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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百四十九


―――戦いは何だって使うべきだ、最新の装備も原始的な肉体技もね。


フリジアは『彼女』の平たい胸に頭から突っ込んで、そのまま左手首に噛みついた。


肉をえぐって噛みちぎるような勢いだよ、フリジアも十分に優秀な戦士だ。


噛む力だって、常人とは比べられないほどに強い……。




―――そして、『彼女』の心の傷にも有効打となったよ。


金持ちは『彼女』を歌わせるために、犬を使って調教していたからね。


噛ませて泣かせて、歌わせた。


聖歌をあまりにも冒涜した行いだけれど、それでも最高の歌声になる……。




「犬は、犬は!!大嫌いなんだよおおおおおおおッッッ!!!」




―――世界は弱者には、いつだって痛ましいものだ。


『彼女』の運命は、同情してあげられるほどには悲惨だよ。


それを、フリジアは知っている。


『カール・メアー』にずっといる、この捨て子だった少女も……。




―――泣きながらだって、ヒトは戦えるんだ。


そもそも、『カール・メアー』とはそういう苛烈な巫女戦士たちだからね。


体術を使う、尼僧が使う体術の多くは制圧術がもっぱらだ。


尼僧に襲い掛かる暴漢を、どうにか押しとどめるためのサブミッション……。




―――『弱さ』の証みたいで、『彼女』はそいつが大嫌いだった。


『男』を連想させて、嫌いなんだろう。


金持ちから『男』を奪われているし、『女』に見立てられて犯されてもいる。


そうだよ、悲惨で残酷で容赦ない痛みがあった……。




―――必死なサブミッションは完成した、『彼女』は感情が昂り過ぎて遅れを取った。


フリジアは両腕で『彼女』の左腕を抱きしめて、両脚で右腕を絡めて止める。


その形は完璧な技巧ではないけれど、百点満点以上なんだよ。


興奮状態では筋力が強まり、技巧を使うより力任せでいいときも多いからね……。




「こ、こんな、こんなヤツにっ!!お、親からも、愛されてなかった……っ。捨て子ごときにっ!!」


「う、うるさいっ。愛されていたっ!!愛されていたんだ!!だから、『カール・メアー』に捨ててもらえた!!お山なら、大切にしてもらえるからだよ!!」


「詭弁だっ!!お前は、親の本当の愛を知らないからっ!!教義だって、裏切れるんだ!!」


「違うっ。よく分からんが、よく伝えられないが……そうじゃないっ!!」




―――二人ぶんの人生が、そこでぶつかっていた。


泣きながらも怒る、お互いが何か一致する部分を持っているけれど。


絶対に譲り合うことはできないから、こんなに苦しみながらも戦える。


運命がもう少し優しかったら、運命がもう少し鈍足だったら……。




―――フリジアは『狭間』のために、戦うなんてしなかったかもね。


ビビアナが両親や叔父から全力で愛されていることに、嫉妬しただけかも。


目の前にいる暴れる『彼女』は、過去の鏡でもあるんだ。


愛する『カール・メアー』と、決別する瞬間がやって来た……。




「お前は、止めてやる!!この私が、絶対に、止めてやるんだ……っ!!」




―――サブミッションに、技巧が通う。


『彼女』の左手を、へし折るために組まれた腕が破壊的な交差を作った。


体重と筋力をかけて、手首の骨を折るんだよ。


『カール・メアー』と別れ、大切な親友を守るために……。




「うあああああああああああああああああああああああッッッ!!!」




―――悲鳴を上げたのは、フリジアの方だ。


『カール・メアー』の巫女戦士は、泣きながらだって戦える。


悲惨な者をあわれむための涙も、『カール・メアー/故郷』との決別の涙も。


熱くて痛くて辛くても、フリジア・ノーベルは戦い抜いた……。




「ぐ、があっ!?」




―――『彼女』の左の橈骨が、折られていたよ。


大きく生々しい音を立てて、その手首は痛ましい角度で捻じ曲がる。


武術の試合ならば、勝負ありだ。


だけど、ここは戦場だからそうはならない……。




「殺されるまで、私は……止まらんっ」


「こ、殺し……たくは、ないっ。お前は、お前は……っ」


「私が、とどめを刺してあげるわ。部下を、殺されたんだっ。あいつらも、『狭間』だと私が知っても、変わらないでいてくれたのに!!」


「び、ビビっ。に、逃げろ。逃げるだけで、いい……ッ」




―――ビビアナは血走った眼で、ナイフを抜いた。


報復もまた正義と呼ばれるものだ、ビビアナの怒りももっともだろう。


ビビアナにとっても、部下は家族みたいなものだからね。


仕事が帝国のせいで上手く行かなくなっても、彼らは一緒にいたんだ……。




―――苦楽を共にしながら、一緒に働いた者たちの絆は強くて深いよ。


戦いの場は、力と運命が支配している。


世界は誰しもが、多かれ少なかれ悲しみを背負ってもいる。


誰の想いが、いちばん正しいかを決めるのはいつだって暴力だ……。




「『ゴルメゾア』ああああ、暴れろおおおおおおおおおおおッッッ!!!」




―――狼にも猿にも似ていたバケモノが、咆哮と共に『火球』を放っていた。


ビビアナは必死になって避ける、地面に向けて身を投げてギリギリで回避する。


『火球』がまたジーの屋敷を破壊した、ビビアナの大切な思い出の場所を。


メダルドとその妻との思い出も、たくさんあるんだ……。




「うう、よくも!!よくも……ッ。私の、家を……ッ。叔父さまの家を……ッ。思い出を、壊しやがってえええええッッッ!!!」




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