表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4160/5089

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百十二



―――三人の市民たちが相談し合う裏側で、ジャンとレイチェルも動いていた。

ジャンが見つけた隠された通路を進み、すえた臭いの満ちる地下空間にたどり着く。

そこにあったのは、古びた芸術品たちだ。

ジャンに松明を持たせると、レイチェルは鼻で歌った……。




「ウフフ。『古王朝』時代の彫刻品が多数ありますまね。芸術品を集めていたわけですか。貴族は芸術に対して、貪欲に保管してくれるのは嬉しいことです」

「こ、これ……『オルテガ』から、発掘されたんでしょうか?」

「そうでしょうね。全てがこの土地から発掘されたものとは限りませんが、彫刻の傾向として、中海南東風の作りをしています。英雄的な美化の傾向が、見受けられますね。こんなに完璧な身体をした人物は、いませんから」

「す、すごいですよね、レイチェルさん。芸術の知識が、とても豊富なので……う、うらやましいです」




―――地下には多くの石像が並んでいて、どれもが美しい男女の裸像だった。

幻想的なまでの美しさは、写実的とは言えないよね。

モデルその人を模造したわけではなく、この世にない究極の美を追求したものだ。

それが中海南東風の美術が目指した傾向であり、知識があれば分析も適う……。




―――ジャンはため息を吐いて、劣等感と対立した。

視線を巡らせても、どの石像たちも同じに見える。

美しくてキレイだと思えるけれど、それ以上の感想が抱けない。

ここに石像がある意味を、考えることは出来なかった……。




―――芸術鑑賞というものは、知的な分析でもあって。

知識がなければ見抜けない部分も数多くあるのも、残念ながら事実だった。

ただ美しいと感じるだけではなく、その裏側に込められた意味を読解する楽しみ方もある。

大して気にするコトではないはずだけど、ジャンは知識の乏しさに落胆した……。




「は、はあ。ボクには、どれがどれやら……区別がつきません」

「問題はありませんわ。ジャン、この彫刻たちについては、私が分析しますので」

「は、はい。頼るしかありませんね……うう。ぼ、ボクも知識が、欲しいです」

「では、少しばかりレクチャーをいたしましょう。彫刻家ではありませんが、鑑賞のためのポイントがいくつかあります」




―――ジャンの顔が明るくなった、彼の知識欲は日増しに強まっているからね。

ソルジェからの期待も感じているんだよ、より多くの仕事をこなせるようになりたいんだ。

今日、小規模ながら隊員たちを任されたようにね。

大魔王ソルジェ・ストラウスの『騎士』になるためには、どんな知識だって要る。




「お、お願いします。ぼ、ボク……教養も身に着けておきたいんです。だ、団長の騎士になりたい……いつか、誰からも馬鹿にされないような立派な男になりたいんです」

「ええ。とても良い心がけですね。美術的な知識があれば、人生をより楽しめるようにもなります。豊かな日々を送れる……それは、戦いばかりでは得られない幸福です」

「た、たしかに。戦場には、慣れてきましたけれど……こ、こういう芸術品って、戦場にはありませんよね?……そもそも、芸術って、何のためにあるのか……ぼ、ボクは、そういったことさえ理解できていないんです……森で、一人ぼっちだったからでしょうか……?」




「そんなことはありません。芸術というものには、深さがあるものですから」

「げ、芸術の、深さ……ですか?それは、一体?」

「見たままで美しいと感じる。それも芸術の側面です。それだけでも、かまいません。美しい、楽しい、ああ、驚いた!……そういう感情を得るだけでも、芸術を味わったことになりますからね」

「そ、そうなんですね?」

「ほとんどの方は、芸術に対して深い考えや、洞察を持とうともしないものです。とくに、ジャン。貴方のような若者は、芸術を知識で解釈しようなどとしないものですから」




「ぼ、ボクが、特別に……お、劣っているというわけでもない……ですか?」

「ええ。もちろんですよ。若いころは芸術に対して、深い認知を得ることはそうありません。芸術家としての訓練でも積んでいれば、ハナシは別ですし……芸術に関する天才という極めて一部の例外を除けば別ですが……劣等感を抱く必要はないということですよ、ジャン」

「は、はい。ちょっと、安心しました……っ」

「ウフフ。そうです。芸術は、別に怖いものでもありませんから。そんなに緊張することなく、私の解説を聞いてくれれば良いのですよ」




―――ジャンは笑顔になってうなずいた、レイチェルは良い教師になれるだろう。

それに、ジャンは教育を受けるための才能もあった。

芸術についての授業を、怖がる者も少なくはない。

でも、ジャンはとても素直な青年なんだよ……。




―――未熟なだけに、教育を授けてもらえるような生い立ちではないだけに。

大人になった今、知識への欲求が人一倍強くなっている。

学び取ろうとする姿勢、より大きな人物へとなろうとする態度。

レイチェルには、そんな若者の渇望が何とも美しく映る……。




「貴方のような若者は、好ましいものです」

「そ、そうですか!!?」

「ええ。芸術に対して、粗雑な感性だけで解釈しようとしては、この芸術を作った者たちにとって無礼とも言えますからね」

「で、ですよね?……そ、その……よくは、分からないのですが、や、やっぱり、作った方々の気持ちとか……そ、そういうのを理解する方が、た、正しいですよね?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ