表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4176/5092

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百二十八



―――無駄に長い苦しみを与えるのは、戦士として正しい判断とは言えない。


やさしさであり、職業倫理でもあった。


『巨狼』が動き、レイチェルは踏み出す。


ジャンを守りたいのさ、この女暗殺者に牙を使わせたくない……。




「乗せられないでください。ジャン。この女は、貴方を傷つけたがっているのです」


『……大丈夫です。ボクは、傷ついたりはしません。だから、下がってください。この女性は、自爆だって……するでしょうから』


「……私を、気遣いますか」


『団長の、『騎士』になるんです。だから、女性には、やさしくならないと』




―――牙を剥いて、赤茶色の毛並みを逆立たせる。


この場にいる戦士ではない市民の三人たちは、人生で最も恐ろしい獣を目撃した。


ジャンを猟兵だとは理性が認識していたけれど、恐怖は本能的だから。


レイチェルは見守ることを決め、その場から一歩だけ引き下がる……。




―――『巨狼』が、歌声を放った。


加速して女暗殺者に襲い掛かる、苦しみを終わらせてやるために。


慈悲深い牙にするため、自爆の攻撃を受ける覚悟もした。


ジャンの毛並みには、さっきの数倍の威力が無ければ通じない……。




「ああ、大きな口だわ。本当に―――」




―――牙の歯列が命中し、女暗殺者の身体の奥深くへと入った。


女暗殺者は悦楽の顔をして、その鍛錬に絞られた姿がガクンと踊った。


圧倒的な破壊に噛み潰されながら、『巨狼』の鼻先を抱き締める。


おぞましい情熱が込められた抱擁であり、愛情めいたものさえあった……。




「さあ。知りなさい……血と、肉の味を……しっかりと、味わえ……」




―――今夜のジャンの研ぎ澄まされた感覚が、肉を喰らう感触をより伝える。


悪夢めいた記憶がよぎったのは、一瞬だけだ。


『巨狼』が踊り、その巨体が高く跳ね上がった。


即死の強打を与えてやるためで、戦士として正しい行いだ……。




―――そう、戦士として正しすぎたからこそ。


ジャンは、この駆け引きに負けてしまう。


爆発を浴びることは覚悟していたけれど、失念していたリスクがあった。


牙の列の奥で、『何も味がしない部位』に出会うまで気づけなかったんだ……。




―――ジャンは必死になり過ぎていたし、集中は視野狭窄を招く。


『それら』が、鳴いた。


ガギガチギギギギイイイイイイイ、目新しさもない再会だったよ。


『寄生虫』を大量に、その身へ宿していたんだ……。




『こ、これ……は……ッ』


「あは、あははは。肉への、冒涜だけど……ッ。趣味よりも、やっぱり……私たちは、仕事を優先しなくちゃね……ッ」


「ジャン!!背骨を、嚙み砕いてしまいなさい!!」




―――『寄生虫』との戦いは、慣れている。


それらは背骨の周りに巣食って、宿主を操る。


狙うべきは、そこだった。


それで正しいからこそ、女暗殺者は対策を考えてもいる……。




―――ジャンの口に見入っていたのは、趣味でもあり仕事でもあったのさ。


誘導して、噛ませた。


自分がこの『攻撃』で、ジャンに打撃を与えるために。


計算していたからこそ、破滅的なダメージにさえ耐えて策を放つ……。




―――噛み潰そうとしたジャンの口が、爆発の力でこじ開けられる。


想定していた以上の力であり、ジャンを傷つけるまでは足りなかったけれど。


口を開くまではやれた、十分に想定以上の力だよ。


使われた魔力の量も少なく、火薬だって少量なのにね……。




「……反射、させた……」




―――レイチェルの洞察は、このときも正しい。


爆破の力は、寄せて集められたら数倍にも高められる。


ミアが『風』で爆破を強めるのと、似たような技巧だよ。


女暗殺者は、それを自分の肉体の奥で行っていた……。




―――クレイジーな行いであり、それゆえに読まれなかった。


『寄生虫』の硬い外骨格に対して、体内の火薬の爆発を反射させる。


それを行いながら、『寄生虫』と自分の筋力を合わせた。


ありえないレベルの即興だけど、この天才はやり遂げて『巨狼』の筋力に勝った……。




―――一瞬だけの敗北に過ぎないが、一瞬でもあれば手練れの暗殺者には十分だ。


ジャンの口からすり抜けながら、彼女は天井に向けて飛ぶ。


そこに張り付いたときには、もうヒトの形から逸脱していた。


『寄生虫』が彼女を内側から貪りながら躍り出て、蟲と融け合った怪物になる……。




『あはははははは!!あははははははッッッ!!!楽しいわね、これ!!あまり、やりたくなかったけれど……やってみると、気持ちいいじゃない!!』


『き、『寄生虫』を飼っていた。あ、あいつらみたいに……リヒトホーフェンたちみたいに、使いこなしている……っ!?』


『そうよ。その通り!!私たちは、あいつらと協力関係にあったんだもんねえ。これぐらいは、してもらっているのよ!!』


『……ま、まだ、終わりじゃなかったということですね。『ギルガレア』……貴方は、多くの災いを、まだまだ残している……ッ。『ゼルアガ』の、災いは、や、やっぱり、カンタンに消えてはくれないんだ……ッ』




「ひ、ひえええええええええええええ!!?な、なにあれ!!!?」


「ひ、ヒトが魔物に化けたか……ッ」


「なんて、夜なんだい……ま、また……さっきみたいに、町中に、バケモノが……出て来るっていうのかいっ!?」


「下がりなさい!!この部屋から全力で避難を!!今ならば、逃げられます!!こいつは、猟兵が仕留める!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ