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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百二十


―――ジャンの鼻が、赤い色に出会う。


街並みには戦いでたくさんの血が流れていて、『狼男』の鼻はそれを拾った。


過去のトラウマに囚われていない状態のジャンは、血の種類を精査できる。


嗅覚と味覚はとても近しいものだけれど、いつものジャンは味覚を使わない……。




―――深層心理では怖がっているからだよ、血の味に溺れることを嫌っている。


もしも、『美味しい』だとか感じてしまえば?


まるで、『バケモノ』みたいじゃないか。


そう考えてしまう自分とだけは、出遭いたくないと考えているんだよ……。




―――誰だって、『異常な存在』だとか『恐ろしい存在』になりたくないのさ。


少なからず正しい生き物でいたいと、本能のように考えてしまう。


戦場に棲む極悪人どもの群れを見ていても分かる、絶対の傾向だよ。


極悪人どもでさえ、自分のことをどこまでも邪悪だとは信じていない……。




―――おかしいけれど真実だよ、極悪人でさえ自分のなかの悪を見たがらない。


それぐらい怖いものさ、正しくないことをするのはね。


でも、今のジャンは自分のなかにいるかもしれない『極悪のバケモノ』を恐れない。


悪の力をも使いこなすため、『お母さん』にも頼ったのさ……。




―――嗅覚だけでなく、巨大な『狼』の口のなかで舌を動かした。


鼻から吸い込んだ空気を、舌で舐めていく。


ワインを味わうときと同じように、鼻も舌も使うんだ。


これまでのジャンなら、血を味わうバケモノみたいだとやれなかっただろうに……。




―――深夜の街並みから、この地下にまで漂ってくる血のにおいを追いかける。


嗅ぎ取り舐め取るように、戦場と化していた『オルテガ』を味わった。


傷からあふれる血のにおいだけじゃなく、臓腑のにおいさえ嗅ぎ分けられる。


普段なら酔っぱらってしまうほどの、膨大な知覚情報の怒涛に触れていくんだ……。




「……ジャン。どうでしょうか」


『……はい。そ、その。たくさん、嗅げてます。ま、街のあちこちまで……で、でも』


「感じ取れるものが多すぎて、迷ってしまうんですね?」


『は、はい。せ、せっかく、何か……掴めそうなのに……血のにおいが、多すぎて、あふれ返っちゃいそうで……』




「そういうときは、『見る』んです」


『……み、『見る』……ですか……?』


「においで得た情報に、姿や形を与えるようにしなさい。戦場では、血が多く流れます。貴方はこれまで、多くの戦場を旅してきました。経験を使いなさい。記憶を使うんです。血から、光景を『見る』。そう努力してみてください」


『……りょ、了解……なんだか、はい。やれそうだ……』




―――中海で発展した芸術のなかには、演劇がある。


『ツェベナ』みたいな、オペラ座だってあるように。


レイチェルが教えたのは、中海演劇の技巧の一つだよ。


彼女の亡き夫を経て、伝えられた知識さ……。




―――記憶や感覚というものを、『使いこなす』ために。


『見る』という方法で、それらをまとめるんだ。


頭のなかで光景に変えていくのさ、誰だってやれる。


大好きな料理の味を思い出しながら、その形や感触や盛り付け方を『見る』とかね……。




―――記憶や感覚というものは、揺らぎやすさがあるけれど。


いくつかのコツを用いることで、中海演劇の役者たちはそれらを使いこなす。


想像力で記憶や感覚をつなぎ、心の中で『見る』んだよ。


明確な想像を成し遂げ、演劇のための道具にする……。




―――ヒトは、感覚の管理に『見る』という手段を用いるのが得意なのさ。


質の高い絵から、暑さや寒さや風の音や手触りだって感じ取れるように。


ジャンはあふれる血から伝わる情報から、想像力のキャンバスに絵を描く。


街並みを見回していき、血を流す人々の行いを観測した……。




『た、たくさんの人たちが、ケガをしています。て、手当をしたり、してもらったり、作業に駆り出されたり……』


「この石像と、関連する気配は?」


『あ、あちこち……これは、たぶん、ガラス職人たちかもしれません。あ、あれ……?』


「何を見つけました?教えてください、ジャン」




『……屋敷にも、います』




「……ガラス職人が、リヒトホーフェンの屋敷に?」




―――レイチェルは警戒を始める、ジャンが嗅ぎ取る気配は『敵』かもしれない。


猟兵の本能が優先的に嗅ぎ取るのは、いつだって戦いに関するものだ。


そうなるように、ガルフ・コルテスはボクたちを訓練している。


それだけ『パンジャール猟兵団』は、戦いのなかを生き抜いてきた……。




『これ、きっと……が、ガラスのにおい。で、でも……ちょっと、おかしいというか。そ、その……若い……ううん。これは、子供みたいですし、が、ガラスのにおいが薄い……』


「職人の弟子だとか、家族かもしれません。あるいは、近所に住んでいるとか」


『は、はい。そ、そうだと思います。近くに……商人さんが……いる……?』


「トーリー・タイズン。彼も、『調整役』について何か発見したのかもしれません。参考となる人物を、呼び寄せた?……会いに行った方が、早いようですね」




『…………あ、あれ…………?』


「……どうしました、ジャン?」


『……何だか……『見えない』……のが……動いてる……まるで、空気が……街並みを、あ、歩いてるような……?』


「……『嗅ぎ取れない者』が、この屋敷に……近づいているのですか?」




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