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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百三十三


―――ブッチも状況の全てを把握しているわけじゃないが、これは商談だからね。


『売り込む』には、多少の演出も許されるものだろう。


必死にもなるさ、お金だけじゃなくて自分と家族の命までかかっているのだから。


巻き込まれた形に過ぎないけれど、カニンガムの暗殺者に殺されかけたばかりだ……。




―――ソルジェを動かしたいのさ、守ってもらいたい。


つまりは、カニンガムを殺してもらいたくてしょうがないってことだよ。


肉屋に過ぎない自分がこんな交渉をするなんて、顔が今にも引きつりかける。


それでも成し遂げるべきだった、カニンガムが長く生きればどうなることか……。




―――これは彼にとって生存を賭けた戦いで、容赦も油断もすべきじゃない。


プロの肉屋としての知識と記憶を総動員して、『新たな商材』を探していく。


どんな料理を誰に提供したのか、その遍歴を探るのさ。


すぐに顔が引きつっていたよ、カニンガムは本当に狂暴な悪人だからね……。




「そうだ……ッ。塩も……だぜ」


「し、塩ですか?塩が、どうしたって言うんです?」


「いや、そのですな。塩の価格も、変わっていたんですよ。それを、思い出しちまいまして……」


「高くなっていたんですね。カニンガムが、買い占めを行った」




―――レイチェルの言葉に、肉屋のブッチは大きな頭をうなずかせる。


ジャンは素直だから、料理人と塩を結び付けていた。


それでも戦場を渡り歩いた猟兵ゆえに、塩と軍隊の関連も思い出す。


今みたいに夏の暑さがあると、その白い結晶は行軍には欠かせない品だからね……。




「う、馬ですね。馬は、とても汗をかくから……っ。とくに、夏だと……軍馬に必要な塩は、一頭あたり……」


「100グラムは要りますね。帝国軍が支配している物資の一つで、特定の商人以外は購入が制限されている場合も多いですが……料理人ならば、購入は可能」


「そういうことだ……つ、つまり。あの、カニンガムは……と、とんでもねえ裏切り者かもしれねえ……ッ」


「ため込んだ塩を渡す相手が、私たちであれば……この場に暗殺者など、派遣しない」




「し、塩も、帝国軍に渡そうとしているのなら……ッ。馬を使った強行軍が、やれますね」


「……『オルテガ』に帝国兵を呼び込むってわけですな。そ、そうなれば……また大勢が殺されちまいますぜ。ど、どうか、ジャン・レッドウッド隊長さんっ。お願いだ。カニンガムは、東にいるはずなんだっ。そこで、あ、あいつを……っ」


「は、はい。任せてください。団長に報告します。だ、誰かを派遣して……いや、ボク自身でもいい。クリア・カニンガムを……仕留めなければ」


「そ、そうしてください!!あいつは……本当の、本当に、裏切り者だ……」




―――『オルテガ』の独立や自治を守る、そんな思いはカニンガムにはない。


残酷なマフィアらしく、おぞましいまで利己的なんだよ。


どこの戦場にも必ず現れるものさ、生粋の裏切り者がね。


自分の祖国だろうが売り払える悪人は、いつだって生まれる……。




―――ジャンは部屋の入口に駆け付けていた戦士を呼んで、指示を出した。


会議中のソルジェに報告をするためだよ、カニンガムという脅威をね。


今にも東に向かって走りたい衝動を抱えつつも、暴走も独断もしない。


指示を待ちながら、情報収集を続けるという正しい判断をしてくれた……。




「と、取り急ぎ、だ、団長には報告しました。カニンガムの行いと、塩について……でも、それ以上の、じょ、情報も欲しいんです」


「何だって、話しますよ。そ、そうだ……カニンガムが、接待していた連中に…………」


「え、えと。ブッチさん。話してもらえますか?」


「あ、ああ。そ、その。すみません。ちょっと、アタマが混乱しちまっていまして。少し、深呼吸させてくだせえ……っ」




―――話すべきかを、迷ってしまう。


それは重要なカードであり、それを使ってトーリー・タイズンが交渉を試みるはずだ。


タイズンは今、メダルド・ジーとの接触しようとしている。


この屋敷を警備する戦士の一人に、お願いして呼び寄せようとしていた……。




―――深呼吸の演技をしながら、ブッチは考える。


言ってしまってもいい情報なのか、そうではないのか。


レイチェルをチラリと見てしまい、その目に見透かされた気持ちになる。


彼女の双眸は「商人が嘘をつけば信用を失う」と、語っているようだった……。




「話した方が、お互いのためだと思いますわ」


「も、もちろん。話しますとも。どんなことも、包み隠さずに……カニンガムの野郎は、あの『厄介な女ども』を接待していたんです。彼女らの戒律に合わせた食材を、用意していましたから間違いはありません」


「か、彼女らに……戒律……つまり……しゅ、宗教団体ですよね?……も、もしかして」


「『カール・メアー』ですよ。あの『血狩り』をしている、邪悪な亜人種殺しどもです!!」




「そ、そんな……ッ。カニンガムは……リヒトホーフェンの『調整役』が、『カール・メアー』とつながっている……!?」


「間違いは、ないようですね」


「接待と戒律に使う食材ってもんは、実に素直ですからね。嘘をつけるようなものじゃありませんぜ」


「……で、でも。リヒトホーフェンは、じ、自分を監視している『カール・メアー』と対立していたはず……っ。さ、さっきも、イース教の教会を襲っていました……」




「そ、そうなんですかい!?……い、いや、でも……あの食材たちは、そうなんです。クリア・カニンガムは、リヒトホーフェンと組んでいて……『カール・メアー』への接待としか思えない料理を、作っていたはずなんですが……」


「ど、どういうコトでしょうか……っ。矛盾しているような……っ」


「いいえ。そうではありません。カニンガムは、『カール・メアー』を接待したのは真実でしょう。ただし、リヒトホーフェンの指示があったとは限りません」


「え、えと。つまり……じ、自分の雇い主であるリヒトホーフェンを、裏切っていた?」




「多くの組織や人脈に顔が利く人物です。己の利益のために暗殺者を差し向けるような極悪人であれば、『より儲けられる方法』を選ぶものでしょう。雇い主だけでなく、雇い主の敵からも金をもらえば、確かに利益は出ます。じつに、邪道ですがね」




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