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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百十九


―――ジャンとレイチェルの想像力は、隠された敵の気配を探っていく。


『蟲の教団』が、この迷宮都市の何処に隠れた信仰と呪術の根を張っていたのか。


二人の知的な追跡は、真実の回廊を駆け抜ける。


ガラス職人たちのなかには、どうやら『蟲の教団』の信徒もいるようだ……。




「どれだけの数がいるのか、それも問題です」


『は、花の……においもするんです。こ、これも炭のにおいと、同じぐらい新鮮で……き、きっと、職人たちが……お供えした……』


「……追跡可能ですね。貴方の鼻なら」


『も、もちろん。やれます……や、やれますが……今は……っ』




「この屋敷から、離れたくないのですね」


『え、ええ。た、隊長として、戦士たちの命を、あ、預かっている身ですから』


「正しい判断です。私が、先走りかけていました。トーリー・タイズンも、『調整役』について探っている。職人たちを追いかけるよりも、彼が見つけ出す情報の方が、有益であるかもしれません」


『そ、そう、ですね。何か分かったら、つ、伝えてくれるようにお願いはしているのですが…………』




―――焦りたくなる気持ちを抑えながら、ジャンは集中力を操った。


報告が無いのであれば、トーリー・タイズンはまだ調査中なのかもしれない。


それなら自分にやれる最善は、嗅覚を使い続けることだ。


猟兵として成長し続けている若者は、石像たちに鼻を再び近づける……。




『……つ、続けます。な、何かを、もっと見つけられるかもしれませんからっ』


「ジャン……いい傾向ですね、褒めたくなります」


『団長の……き、騎士になるんです。ゆ、有能な男に、ならなくちゃいけません。だから、そ、その、アドバイスも……お願いします』


「今の貴方は、集中力が研ぎ澄まされている。長い戦いでの疲弊もあって、良い意味で力が抜けてもいます。呼吸を、ゆっくりとしなさい。自分の体から、緊張を抜き去るんです。集中力以外を、排除しなさい」




―――レイチェルの教えは、武術とは異なる。


芸術だからね、動くための教えではない。


ただひたすらに、感じ取るための技巧なんだ。


戦闘向きというよりも、間違いなく捜査向きでもある……。




―――ジャンの集中力の質が代わり、戦いに備えるような緊張が抜けた。


かなり高度な技巧で、普段のジャンなら使えなかったかもしれない。


そんな領域にも、今ならば届く。


レイチェルとの交流が、それを可能にしているんだ……。




―――芸術というものの本質の一つは、つなぐことだからね。


人と人が交流し合うことで、その力を強められる。


感覚というものは固有のものだけど、その使い方を示すのも芸術の仕事だ。


ジャンの超人的な能力が、レイチェルの細かな指導にあまりにも素直に応じていく……。




『……さっきよりも、広く……か、嗅げています……っ』


「感覚の輪、それを認識しなさい。嗅覚の届く、最果ての場所。感覚の最果て。そこが感覚の輪です」


『……はい。な、何となく、分かります……っ』


「それを、広げていきましょう。やわらかな集中力が、必要です。あらゆる情報を、抱きしめて受け入れるように……そう、力を抜いて……目を閉じて……試みてください」




―――『狼男』の鼻が、クンクンと鳴りながら空気を吸い込んだ。


それは普段よりもずっと、動物みたいな動きだったんだよ。


『狼』の体、その構造が持つ原始的な最良をジャンは選ぶ。


普段は『動物みたくなり過ぎること』に、本能的なブレーキをかけているのにね……。




「そうです。素直に……自分の持っている才能を、使ってあげるんです。そうすれば、感覚の輪を……広く、深く、使えますからね。ジャン……自分の本質や、本能を……許してあげなさい」




『……………うん』




―――罪深い血の味が、ジャンの口に広がる。


鼻にも広がっていく、かつての『家』を思い出した。


アリアンロッドに覚醒を強いられ、貪り食ってしまった孤児の子供たち。


その味とにおいが、記憶の底から蘇る……。




―――悲鳴だって聞こえたんだよ、「怖い怖い痛い痛いやめてやめて」。


「死にたくないよ、死にたくない」。


「どっかいけ、バケモノ」。


「お前なんて、拾うんじゃなかった!!」。




―――忌まわしい赤い記憶が、逃げられない罪科となって心に浮上する。


子供たちを喰い殺すなんて、あまりにも邪悪な行いだから。


たとえアリアンロッドのせいだったとしても、ジャンの殺りくは事実だ。


味が臭いが叫び食感が、亡霊の群れとなってジャンに絡みつく……。




―――今このときのジャンは、それらの全てを受け入れられた。


罪悪感の反省で、自分を拒絶してしまうこともない。


『狼』になって、かつて自分がしてしまった殺りくの記憶から逃げない。


抱きしめるように、血生臭く罪深い感覚だって受け入れる……。




『……ボクは、強くならなくちゃならないんだ……だから、『お母さん』……力を下さい』




―――芸術は心に力を与え、少なからずの啓蒙も与える。


罪や邪悪さや、幼稚さや野蛮さ。


罰すべき獣性さえも、悪神アリアンロッドを頼ることさえも。


今のジャンは、一切の拒絶を覚えないまま実行できるんだ……。




―――自分の恐ろしい本質を、罪深いとはまったくもって思わなかったんだよ。


普段ならば絶対に不可能なことだし、レイチェルの助けがなければやれなかった。


ジャンの『呪い追い』は、この瞬間にまた一つ進化する。


感覚の輪が、地下空間いっぱいどころか『それ以上』に広がっていくのさ……。




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