第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その九十九
―――ソルジェは政治的な恫喝を覚えてくれた、それは王にとって必要なことだ。
この世の中は、ソルジェにとって理想的なことばかりじゃないからね。
脅してでも変えなくちゃならない、『大魔王』として世界を非常識に歪める必要がある。
今後もこういう恫喝を、使って欲しいとボクは願うんだよ……。
―――議員たちの顔面は蒼白し、テーブルの下にある手は震えている。
『大魔王』の眼ににらみつけられることは、年老いた彼らには強烈な体験だった。
ソルジェは自分の理想が、全ての人々と共有できるなんて夢想は抱いていない。
どれだけ多くの亜人種が、首を吊られているのを見たのかを忘れていないんだ……。
―――ユアンダートが亜人種への差別を大きくしたけれど、差別は最初からあった。
人間族は亜人種が嫌いだったし、亜人種も人間族が嫌いだ。
人種間の違いによって、たくさんの戦いや差別が起きている。
大陸を旅することで、それらを多く目撃した……。
―――ボクたちの『大魔王』は、うつむく議員たちに求めた。
期待していない選択だって、させるために。
成し遂げたいことがある、やりたいことがある。
無理強いだって、させなくちゃならないんだ……。
「……それで、選んでくれると嬉しいよ。奴隷制度を撤廃するか、しないのかを。オレは、その選択次第で行動を変えなくちゃならない」
「ま、まさか……っ」
「おそらく、君らが決して望んでいない方法も取れるよ。オレは、『大魔王』だからね。文字通りの残酷さだって、発揮したっていい。『自由同盟』に所属してくれないなら、『オルテガ』を別の形で掌握することになる」
「……『ルファード軍』で、制圧を仕掛けるおつもりですかな……ッ」
「それもありえる。もしくは、君らから『自由同盟』に加盟を媚びてもらうかだ。同盟の名手であるクラリス陛下は、オレよりも交渉上手な御方だよ。オレが君らから得られる政治的な成果よりも、はるかに多くを奪い取るだろう」
―――クラリスとルードも、ソルジェと同じ価値観を持っている。
あらゆる人種が生きていてもいい世界、それを実現させたいというのは同じだ。
そしてソルジェよりもはるかに多くの軍事力と、交渉能力を持っている。
クラリスとの交渉となれば、『オルテガ』は多くを奪われるんだよ……。
「そ、それは……ッ。避けたいところですな」
「だろうね。だから、君らはこんな深夜にがん首揃えて集まってくれたんだから。なあ、理解して欲しい。あきらめて、オレの言い分を飲み込むことだ。お互いのために。ここでハナシがまとまらないとね、戦でも不利になるんだぞ」
「た、たしかに。それは、そうですが……」
「生き残るためにも、『オルテガ』がより多くを失わないためにも。オレの望みを叶える方がいい」
―――議員たちは失敗した、ソルジェを丸め込むことにね。
見知った顔たちを、それぞれの視線がさ迷った。
それをしたところで、何かを得られることはない。
誰にもいいアイデアはなかったんだ、ソルジェの勝利は決まる……。
「『オルテガ』のために、君らは選べ。クラリス陛下よりは、良い条件を出せる。オレは自分が旅したこの土地を、気に入っているんだよ」
「……考えを重ねる時間は……ない、と、お顔が語っておられますな」
「帝国軍がいなければ、長い議論をしたっていいんだ。敵がいる。『オルテガ』にも近づいているし、『ルファード』にも近づいている。どういう意味か、分かるかい?」
「……非常に、危険な状態―――」
「―――それ以上に、深刻なんだよ。オレと、君たちは異なる価値観を有している。『ルファード』を敵視もしているよな」
「それほど、強い意識ではありません。潜在的な対立があるだけです」
「だが、『ルファード軍』を警戒した。分かってやれなくもないが、敵味方はハッキリしておかなくてはな」
「何を、おっしゃりたいので?」
「時間稼ぎをして、『ルファード』の不利な状況を作りたがっているのかもしれない。そう判断することだって、出来るってことさ」
「ま、まさか。そのような狙いは、しておりません……」
「そうかい?『ルファード』の力を削ぐには、あり得る戦術じゃないか。オレが、『ルファード』の敵ならば、そういう選択をするかもしれない」
「……言いがかりですよ。脅しているのですかな…………」
「もちろん、脅しているよ。悪いかな?脅しよりも、残酷な手段だってあるんだぜ」
―――ソルジェは政治を理解しつつある、少なくとも魔王らしい外交方法を。
議員たちは、五分間だけ求めた。
小さくて短い会議を、行うために。
ソルジェは許してやることにした、返答次第で残酷になることを決めたからだ……。
―――どこまで、決めたのか?
何でもすることを、決めていた。
クラリスの権力を頼ることも、『ルファード軍』の威圧を使うことも。
『オルテガ』の民から、新しい議員を無理やり選ぶことだってね……。
―――多くのことが、ソルジェにはやれる。
どんな汚れ仕事でも、悪名として歴史に刻まれることだってやれるんだ。
『あらゆる人種を共存させる』なんていう、無理難題を実現するために。
まともで常識的な道は、そもそも似合ってはいなかった……。
「……ソルジェ・ストラウス卿。こちらの返答を、伝えます」
「ああ。どんな選択でもしてくれていい。君らは、その点では『自由』なんだ。こちらも、『自由』で応えるとしよう」
「…………貴方の提案に、従います」
「もっと明るい笑顔で言って欲しかったよ。そんなに、亜人種のことが嫌いかな」
「……幼いころには、亜人種の、友人もいました。しかし……」
「『大学半島』でもそうだったよ。ヒトの良いとある大商人も、学生時代は、人種に対しての壁なんて感じなかったそうだ。いいヤツなんだがね、大人になれば、ドワーフの奴隷を使っていた。名前も奪ってね。その子は、学生時代の親友の弟だったのに」
「……ここも、そういう土地でした。きっと、ここ以外も、そのはずですがね」
「そうだ。だから、腹が立つ。だからこそ、無理やりにでも、変えてしまうんだ。こちらからの提案を受け入れてくれて、ありがとう。ようこそ、『自由同盟』に」




