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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その百



―――議員たちは『自由』の重さを、あらためて思い知らされた。


この乱世において、それは必ずしも全ての人々に与えられるものじゃない。


正義と正義が殺し合って、互いを支配し合う日々だ。


自分の正義を、倒した相手に押し付けあっている……。




―――勝者でなければ、『自由』を味わうことなんて難しいんだよ。


ボクたちは敵を殺して、敵の正義も殺して。


自分たちの正義で世界を塗り替えるために、見果てぬ戦いの連鎖にいる。


それでも、苦々しい『自由』を選びながらだって生きていくんだ……。




「……私たちの日々は、変わってしまう。『オルテガ』は、やはり失われていくのですな」


「そうだ。『自由』は、代償を求めるものだ。君らにとっての変化が、それだが……失うばかりではない」


「……新たな『オルテガ』で、私たちは、かつてより落ちぶれるのです」


「『未来』を信じろ。新しいつながりが、創り上げる発展もあるのだ」




―――議員たちは年老いているから、未来を信じられなくなっている。


彼らが若かった時代に比べてしまうと、『オルテガ』は確かに衰えていた。


リヒトホーフェンに奪われ、『ルファード』に脅かされそうな現在がある。


『オルテガ』栄光を失っていて、失望の積み重ねが未来予想に大きな影を落とした……。




―――想像力は、いつだって味方だとは限らない。


暗澹たる先行きさえも見せてしまい、可能性の芽を自ら摘むこともある。


不確実な未来に対して、老人たちは怯えてしまった。


彼らの旧い故郷は、彼ら自身の『自由』な選択により更に遠ざかっていく……。




―――世界は、創り上げる痛みにあふれていた。


血まみれになりながら、殺し合って新しい世界を奪い取る。


変わっていく喜びもあれば、変わってしまう悲しみもあった。


勝者も敗者も、やっぱり血まみれなんだよ……。




―――老人たちの流す悲し気な涙に、ソルジェの気持ちさえ暗くなった。


彼らが亜人種たちへの深くて強い嫌悪を抱いていることを、確認できたからだ。


ソルジェは変わっているからね、人種の差が持つ障害を感じ取れない。


竜とさえ心を交わせる者は、普通ではないんだ……。




―――変わっていることは、迫害を呼ぶ。


差別も迫害も、あらゆる時代とあらゆる土地で普遍的に行われるヒトの本能だ。


そういう獣であって、それ以外であると主張するのは嘘くさいよね。


ソルジェは、すすり泣く老人たちから目を逸らした……。




―――悲しくて、さみしかったからだ。


ソルジェにとって、人種の差を乗り越えることなんて難しいものじゃないのだけれど。


やっぱり世界と、そこに生きる人々にとっては難しい行いなのかもしれない。


そんな悲しくてさみしく、そのうえ真実めいた答えに触れているからだ……。




―――何だか、とっても腹が立ったから。


ソルジェはしばしの休憩を、老人たちに告げた。


干渉に呑まれている彼らと、細かな条件を言い合う時間を過ごすのは難しいからね。


お互いに落ち着いて、鋼のように冷たく確実な仕事を目指しての休憩は好ましい……。




―――夏の夜の風と、戦場の血の臭いが混じった生暖かい場所へと出た。


星々の下で、戦士たちが忙しく作業に追われている。


汗まみれになりながら、『オルテガ』の城塞の補修と死傷者への対処をしていた。


戦いの終わりは、宴で清めるべきだけれど……。




―――迫る次の敵の存在が、粘り着いてまとわりつくような苦悶を継続させる。


人々のあいだにも、溝があった。


人種ごとに分かれて、作業を行っているんだよ。


それはソルジェを悲しくさせる現実だったけれど、魔王は牙を剥いて笑う……。




「……命令してでも、変えちまうとするか」




―――議員たちへしてみせたように、恫喝の力を使うことも必要かもしれない。


ボクたちはこの世界を、血まみれの力尽くで変えると決めたのだから。


それが、ボクたちの『自由』なんだ。


無理やりにでも、世界を歪めて新しい価値観を勝ち取る……。




―――戦いのための猟兵らしい笑顔となって、目をギラギラとさせながら歩く。


『大魔王』らしい迫力で、まるで戦の中心に君臨しているときみたいだった。


それぞれの人種に分かれて作業している者たちへと、歩いて近づき。


無理やりに命じようとして、口を開く……。




―――いいや、口を開きかけたんだけれど。




「ちくしょう、手が足りねえ!!……おい!!そっちのエルフ!!屋根に上って、丸太を引き上げてくれ!!」




―――『オルテガ』市民の人間族の若者が、汗まみれの疲れた声で叫んだ。


エルフの青年は『風の旅団』の一員で、ガラの悪い元・盗賊だったけれど。


必死な声に、ちゃんとうなずいた。


ソルジェに気づいていたからじゃなく、彼の『自由』な選択だよ……。




「任せろ。下から押し上げてくれ」


「おう!さっさと、片づけちまおうぜ!!」




―――極限状態が近づくと、融け合うことがある。


ヒトは決して寛容ではないけれど、群れを成す本能を持っていた。


汗まみれで疲れ果てた者たちが、丸太を引っ張り押し上げていく。


苦戦していると、周りの若者たちが勝手に集まっていた……。




「手伝う!オレも支えるぞ!!」


「こっちは、持つから」


「いいか、一気に動かそう」


「掛け声、かけるよ。いっせーの……ッ!!」




―――忙しいとね、人種を気にかけている場合じゃなくなる。


差別は日常に根差したものだけれど、緊急事態は日常じゃないんだ。


丸太が一つ、引き上げられて。


明るく若い声が、歓喜を歌った……。




―――汗まみれで、疲れていて。


次にすべき作業に追われているけれど、成し遂げた仕事を中心にして。


若者たちは、お互いを確かめて褒め合うように笑顔だった。


ソルジェはそういう笑顔がとても大好きで、それを見ているだけで同じ顔になった……。




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