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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百三十一


「……ふむ。興味深い」


『り、リヒトホーフェンたちと、違っていますね。死体が……そ、そのままです』


「『寄生虫』が違うのでしょう。この女は、セザル・メロの名を口にしました。凄腕の暗殺者にしては、うかつ過ぎますから……嘘でしょうね」


『ぼ、ボクたちを、騙そうとしていた?』




「素直に情報を教えてくれる理由なんて、どこにもなかったはずです」


『た、戦いの最中でも、そういう計算を、していたんですね。こ、この暗殺者は』


「知的な職業人でもありました。ですが、我々にも経験という武器がある。この『寄生虫』は、リヒトホーフェンたちが使っていたものではない」


『だ、だとすれば……?ど、何処から?』




「答えは、貴方も知っている」


『……え、えーと……っ。そ、その。す、推理は苦手で……っ』


「考えるまでもありませんよ。とくに今夜の貴方は、感じるだけで事足りるはずです」


『か、感じる……そ、そう……ですね……』




―――ジャンは考え込まずに、目の前の死体をじっと見つめる。


ボクたち猟兵と、『寄生虫』の出会いはこの土地が初めてではない。


『ゴルゴホの蟲』を使っている者たちとは、前々からの因縁がある。


そうだ、この女暗殺者に提供された『寄生虫』の出どころは……。




『て、『帝国軍のスパイ』……なのでしょうか?』


「ええ。『寄生虫』をプレゼントしてくれる組織は、そう多くはいません」


『じゃ、じゃあ。この人は、『帝国軍のスパイ』の一員……?』


「ふむ、おそらく違うと思います」




―――レイチェルはくるりと回転し、死体に背を向けた。


その瞬間に、死体がビクンと跳ねる。


でも、それでおしまいだ。


跳ねただけで一歩も動けず、次の瞬間にはジャンの頭突きで壁に叩きつけられる……。




「表面近くの『寄生虫』は死亡していましたが、体の奥にいた『寄生虫』は生きていたみたいですね」


『……は、はい。そいつも、今の衝撃で……吹き飛ばせました……似てますね。て、『帝国軍のスパイ』も、こういう『死んだ真似』が得意でした』


「彼らから提供された、そう考えた方がいい……」


『じょ、情報が、欲しいところですよね。ほ、他の暗殺者たちは、ボクが……こ、殺しちゃったんですが……か、彼らには、『寄生虫』は……いなかったみたいですし』




「隠遁のための薬だけを使っていた。それも、おそらくは……」


『て、『帝国軍のスパイ』から、受け取っていたもの……?』


「情報収集をしなければなりませんね。まだ仕事は終わりじゃありませんよ」


『は、はいっ!!そ、それで……それじゃあ……そ、そこの人っ!!』




―――ジャンは部屋の入口に見て、こちらを伺っていたブッチを呼んだ。


ブッチは他の二人よりも度胸が据わっていたらしく、ここに舞い戻っていたのさ。


度胸と言うよりも、商魂がたくましいだけかもしれないけれどね。


ソルジェの部下に、『有能な肉屋のブッチ』を売り込みたくてしょうがないんだよ……。




―――『巨狼』に化けたジャンに見られても、物怖じすることはない。


とっくの昔に覚悟を決めた表情で、ゆっくりとこの場にやって来る。


視線は、今度こそ完全に死んだ女暗殺者を見ていた。


異形の死骸にため息を吐いて、首を振る……。




「あんなバケモノになっちまうとはな。どうなっていやがるんだか。とんでもねえ夜だ。オレもそれなりに長く生きてきたが、こんな夜は初めてだし……おそらく二度と、ありはしねえだろう」


「多忙な夜ですね。貴方の……お名前は?私は、猟兵のレイチェル・ミルラ。こちらは、ジャン・レッドウッド」


「ああ、ご丁寧にどうも―――」


『―――じゃ、ジャン・レッドウッドです。よ、よろしくお願いいたします。一応、こ、ここの責任者、を、つ、務めさせていただいてますっ』




「オレは、ブッチ。肉屋のブッチだ。覚えておいてくれ」


『も、もちろん。忘れません。肉屋のブッチさん、ですねっ!!記憶しました!!』


「……へへへ。低姿勢にならなくても、いいんだぜ。隊長さんだろ、アンタ?」


『は、はいっ。そ、その……あ。こんな姿で、し、失礼しました……っ』




―――ぽひゅん!といういつもの音を立てて、ジャンはヒトの姿に戻る。


肉屋のブッチは驚いた、『巨狼』がジャンの真の姿だと信じていたらしい。


竜が仲間にいるぐらいだからね、『パンジャール猟兵団』は。


大きな狼が仲間にしたとしても、ブッチからすればむしろ自然だったのかも……。




「ど、どうも。あらためまして、よ、よろしくお願いいたします。ジャン・レッドウッドですっ。に、肉屋のブッチさん……じょ、情報を、提供してくれる……んですよねっ?」


「ああ。その通りさ。オレは、トーリー・タイズンよりも、アンタたちに協力的なんだよ。何でか、分かるかい?」


「巨人族だからでしょう。ミスター・ブッチ」


「そういうことだよ。アンタは……人間族じゃ、ないんだよな?」




「そうです。人間族にも似ていますが……私は、『人魚』です。亜人種ですね」


「なるほどね。『人魚』……『人魚』。伝説の種族だが……出会えるとはな」


「貴方にとって、一生に一度しかない衝撃的な夜ということでしょう」


「ははは。違いねえ。たぶん、『人魚』に出会う夜は、もう二度とないだろう。というか、こんな物騒な夜は……もう二度と御免だ。ああ、美人の『人魚』さんには、いくら出会ってもいいんだけれどよ」




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