第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百五十三
―――ビビアナの尋問が始まり、戦士たちは彼女を守るために動いた。
フリジアに見張りがついたが、二人は納得する。
護衛として認識すればいいのだから、問題はないことだとね。
『彼女』と『ゴルメゾア』だけが、当面の脅威だった……。
「あの『女』について、詳しく話しなさい」
「う、うむ。私も、多くは知らないのだが……生い立ちと、『カール・メアー』に、来ることになった経緯は、話せる」
―――フリジアは『彼女』の悲惨な生い立ちを、伝えていく。
去勢についての語りは、二人よりも護衛の戦士が青ざめてしまっていた。
その脅威は、やはり男の方が分かるだろう。
自分の性別はアイデンティティを構成しているんだ、それを奪われるなんて……。
―――『人買い』の部下も、多くの痛ましい人生を目撃している。
奴隷にして売り払うんだからね、彼らなりの職業倫理があったとしても悪行だよ。
『彼女』の物語は、多くの痛ましい者たちのなかでも壮絶な部類ではあるが。
『救われなかった者たち』と比べれば、まだ幸せなのが悲しい現実だった……。
―――ミアの母親のように、奴隷として生きて死んだ者も多くいる。
最近のミアは知ったのさ、『プレイレス』での出会いによって。
母親がミアを連れ出してくれたのは、母親が性奴隷だったからだ。
その苦しみを与えないために、命懸けで運命に抗い亡くなったんだよ……。
―――多くの悲しい物語があり、ビビアナはその目撃者でもある。
フリジアの語る『彼女』の物語にも、耐性があった。
冷静でいられるのは、経験ゆえのこと。
『狭間』が亜人種の奴隷を売る側に立つ、そんな矛盾を生きた者の知恵だ……。
「あの『女』は、『カール・メアー』の巫女戦士のような役割を与えられた。特別扱いね。聖歌隊にでも、ぶち込んでいれば良かったのに」
「わ、私もそう思うぞ。あいつの歌は、とても……素晴らしかった。女神イースを、本当に崇拝しているのだ……」
「金持ちが『改造』してまで、保存しようとした『価値』よ」
「そ、そういう言い方は……」
「物事を考えなきゃならないときには、こういうドライさも要る。そんなときも、あるの」
「今は、そのときなのだろうか……」
「分からない。でも、試してみるしかないわ。あの『女』は、こちら側の脅威よ。城塞の内側で暴れられている。もしも、外と連携したら大変じゃない」
「そ、そうだな。あいつの狙いを、ハッキリとさせなければ……」
―――フリジアの目が、ビビアナを見つめる。
フリジアは知的な少女というわけじゃない、残念ながら賢者と呼ばれる日はないかも。
しかし、洞察力というものは知性からのみ作られているわけじゃない。
ソルジェのように、野生の勘じみた者を使いこなせるのは『非インテリ』だ……。
「……理由は、分からないが。あいつは、レナス・アップルは、ビビを狙っている」
「『狭間』だからかしらね。とんだ差別主義者よ」
「う、む。それだけでは、ないだろう。あいつは……そうだ。ビビの命を狙っているというのは、違うのかもしれない」
「何を言ってるのよ、二人して殺されかけていたけど?」
「そ、それは、そうなのだが。あいつは……正気じゃないからな」
「暴走していると、言いたいの?『カール・メアー』を庇いたいから、そういう考えになっていないかしら?」
「い、いや。そうじゃないと、思う。お山は、故郷である。大切であるが……レナス・アップルは、強い。まともにやり合ったら、負けてしまうほどには強いのに、私は生き残れている。ビビのためになら、死んでもいいという気概でいたんだ」
「そ、それは。嬉しいケド。そういうの、やめなさい。アンタに死なれたくなんて、ないんだからね」
「う、うむ。お互いをいたわり、末永く生き延びたいものだなっ」
「年寄りじみないの。でも、その直感……正しいとすれば、『人質』よね」
「……そう、だな。『カール・メアー』が取るべき戦術ではないが、『人質』は有効な作戦だというのは分かる」
「とくに、私はね。叔父さまに、愛されているもの」
「……つまり、レナス・アップルは……ビビを人質にして、メダルド・ジーを脅したかったのだろうか?」
「私の『価値』の一つよ。宗教的な動機というよりは、いかにも軍事的な動機だけれど」
「そう、だな。まるで帝国軍がやりそうな行動である」
「『カール・メアー』の巫女戦士や、あの『女』みたいな戦士は……軍事作戦に参加しているの?」
「……え?い、いや。我々は、帝国軍と行動を共にする日もありはするが……それは、『血狩り』のときぐらいだ。作戦会議などからも、排除されがちというか……」
「それは、アンタみたいな低い地位だから?」
「う、ううっ。低くなんてなかった……っ。そこそこ有望視されていたと思う」
「『カール・メアー』の上位の連中は、帝国軍に介入していたの?」
「い、いや。それは、越権行為だろう?私たちは、基本的にただの尼僧だ。『血狩り』や、異教活動の取り締まり以外で、軍に関わりはしていない……」
「偉い連中も、そうなのかしら?帝国軍から、軍人の地位をもらっているヤツはいなかったの?」
「いない。そもそも、偉い人たちほど、敬虔で熱心な信徒でもある。軍事活動に精を出すぐらいなら、他の活動をするのが本道じゃないか。お祈りとか、勧誘とか、修行とか……」
「そうか。それなら、あの『女』は……独断で動いている?それに、しては……組織力も政治力も使っていそうだわ」
―――ビビアナはあごを振り、護衛をしている部下に地図を用意させる。
折り曲げた指を口もとに当てると、地図とにらめっこを始めた。
フリジアも真似てみるが、何も思いつけないは悲しい知性の差だね。
ビビアナの分析力は、さすがはこの土地の商人と言ったところさ……。
「……あいつは、ミアが言っていた、赤い竜……『小さな魔女』というのは、それに乗っていた『狭間』の子ね。『プレイレス』の全域に、ストラウス卿が呪術を使って、その光景を見せた……ということは、あの『女』は」
「う、うむ。レナス・アップルは……?」
「西にいた。『プレイレス』で、ストラウス卿の呪術の影響に巻き込まれていたのね」
「お、おう。そうか、なるほど。レナスは……ここよりも、ずっと西にいた……『プレイレス』で、何をしていたのだ?」




