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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百二十四


―――殺気の魔法は消し飛び、少年もブッチもタイズンも自由を取り戻す。


レイチェルとにらみ合う女暗殺者から、遠ざかるように後ずさりした。


賢明な態度だよ、いくらレイチェルがいるからといって。


彼女の邪魔をするような真似は避けるべきだ、生き抜くためにはね……。




―――レイチェルは仕留めるつもりだったけれど、連戦の疲れもある。


万全だったら、指先が女暗殺者の鼻を裂いていたはずだった。


猟兵は最強だけれど、無限の体力を持つわけじゃない。


曲刀を盾にしながら、女暗殺者はレイチェルの疲労を探り始めている……。




――ー暗殺のプロフェッショナルゆえに、分析能力は高い。


レイチェルの動きに呼吸、汗のかき方や傷の有無。


どれだけ疲れているのか、戦闘においてどんな戦いの持ち主なのか。


知識と近くと判断力を総動員して、レイチェルの弱点を探している……。




―――勝てるとは思っちゃいないだろうけど、殺すつもりでいるのさ。


戦闘能力で劣っていたとしても、女暗殺者は恐れない。


正々堂々とした戦いなんて、そもそも彼女の土俵じゃないんだよ。


どんな手を使っても、殺せればいいだけのこと……。




―――弱者が強者を殺せないとは、限らない。


暗殺の世界では、強さなんてあまり関係ないんだ。


毒や刃物が、致命的な場所に当たればそれで殺せるのだから。


このプロフェッショナルは、自分の仕事を成功させる気でいる……。




「どういう身体能力をしているのか。その子供を抱き寄せながら、私の顔を蹴り抜こうとするなんて……まるで、曲芸ですね」


「曲芸的なのは、当たり前でしょう。私は、踊り子であり……サーカスのアーティストでもありましたから」


「……猟兵とやらは、変わった人選をするようです」


「『風』を使いこなす暗殺者も、うちにはいますよ。貴方よりも、数段、暗殺者として優れていると思いますが」




「それは、とても興味深い。『風』で、無音のなかに隠れていたのに……気づかれたのは、私に似た者を知っていたから?」


「いいえ。『風』以外も、使っていたでしょう」


「知っていたのね。セザル・メロが持ち込んだ、あの薬を」


「リヒトホーフェン一派は、私たちが倒しましたからね」




「だとしても。おかしい。あの薬に、『風』……私の隠遁の足運び。それらを併用すれば、発見されるはずがない」


「自信過剰、だとは言いませんよ。貴方の腕も、十分に達人の領域ですから」


「では、なぜ?」


「こちらには、より規格外の力を持った者がいたからですよ」




「自分について、語っているわけじゃないでしょう」


「いい目をしています。その通り、暗殺者の接近に気づいたのは、私ではありません」


「……誰ですか、その人物は」


「ジャンという、まだまだ育ちざかりの猟兵ですよ。今夜も、成長してくれています」




「セザル・メロの薬に、暗殺者の技巧……ジャンという方に、敬意を」


「伝えておいて、あげますよ」


「いいえ。直接お会いして、私の曲刀を叩き込んでやりたい」


「無理ですね。とくに、今夜のジャンは」




―――女暗殺者はジャンを探す、索敵用の『そよ風』を放った。


猟兵が使う術にそっくりだった、やはり中海の伝統は古さがある。


猟兵とこの暗殺者が使う技巧は、もしかしたら共通の祖先を持つかもしれない。


女暗殺者は状況に気づき、小さく短く首笛を吹いた……。




「お仲間に伝えているのですね。単独で動かないのは、賢明です」


「……そちらは賢明ではない。今夜は、戦い過ぎている……涼し気な顔をしていても、疲弊は隠せない」


「疲れていますよ。でも、負けません―――」


「―――母親ですね。娘……いや、息子がいる」




―――弱点を、女暗殺者は見抜いた。


レイチェルの視線の動き、あの少年に対してみせた庇護の衝動。


それらから推察し、見抜いてしまう。


レイチェルを殺すためには、あの少年を人質に使うのが最適だと判断した……。




―――間違いじゃない、レイチェルは子供好きだ。


少年に自分の息子、ユーリのことを重ねてもいる。


実に優秀な暗殺者ではあるんだ、冷静沈着なレイチェルの心を読むなんて。


洞察能力に関しては、ミアよりも優れているかもしれないほどさ……。




「……ずいぶんと、多くの暗殺をこなして来たようですね」


「そ、そいつは!ひ、ヒト食いなんだっ」


「ヒト食い……ですか。ずいぶんと、おかしな性癖を持っていること」


「他人の仕事の方法に、ケチをつけるなんて無粋でしょう」




―――レイチェルも、この女暗殺者と会話したかった。


友情を築きたかったわけじゃなく、当然ながら情報を得たいだけだよ。


『調整役』について、より確実に追跡するためにね。


でも、今はリスクを考え直した……。




―――殺した相手の肉を食う、そんなおぞましい暗殺者から。


少年を確実に守ってあげたくなってしまう、レイチェルらしい判断だ。


この敵を始末するため『諸刃の戦輪』を構え直し、その次の瞬間には襲撃を開始する。


女暗殺者も同じだよ、隠し持っていたナイフを放った……。




―――正面から神速の突撃で迫るレイチェルではなく、少年を狙ってね。


『諸刃の戦輪』の片方が投げられて、ナイフが空中で叩き落とされた。


女暗殺者の狙いの通りだったよ、レイチェルは子供を過剰に庇うと知っていたんだ。


まともにぶつかり合えば絶対に勝てなかったとしても、暗殺は駆け引きが要だ……。




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