表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4152/5090

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百四



―――復讐を企むとき、男の顔はかがやくものだ。


一番早く名乗り出たい、ブッチはそれを望む。


トーリー・タイズンは、どうせ他の食材屋にも手紙を出しているだろうから。


商いは早さも大切で、他の連中を出し抜かねばならない……。




―――巨人族の大きな体を揺らして、ブッチは家に戻った。


暑苦しい復讐者から逃げるタイミングを得たと感じた少年は、立ち去ろうとしたものの。


少年の細い足が動き出すよりも先に、ブッチは帰還する。


その腕には分厚い帳簿が抱えられていて、牙を剥くような満面の笑みだ……。




「おい!オレを、トーリー・タイズンのところまで案内しやがれ!!」


「……えー。知ってるでしょ?リヒトホーフェンの屋敷だよ。そこに行けば、いいんだ」


「オレはな、仕事しながら歩くことになる!!」


「仕事って、何だよ?」




「こいつだこいつ!この帳簿を読み漁りながら、ボロボロにぶっ壊れちまった街並みを歩くとか……不可能だろうが!!」


「オレに怒るなよ。街が壊れたのは、帝国軍のせいだろ」


「とにかく!お前が、持ち込んだ仕事なんだ。最後までちゃんと付き合え!!」


「えー……銀貨は、もらったけど…………」




―――少年もまた笑みを浮かべる、『オルテガ』は迷宮都市であるが。


商人たちの街でもあり、少年も無償の労働をする気はない。


十分な銀貨は確かにもらっているものの、運ぶのはあくまで手紙が対象だ。


肉屋のブッチの道案内をする費用は、もらってはいない……。




―――抜け目のない狐のような笑みが、ちいさな手を差し出していた。


巨人族のブッチは唇を突き出したものの、納得はしている。


彼も『オルテガ』商人の一員であり、タダ働きほど嫌なものはない。


仕事には報酬で応じるべきだと、商人の職業倫理も囁いた……。




「ほらよ。銀貨、5枚だ!!オレを引きずって歩けというわけじゃないんだ。ただ帳簿を確認しているオレのことを、迷わずに導けばいい。十分だろ?」


「まあね。重労働になったら、後からせびるよ」


「ふん。そんな商いの仕方じゃ、信頼は得られんぞ」


「わかったよ。銀貨5枚で、おっちゃんを案内する。手をつなごうか?」




―――ブッチは断ろうとしたが、巨体なイバラやツタに破壊された街並みを見る。


子供に手を引かれるなんて、150キロの牛の肉塊を片腕抱える男には屈辱だ。


屈辱ではあるが、この混沌とした破壊のなかを進むには適した選択だった。


ちいさな右手に銀貨を落とし、ちいさな左手にいかつい男の手を伸ばす……。




「毎度あり。さあ、手を引いてあげるよ。おじいちゃんみたいにさ!」


「うるせえ!オレは、まだまだ若いんだよ!ストラウス卿のお呼びがあれば、戦場にだって出かけてやるぜ!」


「はいはい。ナンとかの冷や水って、聞いたことがあるよ」


「口の減らないガキだぜ。まあ、いい!仕事をするぞ、仕事を!」




―――ちいさな手に引っ張られ、ブッチは進む。


もう片方の手で仕事道具を器用に広げたまま、強い視線でにらみつけながらね。


最近の仕事は、とても少なくなっていた。


悲しくなるほどの空白が並び、余白に怒りと苦悩によって書かれた文字がある……。




―――『くそったれ!』、『どいつもこいつもオレから仕事を盗みやがる!』。


意味のない線も、ストレスのせいで描かれていた。


落ちぶれた自分の行動が、情けなくてはらわたが燃え出してしまいそうだ。


それでも、トーリー・タイズンが選んだ男は凡愚ではない……。




―――入札のために培った耳がある、商人と農家と顧客の心を覗く熟練の洞察もね。


余白に書かれていた愚痴めいた落書きには、ブッチが独自に作り上げている暗号もある。


市場や農園、あるいは深酔いした酒場で交わされる噂話。


船乗りたちの荷揚げも観察し、小麦を運ぶ馬車の数だって指折り数えた……。




「さすがは、オレだな。マジメだ。仕事を奪われていても……ちゃーんと、仕事しているぜ」


「どういうコト?おっちゃん、仕事無かったんじゃないの?」


「仕事が無いなら、無いなりに、商人は努力をするってことだ!……いつか、世の中に、舞い戻るために……オレは、ちゃんと、目も耳も、アタマも使っていた!!」


「……そうなんだ。あ。そこ、ひび割れ深いから、足を取られないようにね!」




―――亜人種が生きるには、『オルテガ』も快適な場所ではない。


ずっと昔から、それは変わらなかった。


ブッチは有能であり、幸運にも恵まれた努力家だ。


トーリー・タイズンの期待以上に、食材関連の動きをにらみつけ把握していた……。




「肉の仕事が、他のモン売るよりも好きだった。分かるか?肉屋のことを、嫌うバカもいる。美味い肉には財布のヒモがゆるくなるし、貧乏な家の奥様方たちは、スープに使うくず肉をより安く買おうと努力を欠かさねえんだぜ」


「うちも、おっちゃんところの肉、好きだったよ」


「良心的なビジネスしていたからな。オレはな、肉が好きなんだよ。食うのも、売るのも。お前ぐらいの時分には、肉で腹いっぱいにするのが夢だった」


「夢、叶えたんだね。すごいよ」




「ふん。叶えた夢を……取り戻すんだ。バカにされながらも、あれだけ働いた。好きな仕事なんだ……オレは、追い出されても……ちゃんと、見抜いているぞ」


「……カニンガムの居場所、知ってるんだね?」


「ああ。あいつは、飯を食わせる相手に合わせる。料理の仕方も、料理の出し方も、部屋の飾りつけも……ほとんどのヤツの舌には、分からねえ産地の違いもな」


「天才料理人って、カッコいいかも」




「憧れるべき対象は、選ぶもんだ。さっきも言っただろう」


「……カニンガムが、マフィアって、本当?」


「乱暴者の手下を数多く抱えている。元々は金払いがいいヤツだが……もめた相手は、エビ網で引き上げられるのがオチだ」


「……それ、海に捨てられたって意味?……つまり、殺されたって…………」




―――分かり切った問いに、ブッチの口は反応しない。


かつての時分が書き記した情報へ集中し、カニンガムの行いを炙り出していく。


二か月前には、ずいぶんと豪華な宴を開いたようだ。


大陸東海岸から、わずかにだけ届くワインビネガーを買い集めている……。




「クイント農園の、ホワイトヴィールもな……」


「ヴィールって、仔牛の肉?」


「そうだ。こいつはミルクだけを飲ませて育てた、特製品の仔牛の肉だぜ。草の風味がまったく肉に融けてねえんだ。高いし、何より、手間がかかるから珍しい」


「さすが、肉屋だね。何でも知ってるんだ」




―――子供の素直な感心に、ブッチはいくらか気を良くした。


気を良くしたが、彼の想像力は危機感も抱く。


邪悪な天才料理人は、本気の接待を行っていたのだ。


買い集められた食材たちが、ブッチに悟らせる……。




「ああ、この食材の組み合わせってことは……カニンガム、お前は……リヒトホーフェンに、どんな厄介な人脈を与えようとしていたんだ……『オルテガ』には、『血狩り』がやって来ていたというのに……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ