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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百七


―――カニンガムの行動は、何とも迅速だった。


リヒトホーフェンの劣勢を悟ったとき、彼との関係を清算することを選んだ。


皇帝側勢力と危うい関係性を築きつつある伯爵と、心中するつもりはなかったらしい。


リヒトホーフェンの下で仕事をしながらも、真の忠誠を持ってはいなかった……。




―――リヒトホーフェンが排除されたとき、自分の仕事が罪に問われぬよう。


この戦闘のどさくさに紛れて、関係者を片っ端から始末しにかかった。


後から判明するのだけれど、彼の経営していたいくつかの宿にも放火している。


悪党は鼻が利くもので、慢性的に追跡者の影を警戒していた……。




「……か、カニンガムは、逃亡するつもりなのだろうか……っ」


「さあな。ストラウス卿が、どんな判断をなさるかは知らないが……ヤツは、罪深い」


「しょ、商人仲間に対しても、残酷が過ぎる……」


「そうだが。それだけじゃあない。あいつが、どんな連中を、リヒトホーフェンのために接待したのか……」




「……そ、それを、知っているのかい?」


「専門的な料理の知識があれば、悟れる程度には」


「私も、それなりには料理のマナーを知っているつもりだけれど……それ以上ということか」


「ああ。特殊な連中を招いているからな。顔の広いあんたでも、『彼女たち』の戒律や食文化までは知らんだろうよ」




「……『彼女たち』?……それは……つ、つまり……な、何とも不穏じゃないか……っ」


「そうだ。だからこそ、いつにも増してカニンガムも狂暴化している……オレは、リヒトホーフェンに仕事を奪われていたおかげで、命拾いしたらしい。状況が状況なら、カニンガムのために特別な肉を手配したのは、間違いなくオレだった……」


「お、おっちゃん。良かったね……」


「……大儲けするチャンスでもあったがな。全ては、命あっての物種ではある」




「おっちゃん、商魂たくましいよ。殺される方が、イヤでしょ?」


「商いで負けるってのは、死ぬほどミジメな気持ちにはなるんだよ」


「だからって……はあ、オトナは大変だ」


「お前も、もうすぐそうなる。『オルテガ』の商人になれば。ここは、昔からややこしい土地で……これからは、ますます、ややこしくなる」




「……『ルファード』に、主導権を持たれるかもしれないからね。あるいは、ストラウス卿が……」


「『自由同盟』に入ればいいってことだろう。ストラウス卿は、『自由同盟』のリーダーたちの一人だ」


「議員たちが、受け入れればいいんだけれどね。まあ、だが……それは、政治を司る者たちが決めればいい。私たちは、やれる仕事をするべきだよ」


「報酬のためにもな。オレは、人生を再建したいんだ。一流の、肉屋に戻る」




―――トーリー・タイズンは冷や汗をハンカチで拭い、二人のために椅子を引いた。


二人は彼の所作に招かれて着席し、腕組しながら右往左往する彼を見守る。


トーリー・タイズンは、自分が置かれてしまった状況を分析しようとしていた。


発言にも気を付けるべきだろう、巨人族の肉屋はソルジェの信奉者だ……。




―――不利にならないように、言葉を選ぶ必要がある。


ソルジェを非難することも禁ずるべきだ、ブッチを怒らせることもしたくない。


自分を売り込むためにも、ソルジェに気に入られるべきである。


それは『オルテガ』を守るためにもつながるから、裏切りではないはずだ……。




「……我々は、利益を得なくてはならない。商人だからね」


「そうだ。命懸けの仕事をしているのなら、なおさらのことな」


「二人とも、危ない橋を渡りたがってないよね?……オレを、巻き込まないでよ?」


「巻き込みはしないさ。ちゃんと、ストラウス卿に守っていただくんだ」




―――少年は、安心しなかった。


トーリー・タイズンの眼が血走っていて、狂気の赤みを帯びている。


追いつめられた野良犬とか、飢えた獣のように感じた。


そういうオトナはロクな行動をしないと、幼い経験でも理解している……。




「私はね、『オルテガ』の独立は守りたいんだよ、ブッチ」


「オレだって、そうだ」


「だからこそ、ストラウス卿にとって有益な情報を渡したい。ストラウス卿が、『ルファード軍』のリーダーで……それより大きな『自由同盟』の幹部……彼との絆があれば、『オルテガ』の独立も守れるかもしれないし、我々が……後々、商いで大きく稼げるかもしれない」


「……タイズンさん、帝国軍と戦わないといけないってコト、忘れてない?」




「忘れちゃいないよ。北東に帝国に雇われた傭兵だか、国境警備からの撤収部隊が近づいている……そのために、城塞修理に精を出している。ああ、まったく。この混乱がなければ、その修理……私が請け負っただろうに」


「タイズンさん、金稼ぎより、今は帝国軍から『オルテガ』を守らないと……」


「戦というものは、お金のためにしているんだよ」


「…………おい。タイズン、お前、何を企んでいる?」




「企んでいるんじゃない。より、儲けられないかと考えているし……『オルテガ』の未来も、守りたい」


「議員みたいな口調だな。そういうのは、商人らしくねえ」


「乱世では、そうなりもするよ。『ルファード』の人買い、メダルド・ジーが今では『ルファード軍』のリーダーをしているのだからね」


「……ジーの一族が、か」




―――仲間を作りたいと、商人は考えていた。


ブッチは巨人族であり、ソルジェを信奉しているけれど。


『ルファード』のメダルド・ジーならば、嫌っているに違いない。


トーリー・タイズンの読みは、困ったことに当たっていたんだ……。




「……ジーか。気に食わねえな」


「おっちゃん……まあ、オレも、かな」


「そうだろう。だが、彼は……ストラウス卿に取り入った。我々は、メダルド・ジーよりも、ストラウス卿の役に立つべきだろう」


「たしかにな。しかし……あいつは、軍を率いた。『ルファード』の市長にでも、なっているのか?」



「実質的な指導者だろうね。さっきも会ったが、あのリーダーシップは……『オルテガ』にとって脅威かもしれない」


「……脅威、か」


「タイズンさん、何を言いたいんだよ?」


「……メダルド・ジーの評判を、削ぎ落とす。そのことに、我々が得た情報を、使えないだろうか……」




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