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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百二


―――その言葉は、議員たちにいくらかの慰めになった。


アイデンティティが守られることは、『王無き土地』の民には大きなことだからね。


世界の変化をも貫く、歴史的な深さを持った生き様。


それを信じれば、『オルテガ』の民たちは自分でいられるだろう……。




「ストラウス卿……貴方の言葉に、期待してみるとします。もとより、他に……もう道はないのですからな。我々自身が、選びましたので……」


「ああ。信じるといい。きっと、上手く行くぞ。古い歴史を持つ者は、なかなかにしぶとい」


「……ええ。『オルテガ』の歴史を、信じてみます。貴方の……ガルーナの歴史にも、恵みがありますように」


「ありがとう。遠からず、この手に奪還するぞ」




―――会議は再び、事務的な様相を深めた。


『モロー』でも政治活動への参加を強いられていたから、慣れたものだよ。


ソルジェは賢くはないし学もないけれど、要領がいい。


『自由同盟』に属することで、保証すべき点を把握するぐらいはやれた……。




―――もちろん、向いてはいない作業だけれど。


ガルーナ王となる男には、こういった経験も必要だった。


『裏切れないような同盟』として、罰と報復の力も用意しなければならない。


かつて同盟を裏切られることで滅びたガルーナの再現だけは、許せないからね……。




―――政治が進む裏側で、他の戦士たちもそれぞれの仕事を果たす。


城塞の再建は、応急処置ながらも完了していき。


ジャンたちも、リヒトホーフェンの屋敷の捜索を始めた。


屋敷の探索が始まって早々に、『狼男』の嗅覚はいくつかの隠し部屋を見つける……。




「さすがは、ジャンですわね」


「え、ええ。こ、こういうのは、得意ですからっ。本当は、ぼ、ボク以上に……ギンドウさんの方が、上手なんですけれど」


「家探しに関しては、神がかった技巧を持っていますからね。少しばかり、手癖は悪いですが」


「は、はい……って。い、今、同意しちゃったのは、ひ、秘密にしておいてくださいねっ!!」




―――『調整役』を見つけるための調査も、同時に始まっていた。


リヒトホーフェンが創り上げた人脈の網を、機能する形に仕上げた者がいないか。


帳簿を探る商人は、いくつかの候補を見つけて出している。


この屋敷にたどり着く前に、予想していた名前も帳簿に記載されていた……。




「交易を行う土地において、政治的な裏の仕事をこなせる職業の一つに……『料理人』がいます。彼らは、多くの食材を仕入れ、伝統や作法を理解し、豊富な歓迎の知識を有しているわけですからな。顔は、とても広くなりますよ。ええ、このトーリー・タイズンよりも広い顔を持つ男さえいる」




―――『料理人クリア・カニンガム』、この地方に君臨する偉大な『料理人』だった。


各都市国家の議員たちの舌をうならせてきた、神がかった腕前を持つ人物だ。


いくつものレストランと、レストランを備えた高級な宿も経営している。


それらは各都市の要人たちや、国際的な商人や帝国貴族をも宿泊していた……。




「まるで、お抱え料理人であるかのように、リヒトホーフェンはクリア・カニンガムを頼っておりますなあ。騎士、軍人、貴族に……商人と……お医者様たちも。カニンガムの料理を、心ゆくまで味わったのでしょう」




―――カニンガムの宿以外に、これほどの宿泊費を要求する店も少ない。


リヒトホーフェンは、この土地の『便利屋』としてカニンガムを育成した。


問題は、いつから懇意にされていたのか。


商人は指を鳴らし、若い戦士をこき使う……。




「悪いが君、ひとっ走りしてくれないかな?」


「ミスター、私たちはこの場を離れられません。ここを守らなければなりませんし、焚書もしなければならない」


「はあ、焼き払うべき書類は、こっちにある全てですよ。それに、持ち場を離れなくても、火事場泥棒に来ている市民たちに、お願いすればいいんです。ちょっとした、お使いを」


「……レッドウッド隊長の命令を優先したい。だから、それを妨げない程度に、やってみる。何をすればいいんだい?」




―――頭でっかちの若い戦士に、商人は羊皮紙に書いたメッセージを渡す。


宛名もきちんと記しているから、『オルテガ』の土地勘を持つ者なら迷わず届ける。


『料理人』に対して詳しいのは、同じ『料理人』と。


彼らと縁深い取引をしている食材販売者たち、『肉屋のブッチ』の名があった……。




「その手紙を、誰かに届けさせるといい。ああ、そうだなあ。使いには、子供とか若者を選ぶといいかもね。帝国人も、『若すぎる密偵』を想定しないんじゃないかな?」


「どうでしょうかな。レッドウッド隊長のハナシでは、敵は尋常ならざる戦士も含まれているとのこと……」


「はあ。ときには、大胆に行動すべきですよ。そうでなければ、勝負事で、勝ちを逃しやすくする。負けてもいいのは、強者だけ。帝国と違って、我々は貪欲に勝利を目指すべきだって、私みたいな商人は思うんですよ。どうですか?」


「それは、そうかもしれないが……」




―――商人の舌が語る言葉は、怪しげな説得力をまとうものだ。


若い戦士たちでは、少しばかり老獪な商人トーリー・タイズンには勝てない。


彼らはけっきょく、この商人の提案を鵜呑みにすることになった。


あくまでもレッドウッド隊長の命令を、優先しながらだけどね……。




「ふう。なかなか若者たちから信頼されているじゃないですか。竜騎士ストラウス卿と、そのお仲間たちは……まあ、『亜人種びいき』というのならば、ブッチも素直に来てくれるでしょう。ブッチは、巨人族ですからなあ」




―――リヒトホーフェンが『オルテガ』を統治すると、ブッチは廃業の危機に陥った。


帝国は亜人種の商人たちには、容赦ない搾取や弾圧を繰り出すからね。


かつては名のある肉屋だったのに、今ではあばら家暮らしだ。


そんなブッチの家も『オルテガ』にある、もちろん一等地じゃないけれど……。




―――ブッチは家族と共に、もう家へと戻っていた。


少しばかり困窮が苦しかったから、火事場泥棒に出かけようと企んでいたんだ。


帝国人の家への略奪ならば、咎める者は少ないからね。


若いが精悍な肉体を誇る長男と共に、出かけようとしていた矢先……。




「ブッチのおっちゃん、手紙を預かってるよ!」


「オレは忙しいんだぞ、クソガキ。廃業寸前の肉屋で得られなかった稼ぎを、帝国人の家から奪ってこなくちゃ……ヨメにぶっ殺されちまう」


「知らないよ、そんなこと。それに、手紙をくれたのはさ、ストラウス卿の部下らしいんだ!『オルテガ』を取り戻してくれた、英雄さんだよ!」


「……寄越せ、クソガキ。読んでやるよ。嘘だったら、ぶん殴るからな?」




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