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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百三十六


―――命を狙われていたからだろうね、トーリー・タイズンは興奮状態だった。


昂った神経が選び取る言葉は、どうにも感情的で本能に突き刺さるものだよ。


商いに長けたメダルド・ジーにとっても、それは例外じゃない。


彼は優秀な取引の達人だったけれど、命のやり取りの専門家じゃないんだ……。




「いいかい、メダルド。私は旧友である君を信じられる。だが、残念ながら、誰もが私と同じ気持ちにはなれないだろう。とくに、帝国の部隊が近づきつつある今では、過度に感情的になっているだろうし、猜疑心だって、異常なまでに膨らんでいるんだ」


「……どうしろと言いたいんだ?……いや、言わなくても、いい。『ルファード軍』の中心に、いないようにすべきだな……」


「そうだとも。残念だが、それしかない。『ルファード軍』という名称も、考えた方がいい」


「……便宜上だ。どんな名前で呼んだとしても、問題はない……『オルテガ』防衛軍とでも、名付けるか?」




「私たち『オルテガ』の市民とすれば、嬉しくもあるが……」


「……名前など、どうだっていい。名誉が欲しいわけじゃない。政治屋になりたいわけでもないんだ。肝心なのは、生き延びる。それだけだ。大切な家族を守り、日々の暮らしを守る……たとえ、今までと同じようにはいかなかったとしても……」


「それは、そうだが…………」


「……良い呼び名のアイデアを、持っているか?」




「い、いや。アイデアはないよ。私も、政治屋じゃない……ただの商人なんだから」


「……『オルテガ』の市民に、君からも説得をしてもらえないだろうか」


「君の潔白を、かい?」


「……そうだ。『カール・メアー』との関係はない。帝国とのつながりは、望まない形であるにはあった。だが、それは商人として、情勢に対応しただけの結果に過ぎん」




「分かるよ。私たちも、そうだ。帝国と取引をしていない商人は、帝国から排除された亜人種商人たちだけ……」


「……『カール・メアー』との関わりは、ない。帝国軍に情報を売り渡すようなこともしない。欲しいのは、勝利だけだ。『オルテガ』を守り抜いて……『ルファード』も守る。それだけが望みで……う、ぐっ!?」


「ど、どうした!?」


「……はあ、はあ。何でも、ない。疲労だろう。毒を盛られているし、『寄生虫』も、盛られたんだ……帝国と、親密な関係だったら……こんな目に遭わされるものか……ッ」




―――肉体的にも精神的にも、メダルド・ジーは疲れている。


ここに来て、一族の罪科を突きつけられたのも大きい。


彼は商人よりも聖人に近しい心理状態になっていたからね、利他的だった。


戦いに命を捧げるつもりでもいたが、自分のせいで結束が損なわれるかもしれない……。




―――その事実からは、逃げられはしない。


『人買い』ジーの一族の血は、彼の身を流れているのだから。


亜人種たちから疑われる可能性を、否定するなんて不可能なんだよ。


どんなに罪滅ぼしをしても、誰もが許しを与えてくれるわけじゃない……。




「……忌々しく、みっともなく、生き意地の汚い心臓め。とっとと血を吐いて、死んでいれば良かったか……ッ」


「お、おいおい。メダルド。誰も、そんなに責めてはいないだろう」


「……ビビに、多くを遺したいだけだ。あの子は、あの子は……悪くない。ただの女の子だ。あの子に未来を、与えてやりたいだけなんだ。他は、どうだって……」


「メダルド、君は……」




―――近づく死の影が、教えてくれたことがある。


メダルド・ジーという男にとって、本当に大切な者は一人だけ。


多くを失って来た男には、ビビアナしか見えていない。


どんな取引だってするだろう、『娘』のためならね……。




「す、少し、休むといい。さあ、この椅子に座るといいよ。ちょっと、疲れ過ぎている」


「……すまない、ありがとう……」


「礼を言われるまでもないさ。私も、家族と一緒に生き残りたいだけだ……」


「……一緒に、か」


「メダルド、自暴自棄にはならないでくれ。君を、その……非難したり、追い詰めたかったり……そういうつもりじゃないんだ。ただ、ただ……」




―――『オルテガ』の自治や、政治的なアドバンテージを得るためだった。


メダルド・ジーの『野心の無さ』を、知らなかったから。


今のトーリー・タイズンは、心配してはいない。


目の前にいるのは、政治的な野心家とは何よりも遠いただの『父親』の姿だ……。




―――間違いを犯してしまったのさ、トーリー・タイズンはね。


メダルドを追い詰める必要は、なかったんだ。


それでも運命というものは、止まることを知らない。


選択の余地さえもないのに、動き始めれば加速してしまう……。




「……ギムリや、いや、ルチア……若い亜人種のリーダーに、『ルファード軍』の代表になってもらえれば、私の代役として機能するだろうか……」


「そ、それは、どうだろうか……亜人種に対しては、我々も……『オルテガ』の商人たちも少しばかり、抵抗があるのは事実で……」


「……それは、そうだろうな。差別意識は、あるんだ……困った。困ったなあ……ビビは、長く苦労する……あの子の血は、ジーの一族の贖罪なのに……」


「だ、大丈夫さ。彼女は、聡明だし、美しい。きっと、良い人生を歩めるはずだよ」




「……『狭間』であっても、それは約束されているかな?」


「そ、それは…………」


「……ありがたい。その沈黙は、とても客観的な教訓を、与えてくれる」


「やれることは、やるよ。私に出来る範囲の、あらゆる行いを……だが、それでも……」




「……いいさ。みなまで言わなくてもいい」


「メダルド……その、私は……」


「……生産的な行いをしよう。未来を、心配している場合でもない。今は、現状の問題を解決しなくてはならない。リヒトホーフェンと、『カール・メアー』が関わりを持っていたとすれば……起こりえるリスクがある」


「それは、何だい?」


「……一つは、ビビの……安全だ」




「彼女には、護衛がたくさんついているだろう?」


「……ついている。ついているし、フリジア・ノーベルは、信頼していい人物だ。しかし、フリジアから情報が漏洩するかもしれないし、彼女に連絡をしようと、帝国側の誰かが接触するかもしれない……ビビは、ビビは……う、うう……ッ」


「だ、大丈夫か。せき込み過ぎだよ、き、君は、休んだ方がいい……」


「……いいや。休んでいる場合じゃない。フリジア・ノーベルに、監視をつけないと……ビビを、ビビだけは、守らないと……ッ」




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