表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4191/5090

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百四十三


―――それは一瞬のうちに始まり、終わっていた。


護衛の男の首は薙ぎ払うように放たれた一刀に刈られて、床に転がる。


ビビアナが驚愕のあまりに顔を引きつらせ、フリジア・ノーベルは彼女の手を引いた。


『敵』の二刀流が狙っていたのは、ビビアナだったからね……。




「きゃ、う……っ!?」


「……外した。外させたか……ッ。片腕、落としてやるつもりだったのに!」


「部屋に、逃げ込め!!こいつは、『敵』だ!!」


「う、うん……ッ」




―――肝の据わったビビアナでも、目の前での殺人には恐怖で竦む。


顔を知っている男だ、彼女の部下でもある。


そんな男の首が刎ねられ、殺されたのだ。


追いかけて来る足音と気配に、怒りと悲しみより恐怖が膨らみ上がる……。




「な、なんで……っ」


「誰か!!誰でもいいから、集まれ!!ビビを守れ!!」


「守るか。守ろうとするか!お前という女は、本当にしょうがないヤツだ!!」


「お前、私を……知っているのか!?」




―――ビビアナを背に庇うようにして、フリジアが『敵』に向かう。


彼女は未熟ながらも、『カール・メアー』の巫女戦士の一人。


護衛としての役目をこなすための実力はあるし、何よりも友情がある。


ビビアナを守るためなら、命の危険も問わないと決めていた……。




「いい、踏み込みを……ッ」


「ビビは、死なせん!!」




―――鋼の軌道が交錯し、甲高い音が空気を裂いた。


『敵』の二刀流の構えに対して、フリジアの剣は真っ直ぐな速さで挑む。


二刀流は器用だけれど、威力は損なわれるものだ。


もちろん速さもね、そこをフリジアは狙っている……。




―――『敵』の方が、戦闘の技量では数段上と言ったところだ。


そんな明白な事実は、『敵』の動きを見せられた一瞬で分からされている。


だからこそ、装備がもたらす差にフリジアは頼った。


良い判断力であり、彼女らしい真っ直ぐさに合ってもいる……。




―――負けるつもりもないが、生き延びるつもりもない。


そんな気迫が込められているからこそ、『敵』にフリジアの攻めは届いた。


覚悟がなければ装備の差があっても、この実力差は埋まらなかっただろう。


鋼を打ち合わせているフリジア自身が理解しているから、叫んだ……。




「さっさと集まれ!!さっさと来るんだ!!ビビも、武器を取れ!!何が何でも、生き延びろ!!」


「わ、わかった……ッ」


「まったく!!そこまで、『狭間』を……穢れた血を、庇うというのか!!」


「ビビの血は、穢れてなんていないッッッ!!!」




―――『カール・メアー』で育ったフリジアは、当然ながら迷っていない。


とっくの昔に、『カール・メアー』の教義に反しようとも友情を選ぶと誓っている。


覚えているんだよ、港で見たビビアナの笑顔を。


恋する彼女の顔は、とても美しくて可愛らしかった……。




―――命懸けで守ると、あの瞬間に誓ったのだ。


『カール・メアー』への恩も、信仰も今のフリジアを止めることはない。


明らかな格上に対して、体重を込めた重い斬撃で挑む。


カウンターを取られたら、一瞬で殺されてしまうリスクがある戦術だ……。




「お前は、それほど、毒されたか!!世俗に、汚染されたのか!!あの、赤い竜も、小悪魔も、幻視してはいないだろうに!!」


「知ったことか!!ビビは、私の……友人だ!!とても、母親に……父親に、叔父にも、大切にされて……多くの命が、ビビを愛しているんだ!!奪われて、いい命じゃない!!」


「何が……愛だ!!親の、愛だと!?家族の愛だと!?よりにもよって!!そんなもの、お前のような孤児が知っているはずもないくせに!!いい気になるな!!」


「う、うるさいっ!!知らなくても……愛が、どんなものかぐらいは分かるんだ、バカ野郎っ!!」




―――フリジアは、『カール・メアー』に捨てられていた孤児だった。


『カール・メアー』の尼僧たちこそが親代わりであり、それだけに信仰に夢中となる。


誰よりも純粋に『カール・メアー』で育って、世界はその山で完結していたから。


だけど、すでに彼女の世界は開かれている……。




「ビビアナさま!!これは、一体!?」


「き、貴様は……何者だ!?」


「こいつは敵よ!!みんなで、殺して!!」


「……援軍など。羽虫のような雑魚ごときが、集まったところで、ムダなんだよ!!」




―――『敵』は左手だけでフリジアを相手にしながら、右手の剣を振るう。


斬撃の軌跡が紅くかがやき、紋章を成した。


紋章から『炎』が奔り、作戦会議室の入り口を爆破して猛火を起こす。


戦士たちの足止めとしては十分、フリジアを仕留めるのに時間を使うつもりもない……。




「く、くそっ。なんて、ことを!!」


「心配なんて、いらないさ。すぐに、何も考えられなくなる。女神イースに逆らったお前は、死しても永遠に救われない!!この背教の裏切り者め!!」


「だ、誰が、裏切り者だ……っ」


「穢れた者を、その背に庇うなどという裏切りをしながら、どの口が言うか!!」




―――鋭い連打が叩き込まれ、フリジアの構えは崩される。


死を覚悟しながらも、迷いはない。


地獄に落ちたとしても、その選択は変えるつもりはなかった。


ビビアナを守る、それだけが今の望みだ……。




―――ヒトは、多くを持っている。


多くを持っているからこそ、惑いもする。


でもね、戦場という極限状態はシンプルに削ぎ落とされた素直さがあった。


彼女たちの友情は、本物だったというわけだよ……。




―――フリジアの首に、刃が迫る。


迫るが、その敵意に満ちた鋼が乙女の肌を裂くことはない。


剣というものは、武術というものは。


自分を守るためにだけ、あるものじゃないんだよ……。




―――鋭いステップと共に、彼女もまた剣を放つ。


エルフの血を宿すしなやかな腕と脚が、見事に伸びた。


白銀の突きに、『敵』は反応するほかない。


そうでなければ、ビビアナ・ジーの突きが『敵』を殺していたからだ……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ