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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百三


―――肉屋のブッチも、ソルジェの信奉者だった。


亜人種たちにとって、ソルジェの存在は特別なものになっている。


得体の知れない『怪物』のようであり、少なくとも軍事的な『英雄』だ。


まるで『魔王』のような存在だと、ブッチたち亜人種は正しい直感を成し遂げている……。




「嘘じゃないよ。少なくとも、オレは本当だって信じてる!このクソ忙しい戦いの夜に、誰も冗談なんて言わないだろ?」


「どうだかな。ヒトってのは、いつだって嘘つきで、いけ好かない威張り屋で……本音を隠すもんだ」


「なあ、肉屋のオッサン、歪んでない?」


「うるせえ。何々……ん。こいつは、トーリー・タイズンからの手紙じゃねえか?『オルテガ』の商人だぞ。ストラウス卿と関係なんて…………はあ、あいつ。『ルファード軍』に雇われたってか」




―――人間族の商人は、無節操なところがある。


肉屋のブッチは、そんな考えを前々から持っていた。


トーリー・タイズンの行動も、その傾向に新たな確信を与えてしまう。


だが、ソルジェを信奉するブッチの心中は複雑だった……。




「『ルファード軍』か……タイズンさん、オレたちを裏切ったということかな?」


「裏切ったとは限らねえ。『ルファード軍』は、ストラウス卿の軍なんだからな。帝国は、オレたちの敵だ。つまり、敵の敵で……」


「敵の敵も、敵だってコトもあるんじゃない?乱世って、ヒドイよね」


「ガキごときが知った風な口を……とにかく。何でも、早計に決めつけるべきじゃない。今の状況は、とても難しいんだからな!」




―――巨人族は理知的だった、ブッチは粗暴な方だったけれどね。


肉屋は手紙に目を通す、トーリー・タイズンは自分の弁護をしっかりしていた。


いくらかの真実を誤魔化していたけれど、『オルテガ』の独立維持を望むのは本当だ。


肉屋のブッチは、かねてからの親交だか腐れ縁に応えて信じてやることにする……。




「トーリー・タイズンは、裏切り者じゃない。『ルファード』に『オルテガ』を売り払ったわけじゃなく……あくまで、ストラウス卿に腕を買われたらしい」


「そうなんだ。まあ、どうでもいいけど」


「お前が言い出しておいて、どうでもいいとは何事だ!」


「からむなよー。それで……どういう仕事をしているんだい?」




―――少年は、肉屋の男に気を遣ってやった。


あくびもきちんと噛み殺す、手紙を届けるときに十分な銀貨をもらっている。


ブッチの機嫌を気遣ってやることも、報酬に含まれるものと大人びた判断をした。


ちゃんと興味があるように振る舞い、目を丸々と見開く演技までサービスする……。



「気になるだろ?タイズンのヤツは、リヒトホーフェンの悪事の証拠を洗っているらしい。まるで、探偵よろしくな!」


「タイズンさんって、そんなことまでやれるの?」


「『オルテガ』商人ってのは、抜け目がないんだよ。オレも例外じゃない。リヒトホーフェンに、ハメられて……落ちぶれちまったが……ストラウス卿との縁が生まれるなら、もしかしたら……」


「目の色、ギラギラさせてる……おっちゃんも、苦労してるんだねえ」




「『リヒトホーフェン時代』は、サイテーだった。だが、あいつは……ストラウス卿に討ち取られたんだろう。これからは、ストラウス卿の時代ってことだ!」


「リヒトホーフェン伯爵、死んだらしいね」


「死んで当然だ。見ろ、このありさまを……『オルテガ』を、わけ分からんバケモノで、ぶっ壊しちまいやがった」


「……変な薔薇まで咲いてたよね、空に……もう、いなくなったけれど」




「ストラウス卿は、偉大ってことだ!」


「おっちゃんは、ストラウス卿の大ファンだね」


「そうさ。だから、仕事をする……待ってろよ。手紙に、全て目を通すから」


「……ああ。待っててあげますよ。もしかしたら、返信の仕事もしてあげるよ」




―――賢い少年の前で、ブッチは細めた目で手紙を読んだ。


長ったらしいトーリー・タイズンの自己弁護が終わると、腹立たしい名前に出会う。


舌打ちして、悪態をつく。


クリア・カニンガム、リヒトホーフェンの次に大嫌いな男だった……。




「クリア・カニンガムめ……っ。くそったれ!」


「……カニンガムって、料理人の?」


「あいつは、そんな可愛げのあるヤツじゃない。端的に言えば、マフィアだ」


「マフィア?料理人で、大きな宿をいくつも持ってるのに?」




「悪人だから、それだけ儲けられるんだよ。善良な……そう、オレみたいな正しい商いをする者たちから奪い取ってな!」


「恨み節だね。カニンガムに、何をされたのさ?」


「色々だ。ガキには、言えねえ」


「……じゃあ、聞かずに済んだコトを喜んでおくよ。血生臭い光景を、山ほど見ちゃった夜だからね」




―――トーリー・タイズンの読み通り、ブッチはカニンガムに詳しかった。


昔はそれなりに仲が良く、人種の壁をお金の付き合いは越えていた。


ブッチの用意する肉は確かに質が良かったし、カニンガムはそれを好む。


商いのためなら、互いが抱く嫌悪感をも乗り込められた……。




「オレがリヒトホーフェンに仕事を奪われたとき、あいつは見捨てやがった」


「帝国には、逆らえなかったからだろ?」


「いいや。あいつは……オレが専属契約していた農家を、自分のモノにしちまいやがった。オレへの保証なしに!」


「それは、『オルテガ』商人の流儀に反していそーだねー」




―――憤慨を力強いうなずきで表現し、ブッチは手紙をめくる。


『教えてくれると助かるね。カニンガムの最近の動向を』。


『リヒトホーフェンに雇われて、彼は多くの『会食』を手配した』。


『それらをストラウス卿に伝えられたら、我々に褒美が与えられるだろう!』……。




―――ソルジェの信奉者である前に、商人だった。


追いつめられて困窮している肉屋に、トーリー・タイズンの言葉は深く刺さる。


かつてより偉大な商人になれるかもしれない、ストラウス卿の軍隊に肉を卸したい。


肉以外だって手広くやれるはずだった、巨人族への差別がなくなれば……。




「オレは、まだまだやれるんだ!悪いな、クリア・カニンガムよ。お前が、リヒトホーフェンに追い詰められたオレを見捨てたように……今度は、ストラウス卿の名において、オレが『オルテガ』商人の流儀に反したお前に、罰を与えてやろうじゃないか!」




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