表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4154/5090

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百六


―――古来、信仰と医学は少なからず結びつきがあった。


どちらも病める者や苦しむ者、そして死にゆく者への処方を与える立場だから。


リヒトホーフェンは医学に貢献した、彼は資本で娘は頭脳で。


医学的な貢献が、リヒトホーフェンに大きな人脈を与えたのは事実であり……。




―――医学的な人脈は、宗教家との接点となっていた。


リヒトホーフェンは帝国の国境であるイース教から見れば、異端者ではあるけれどね。


それでも、表向きは帝国伯爵という貴族である。


少なからずある縁が、彼に特殊な機会を与えることもあった……。




―――自分たちが政治的なトラブルに首を突っ込んだことを自覚しつつ、二人は歩く。


リヒトホーフェンの屋敷に到着し、略奪のために集まる民衆のあいだを抜けた。


見張りに立っていた戦士の一人が、少年に気づく。


戦士はその顔を緊張させながら手招きして、二人を屋敷のなかへと導いた……。




「こっちに来てくれ。待っていたんだ。その、トーリー・タイズン氏が。オレも……君らを歓迎したい」


「……何だか、緊張してない?気のせいだと、いいんだけど」


「おい、目立たないように、オレにくっついてろよ、ガキんちょ。ほら……タイズンに、さっさと会わせてくれ。オレたちを、厄介事に巻き込もうとしているんだろ?」


「オレも良くは知らん。だが、どうやら……良くない状況らしい」




―――屋敷のなかへと通されたブッチと少年は、青い顔をした商人と出会う。


トーリー・タイズンは、ブッチの馴染みのある顔を見ると胸をなでおろした。


憔悴した顔でふらつきながら、両腕を広げて歓迎の態度を作る。


その態度から、肉屋は何かしらのトラブルが具現化したことを悟った……。




「ハグよりも先に、保証して欲しいところだぜ。オレの家族と……巻き込んじまったらしい、このガキの家族に護衛を派遣してくれよ」


「あ、ああ。そうだね。そうしよう……『ルファード軍』に、頼むのでいいよね?彼らのこと、嫌っていたりしてないかな?」


「『プレイレス』を解放したストラウス卿のファンだ。彼が指揮する軍なら、オレは受け入れるぞ。だから、さっさと手配しろ。悪いニュースを聞くのは、そのあとでいい」


「う、うん。任せたまえ……用意は済ませているんだ。この手紙を、『ルファード軍』に届けられたら、ブッチの家族は保護してもらえるはずだ。それに……君のご家族もね」




―――少年は不安げな顔でうなずいて、タイズンは安心させるために微笑んだ。


演技でしかない感情であり、タイズンも精神的に疲弊していたせいで表情は硬すぎた。


少年は不安になりながらも、名前と住所を答えていく。


商人は筆を走らせ、見張りの戦士に渡すべき手紙を完成させた……。




「……頼むよ、君。この手紙を、『ルファード軍』に渡してくれたまえ。可能な限り、早く。ストラウス卿たちが求めている情報について、その確信を握っている人々の命が危険に晒されている。家族も含め、守ってくれ……」


「あ、ああ。『風の旅団』のメンバーに、届けてもらうとする。応援で、来ているんだ」


「頼むぜ、兄ちゃん。お、オレ……ただの貧乏人のせがれで、家族も、善良な市民なんだよ。守って欲しい……」


「任せておけ。この屋敷の警備は、固めた。ここにいれば、君は安全だよ」




―――少年は安心を得るよりも、張り詰めた緊張感を会話から掴んだ。


泣きそうな顔をしてしまうが、どうにもならない。


手紙たちを抱えて小走りに立ち去る戦士に、祈るばかりだ。


何が起きているのかは分からないが、家族に誰も悪さをしませんように……。




「それで、トーリー・タイズン。どんな状況なんだよ?」


「あ、ああ。説明した方がいいだろうね」


「当然だ。義務がある。巻き込みやがったんだからな」


「そう、責めないでくれ。こ、こちらも……『彼』の行動力を、侮っていたというか……」




「『彼』って、カニンガムのことなんだね……っ?」


「カニンガムが、リヒトホーフェンと絡んでいたことを、知っているのかい?」


「……ブッチのおっちゃんが、少し教えてくれたんだ。料理人ってだけじゃないんだよね。そ、その……マフィア……」


「ブッチ。軽率なんじゃないかな?」




「カニンガムがろくでもねえ悪事をしているのは、商売人たちの中じゃ有名だろう。今さら、ガキに教えたぐらいで、何が変わるってんだ」


「ま、まあ。そうなんだが……その、状況は、君たちが想像しているよりも、シビアというか……悪い」


「どう悪いんだ?……説明してくれよ」


「……君以外にもね、カニンガムについて詳しいであろう商人に連絡を出したんだ。そうしたら、連絡が取れない商人もいたし……家で殺された商人もいた」




―――少年が驚き、反射的にこの場から逃げ出していた。


追いつめられた野ウサギのような俊敏さだったけれど、ブッチの腕が追いついた。


ドアに飛びつきそうな勢いの少年を羽交い絞めにするように、抱き上げる。


手足をばたつかせながら喚き散らす少年に、冷静な言葉でささやいた……。




「ここにいた方が、安全なんだ。お前は、ここにいろ」


「で、でもっ。こ、殺されたって……お、オレ……そ、そんなの……」


「お、落ち着きたまえ。き、君がご家族を心配する気持ちは分かるが……おそらく、すぐには狙われない。他の商人たちとは違い、クリア・カニンガムと直接的な関係は、ないだろう?」


「う、うん。ないよ。ないけれど……」




「……とにかく、事情を話せ。事情次第じゃ、オレも……家に戻るぜ」


「だ、大丈夫だろう。ここにたどり着いたというのなら、おそらく……いや、そもそも、クリア・カニンガムは、君を暗殺のターゲットに選んでいなかった」


「暗殺の、ターゲット……」


「他の商人たちは、今夜、殺されたわけじゃないようだ。そ、その……昨日とか、あるいはそれ以前に……『ルファード』で戦があってからこっちのあいだに、殺されていたみたいなんだよ」




「はあ?……ストラウス卿たちが、こっちに来てから……ってことか?」


「う、うん。これは、憶測になる。憶測になるけれど……カニンガムは、リヒトホーフェン伯爵の敗北や失脚を見越して、口封じのために、う、動いていたんじゃないかな」


「リヒトホーフェンのために、働いていたから」


「あ、ああ。そうなんだよ。私も、その可能性に気づいた。リヒトホーフェン伯爵の人脈作りというか外交というか、クリア・カニンガムは、伯爵のために……多くの要人を接待していたみたいだね……その事実を、隠滅したくなるほどに」




―――トーリー・タイズンは口もとを押さえた、隠滅という言葉に言い換えたが。


彼の頭脳が想像していた惨状は、あまりにも残酷が過ぎる。


商人たちは本人だけでなく、妻子や兄弟まで殺されていた。


手紙を届けた者たちは、商人たちの家で腐敗し始めた無数の死体と出会っている……。




「む、むごたらしい死を、彼は作ったらしい」


「……マフィア野郎だからな。自分の保身のためなら、何人だって殺す野郎だ。トーリー・タイズン、お前も知っていただろ」


「し、知ってはいたがね。彼の気性や、本性めいたものは……こ、これほど残酷で、用心深い極悪人とまでは、考えちゃいなかったんだよっ!!君も、だろ?」


「……まあ、な。カニンガムめ。『オルテガ』商人の仲間まで、殺したか……オレ以外の食材屋……リヒトホーフェンに排除されなかった、人間族の商人たちを、殺したか」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ