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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百二十五


―――レイチェルは不利になった、女暗殺者はそう判断する。


戦輪でナイフを撃ち落とすなんて、運動量も集中力も使うに決まっていた。


無防備となったとまでは期待しない、女暗殺者は戦いに慣れているからね。


過大な評価なんてしないものだよ、慎重な戦いを多くこなした者は……。




―――曲刀がレイチェルに振り下ろされ、戦輪と衝突する。


『人魚』との腕力勝負になれば、人間族の方がもちろん不利だ。


鋼が火花を歌いながら、こすれ合う刃は一方的な展開となる。


体勢不利であったはずのレイチェルだけど、当然のように腕力勝負を制した……。




「『この展開は、予想してました』」




―――だからこそ冷静であり沈着なまま、戦輪を押し込む動きに圧倒される。


崩されても問題にしない、戦いがしたいわけじゃないからね。


殺したいだけだ、崩されたとしても問題はない。


女暗殺者は踏み込み、レイチェルに左腕を伸ばす……。




―――女性らしい長い爪だけど、そこに宿るのは美じゃなく毒だった。


暗殺者らしい用心深さであり、彼女の趣味でもある。


仕事道具に包まれていることが、幸せだと思う者もいた。


毒たっぷりの爪で、引っ掻いてやるだけでも仕事は達成される……。




―――レイチェルの肌を狙い放たれた爪の一撃は、わずかに届かない。


動きは多くを物語るものだからね、毒が仕込まれていることを見抜かれた。


サーカス・アーティストらしい洞察だし、曲芸的な動きだったよ。


跳躍したのさ、女暗殺者の頭上を飛び越えながら宙返りさ……。




「なんて、動きを……ッ」




―――そこにいる誰もが、想像できなかった。


武術訓練をした者ほど、むしろついていけない。


レイチェルは武術ではなく、芸術を行っている。


高いはずの天井にまで、その跳躍は到達した……。




「天井に張りつ―――いや、蹴る……ッ」




―――『人魚』にのみ許された跳躍と身軽さで、天井を踏みつける。


高く飛んだ次の瞬間には、女暗殺者の背後を狙って瞬時に降りたんだ。


想定しようのない常識外れの『歩法』だよ、空を『歩ける』のは『人魚』だけ。


女暗殺者の視線だけが、どうにかギリギリで追いかけられた……。




―――背後を奪った気配目掛けて、曲刀を振り抜く。


刃が届いたのは、レイチェルの影だけだ。


すぐ近くで踊る髪にも触れることは許されず、間合いを開けられていた。


追いかければいい、女暗殺者は判断して踏み込む……。




「間合いを、取ったところで……私の刀の方が、長く届く」




―――戦輪よりも、リーチは長い。


ましてあれだけの曲芸をした直後なら、体勢はさらに崩れている。


『動き過ぎだ』と判断して、今なら『仕留められる』と考えた。


より正確には、『考えさせられた』わけだけどね……。




―――レイチェルの戦い方は、視線を誘う能力が高いんだ。


『見せる』ための技巧に満ちていて、空を歩いたのもその一つ。


武術にしては大げさ過ぎて、隙があるようにさえ見えてしまう。


サーカス・アーティストの視線誘導は、当然ながら全て計算ずくだよ……。




―――長く鋭い突きを放ち、曲刀の先端が『人魚』を追いかけた。


戦輪一つで受け止められはしない、そんな自信がある。


それは正しくて、この瞬間に全力を捧げる価値はあった。


だからこそ、想定外に破壊される……。




「―――なによ、それッ!?」




―――『諸刃の戦輪』の特性までは、洞察が届かなかった。


投げられたら、投げられたときと同じかそれ以上の速さで主の元へ戻る。


呪われた鋼で作られているとは、想像が及ばない。


レイチェルも成長しているからね、『奇剣打ち』から使い方を学んでいる……。




―――あの禍々しくギチギチと鳴る呪いの鋼の声を、抑え込んでいた。


手練れの女暗殺者に対して、悟られないようにね。


『諸刃の戦輪』は、それなりに有名な武具の一つだ。


レイチェルも駆け引きを心得ているのさ、サーカス・アーティストゆえに……。




―――背後から主の手に戻った戦輪、呪われた左右の鋼の軌道が交差する。


曲刀の突きを挟み込んで、女暗殺者の攻めを防いだ。


防ぐだけでは終わらずに、『人魚』の腕力が破壊を呼ぶ。


噛みついた刀身を、そのまま力任せにへし折った……。




「バケモノ、め……ッ」




―――冷静沈着な女暗殺者も、怯えた顔になる。


彼女は、実によく訓練されたプロフェッショナルだからだ。


そうだよ、恐怖を覚えたわけじゃない。


怯えた表情で、彼女もまた誘っていたのさ……。




―――この女暗殺者には、最終手段が残っている。


使いたくはなかった手段だったものの、仕事の失敗よりはマシだ。


『諸刃の戦輪』を叩き込む直前まで、レイチェルは気づけなかった。


気づいた後も、避けられない……。




―――背後にいる少年を守るためには、身を盾にするから。


女暗殺者は、けっきょくのところそこまで計算していた。


怯えた表情は、そもそも演技に過ぎない。


最高のプロフェッショナルは、敗北の最中も冷静だ……。




―――レイチェルは、重傷を負っていたかもしれない。


この女暗殺者を斬って仕留めたとしても、その仕掛けは止まらなかったから。


身体の内側に仕込んだ火薬、それを『炎』と『風』で強化して爆破する。


クレイジーなまでの仕事への執念で、猟兵にさえ届きかねない力だ……。




―――でもね、レイチェルは孤独じゃない。


爆発が起きる寸前、刹那の間。


赤茶色の毛皮が、衝突し合う二人の女性のあいだに割り込んだ。


『巨狼』の姿に化けたジャンが、この爆発に介入した……。




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