第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その百三十四
「な、なるほど。マフィアだから、て、敵味方とか、お構いなしなんですね……っ。ユアンダートと協力関係にある『カール・メアー』にも、近づいていた……」
「皇帝に近しい組織であり、リヒトホーフェンと本心では敵対しています。それを、カニンガムには読まれていたのでしょう」
「ありえますぜ。カニンガムは、『乗り換え』も素早かった。リヒトホーフェンがストラウス卿たちに負けると感じた瞬間に見限る……前々から、リヒトホーフェンの敵とも、接触していやがったに違いねえ」
「お、恐ろしいヤツですね。『カール・メアー』も、そうですが……」
「『帝国軍のスパイ』とも、関わっていますからね。『寄生虫』は、連中からもらっていた。『帝国軍のスパイ』も『カール・メアー』も、『リヒトホーフェンの政敵』という共通項がある」
「そ、それじゃあ、まるで……元々……り、リヒトホーフェンをハメるつもりだったみたいにも感じますよね……っ」
「いい指摘です。『カール・メアー』とは、どれほどの関係性を築いていたのかは不明ですが、『帝国軍のスパイ』とは、かなりの蜜月模様……」
「『寄生虫』を、て、提供されるほどですもんね。て、『帝国軍のスパイ』からしても、貴重なモノのはず。が、外部の人物に渡すなんて、よっぽど仲が良くなければ……っ」
「ただの『調整役』と呼ぶには、あまりにも大きな力と……敵意がある」
「ぼ、ボクたちは、もともとは……『帝国軍のスパイ』を警戒して、こ、ここに来ていた。そこに……『帝国軍のスパイ』と、か、関わりの深い暗殺者が来た……ッ。ま、まだまだ連携した『攻撃』を企てているのかも……ッ」
「妨害工作をされるだけでも、厄介ですね。ミスター・ブッチ、お手柄です。私たちに、狩っておくべき敵を教えて下さいました」
「い、いや。その……オレが……生き残るためにも、ヤツは、生きていて欲しくねえ相手なんで……」
―――ブッチ自身も驚いている、カニンガムは彼が考えていた以上に恐ろしい男だった。
残忍なマフィアというだけでなく、皇帝の勢力に組した裏切り者かもしれない。
一刻も早く、猟兵たちにカニンガムを殺して欲しいと願う。
同時に、メダルド・ジーとの交渉に向かったタイズンを心配した……。
―――メダルド・ジーも守られているはずだが、カニンガムに狙われる危険もある。
この屋敷には猟兵がいたものの、メダルド・ジーのそばに猟兵はいるのだろうか?
いなければ、確実に守られるとは誰にも言えないだろう。
それは自分の家族も同じだ、大量の戦士ではなく猟兵を送って欲しくなった……。
―――だが、今は言えない。
『人買い』メダルド・ジーには、権力の座から退いてもらいたいのだから。
それゆえに考える、理論で武装しようと試みる。
安心していいはず、少なくとも『狙われていなかった自分』の家族は安全なはずだ……。
―――それにメダルド・ジーも、十分な護衛がいるはず。
肉の専門家である自分が、肉についてあらゆる事物を知っているように。
『ルファード軍』も戦いの専門家で、自分たちのリーダーぐらい守るはずだ。
安心しろと不安に揺れる心へ言い聞かせながらも、胃が痛くなる……。
―――青くなり沈黙する肉屋のブッチを見て、ジャンは背筋を伸ばす。
この場を取り仕切る隊長として、ブッチを安心させたいのさ。
良い成長をしてくれているよ、周囲を不安がらせないのも指揮官の役目だ。
猟兵に高い期待をしているブッチには、有効な態度でもある……。
「安心してください、ブッチさん。必ず、カニンガムは仕留めますからね!」
「あ、ああ。そ、そうですね。猟兵さんたちがいれば、安心だ……」
「は、はい。それに……まだ聞きたいコトもあります」
「何なりと、お聞きください、レッドウッド隊長さん」
「か、『カール・メアー』について、です。彼女たちは……リヒトホーフェンと敵対していると判断して、情報を流してもいました」
「さすが、ですな。敵の敵をも、利用すると」
「は、はい。でも、『カール・メアー』がカニンガムを通じて、もしも、て、『帝国軍のスパイ』に情報を渡していたとすれば……ちょっと、厄介なコトが考えられるんです」
「厄介なコト、ですかい?」
「は、はい。『寄生虫』について、です。『カール・メアー』は、そ、その。ほとんどが世間知らずの尼僧たちなんです。恐ろしい教義と価値観を、も、持っていますけど。ヒトを疑うのは、不得意そうだから……」
「連中から、『帝国軍のスパイ』に……『寄生虫』とやらの、情報が渡った?」
「え、ええ。ボクたちは、そもそも『カール・メアー』と『帝国軍のスパイ』が、結託する可能性は……か、考えていなかったんです」
「イース教の原理主義者と、『異能を使用するスパイ』たち……『異教活動』に対して、本来『カール・メアー』は許容しない組織ですからね」
「で、でも。カニンガムがその間に入って、う、上手く『カール・メアー』を騙して……彼女たちが集めた多くの情報を、て、『帝国軍のスパイ』に渡していたら?」
「そ、それは厄介そうですな。尼僧は、その、単純そうではある。カニンガムにかかれば、どんな情報だって伝えてしまいそうだ……」
「は、はい。そうなんです。でも、そ、それだけじゃなくて……そっちも大変なんですが、そ、その『逆』も、あるかも……って」
「『逆』、ですか?」
―――ジャンはうなずく、レイチェルは感心していた。
ジャンが恐ろしい可能性に、自分から辿り着いてくれたからだ。
大きな成長だよ、今までのジャンならここまでの洞察は働かない。
レイチェルから受けたレッスンのおかげもあるし、経験の積み重ねも大きい……。
「ぎゃ、『逆』に……『カール・メアー』の『幹部』が、『騙されたフリをしていたら』?」
「に、尼僧が、騙されたフリを?」
「ど、どんな組織でも……『切れ者』っていると思うんです。と、とくに、帝国貴族であるリヒトホーフェンの調査を指揮しているヒトだけは、た、たぶんかなり、賢いハズです……接待を受けたのも、たぶん『そいつ』で……そいつの願い通りに、状況が動いてて」
「そ、そうなんですかい?」
「は、はい。ボクたち、き、『寄生虫』も『ギルガレア』もリヒトホーフェンも倒しているんです。こ、今度は、『帝国軍のスパイ』と、あいつらから『寄生虫』をもらったカニンガムたちも倒そうとしていて……今の状況は、『カール・メアー』の敵ばかりが滅びている。つまり、彼女たちが一番得をしているんです」




