくれただろう……私と同じだ」
「そうね。ヒトが生きるには、衣食住だけじゃ足りない。承認欲求は、必須の栄養よ。無ければ心が枯れる。あの『女』も、『カール・メアー』の任務で、満たされた」
「……盲目的、だと思う。妄信だ。あいつには、例外はない……つまり、あいつは、本気なんだ」
「異教活動という、『カール・メアー』にとっては禁じられた手段をも選ぶ。本気で、正しいと信じている……あの『女』は……」
「……気が狂っているのかもしれないが、女神イースの啓示を受けた」
「どんな啓示なら、あそこまで狂えそう?」
「……信じるに、足る…………何か、があった」
「アンタなら、『寄生虫』の使い方を見て、女神イースに貢献できる方法を思いつくかしら?」
「それ、は…………っ」
「何か、思いついたでしょう」
「た、大した考えではない。む、むしろ、異端的で、恥ずべきというか」
「恥ずかしがってる場合じゃないから、言いなさい。嘘はつくな。『人買い』の目には、何だってお見通しなのよ」
「こ、こわっ」
「私は怖い面も持っている。賢いって、そうなの。ほら、アンタも賢くなりなさい。私が赦してあげるから、想像してしまったコトを洗いざらい、素直に話して。それが、状況を良くするのだから」
「う、うむ……やってみるよ、ビビ……」
―――『人買い』の尋問術は、見事なものだった。
ここにガルフがいれば、心からの感動をしていただろう。
今のビビアナはフリジアにとって、一種の『支配者』だ。
『支配者』だけが与えられるものだよ、自分でさえ認めたくない考えを口にする自由を……。
―――中海の演劇術にも近しい、序列の技巧だ。
『支配者/教師』に促されてこそ、『被支配者/生徒』は自由に安心を得る。
『人買い』の職業倫理を全うした結果が、この尋問術なのだろう。
フリジアは、信頼できる教師に手を取られた子供のように安心して口を開いた……。
「『うらやましい、と思ってしまった』……口に、するのも、恥ずべきだが」
「何が、うらやましかったのかしら?」
「それ、は……認めがたいが」
「私が、そばにいる。許してあげる。だから、言ってもいいわ」
「……うん。ビビは、力強いな…………あの『寄生虫』を見て、『うらやましい』と思ったのは、一つだけだ。異教徒どもは……大昔、『オルテガ』で……『ギルガレア』の、一体を、創った……」
「神さまを、創れる…………」
「そうだ。『うらやましい』じゃないか?」
「……私は、少し怖くなっているし、『カール・メアー』の考え方はアンタが得意。どうして、『うらやましい』のか私に教えて」
「……『女神イースを、この世界に再臨させられるかもしれないからに決まっているじゃないか』」
「……『寄生虫』で創った神さまでも、アンタたちは許せるの?」
「……『いないより、マシだ』」
「そう、かもね」
―――ビビアナの尋問術は、本当に見事だった。
厚い信仰心を持つフリジアと『彼女』の、最大の恐怖を紐解かせたのだから。
『カール・メアー』に救われて、女神イースのために働くこの二人。
女神イースを敬愛し信仰している者の最大の恐怖、『女神の不在』だ……。
「……『女神イースが再臨なさるのなら、それは素晴らしいコトじゃないか。女神の奇跡をいくらでも使ってくださるのだから。私だって、家族を……レナスは、悲しくない歌を歌えるかもしれないし……何より、全ての者たちが救われる。もう、怖くなんて、ないんだ』」




