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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百四十五


―――『敵』の姿が、髪の色が。


フリジアの記憶の底から、哀れな者を引き上げる。


『カール・メアー』は女性で構成された宗教組織、そこに『男』は数少ない。


古い記憶のなかで、その『男』は泣いていた……。




「ようやく、私が誰かを思い出したか!!落ちこぼれの、フリジアめ!!」


「お、お前……は……レナス・アップル……ッ!!」


「そうだ!!『カール・メアー』の、聖なる戦士だ!!」


「男は、『カール・メアー』にいないんじゃないの!?」




―――レナス・アップルは、唇を歪める。


ビビアナの指摘が、『彼女』の心に刺々しく突き立てられたからね。


『彼女』は、自分が『男』として生まれてしまった事実を認めたくない。


『カール・メアー』に相応しいのは、巫女戦士だったから……。




「こ、こいつは、例外なんだ!!こいつは……か、かわいそうなヤツなんだ」


「―――ッッッ!!!私を、私をあわれむな、背教者ごときがッッッ!!!」


「く、くそっ。つ、強い……ッ」


「許さない!!!許さないぞ、私へのあわれみなんてッッッ!!!」




―――かわいそうな運命が、『彼女』を支配していた。


『彼女』が少年だった幼いころ、偉大な天賦の才があって。


それが結局は、『彼女』を苦しめる道へと追いやった。


あまりにも『彼女』の歌声は、美しかったからだよ……。




「私の運命は、報われている!!!『聖歌隊』で、歌っていたときも、聖なる戦士となった今でもッッッ!!!背教者ごときが、推し量れるなどと、思うなよッッッ!!!」




―――ビビアナ・ジーは、『人買い』としての才能も知識も経験もある。


だからこそ瞬時に、この悲痛な怒りに震える『彼女』の運命を読解したんだ。


世の中は金と権力で支配されていて、それらを持つ者は貪欲な蒐集を行う。


それに対して『商品』を提供してきたのが、ジーの一族の罪深い生業だ……。




―――イース教の『聖歌隊』は、各地にある。


ボクたちと通じている厳律修道会にも、『カール・メアー』にも。


ほとんどの宗派に、『聖歌隊』は存在しているんだ。


その役割は、名前が示しているよね……。




―――歌うのが、『彼女』の仕事だった。


幼いころから天才的な歌声の持ち主で、イース教のとある宗派が『彼女』を雇う。


貧しい家に生まれてしまったから、『彼女』と家族にとっては貴重な収入だ。


父親は帝国兵だったけど、ずっと昔に死んでしまって生活は苦しかった……。




―――『彼女』も、歌うことが好きだったのさ。


歌という芸術は、とくに本物の聖歌の歌い手となるには条件がある。


歌うことを愛していて、神さまが大好きなことだよ。


そうじゃない者の声では、本物の聖歌にはどんなに上手でもなれない……。




―――『彼女』にとっては、天職だった。


歌と女神イースを愛しているのだからね、だからこそ。


運命は残酷なものともなるんだ、価値ある貧しい者に乱世は残酷だ。


『彼女』の聖歌を聴いた金持ちが、『彼女』を求めてしまう……。




―――『高級な芸術品』を求めるとき、ヒトは容赦ない渇望を伴った。


ヒトは少なからず芸術を愛していて、芸術品を所有することを望む。


芸術はね、それとつながるヒトを大きくしてくれるのだから。


美しい絵を見たとき、誰しもが感動で心をふくらませるだろう……。




―――美しい景色を見たとき、それと自分がつながるような感覚を知っているはずだ。


ヒトの心は、芸術と触れ合い大きくなるのさ。


その金持ちも、『彼女』の歌声に惚れ込んだ。


あまりにも美しい歌声という芸術品を所有して、自分を高めようとした……。




―――『人買い』に命じて、『購入』しようとしたんだけれど。


『彼女』の母親は、断ったんだ。


当たり前といえば、当たり前のことだよね。


『彼女』は母親に、深く愛されていたのだから……。




―――金持ちは、その拒絶を受け入れはしなかった。


誰しもが正しい分別で、欲望を制御できるとは限らない。


金持ちは『人買い』に命じたんだよ、家族を殺してでも奪ってしまえと。


『人買い』はそのビジネスに同意して、家族を殺して『彼女』を誘拐した……。




―――おぞましい欲望は、止まらない。


『彼女』が男だと知ったとき、金持ちは実に身勝手な選択をした。


あまりにも美しい高音で歌える『彼女』の声、それを維持するために。


声変わりする前に、去勢してしまうことにしたんだよ……。




―――世の中が、正しさだけで紡がれているとは限らなくて。


『彼女』は、正しくない欲望の犠牲者にされてしまった。


家族も殺されて、自分の性別さえも奪われたとき。


大きくて深い絶望と、それでも神さまを信じる心だけは残った……。




―――絶望の闇が、信仰の光を強めてしまうときもある。


苦痛や絶望に挑むため、弱者が選べる道は多くないのだから。


信仰はますます深くなり、皮肉なことに歌声は神秘を帯びた。


『カール・メアー』に、その歌声の評判が届くほどに……。




―――『カール・メアー』は、邪悪なまでに苛烈な信仰を持つけれど。


それだけの組織じゃなくて、強い信仰心と正義の化身でもある。


『カール・メアー』の巫女戦士が、『彼女』の境遇を知ったとき。


その剣の残酷さが八つ裂きにしたのは、『彼女』を苦しめた金持ちだった……。




―――絶望の闇のなかで、『彼女』は女神イースの力の化身に救われた。


『カール・メアー』に保護されたとき、『彼女』の信仰はより確信を得る。


自分が残りの命の全てを、捧げ切るべき信仰と出会ったんだ。


地獄で結ばれた聖なる絆ほど、純粋さと歪んだ正義にかがやけるものはない……。




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