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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九十七


―――商いと政に慣れた良く回る舌、議員たちはそれを口に飼っている。


そんなベテランの政治家たちの口も淀ませるほどの恐怖が、ボクらの魔王にはあった。


政治には疎くとも、戦いの駆け引きに慣れたソルジェは議員たちが本気だと悟る。


ストラウス家の四男坊は、帝王学を授けてはもらっていないが超一流の戦士だ……。




「オレと『ルファード軍』が安全だと納得してもらうには、口約束よりも明確な保証が必要だな」


「は、はい。貴方は、『オルテガ』を掌握しています。これから、この街をどうしたいとお望みなのでしょうか。そ、それを、明らかにしていただきたく……」


「自治権を侵害するつもりはないのだがね。それだけでは、信じられんか。命より大切な竜太刀に誓ったとしても、君らは納得しまい」


「せ、戦士としての誇りの重さを、私たちも知ってはいます。しかし、より政治的な確約が欲しいのです」




―――政治家たちには、口にすべきでない言葉もあった。


彼ら自身の誇りでもあるし、一種の職業倫理でもある。


『オルテガ』を『売り払う』ような提案を、彼らは選べない。


ソルジェに察して欲しがっていた、『彼らが言えない望み』を……。




―――ストラウス家は長男と次男にまでは、統治者としての教育を行った。


四男坊のソルジェに期待していたのは、竜騎士としての活躍だけだったからだよ。


与えられなかった教育の結果、議員たちの望みを読解するまで時間がかかってしまう。


だが、ようやくストラウス家の四男坊も答えにたどり着いた……。




「『オルテガ』を、『自由同盟』の保護下に組み込む。『ルファード』も、『自由同盟』に取り込む……『自由同盟』に所属してくれるのならば、このソルジェ・ストラウスの名において両都市間での紛争を認めることはない」




―――『オルテガ』の議員たちから、その条件を口にすることは難しかった。


今の議員たちは市民たちの支持を得ているかどうか、自信も持てなかったからね。


『自由同盟』からの『誘われる形』ならば、どうにか受け入れられる。


自分たちから『保護してくれ』と願うことは、一種の身売りに近かった……。




「いや。もっと、気楽な言い方が良いか。『自由同盟』に参加してくれないか?帝国の支配から、君ら自身を守り、オレたちの命も守るために」



―――結果としては同じだったとしても、求められることと乞うことは違う。


政治の力学は繊細なもので、議員たちは自ら『自由同盟』の保護を求められなかった。


それは『弱者』の態度であり、『自由同盟』に永続的な支配を受けるかもしれない。


あくまで対等な関係として『自由同盟』に参加するのであれば問題は少ない……。




―――市民からの選任の自信を持てない議員たちには、これが精いっぱいだった。


『オルテガ』の全てを委ねるような選択を、彼ら自身も行えないからね。


ソルジェに保証して欲しかったのは、対等に見える同盟への誘いだ。


議員たちは、それをどうにか引き出せている……。




―――この形は、ソルジェの望みでもあったけれど。


政治という戦いの場では、一種の負けだったかもしれない。


議員たちは本気で怯えながらも、望みを叶えられたのだから。


ソルジェは政治には、やっぱり疎さがある……。




―――でもね、ボクたちの魔王は戦いの駆け引きは熟知しているのさ。


議員たちの安堵の表情から、ソルジェは知識以上の洞察を果たす。


ロロカやガンダラが半ば無理やり読ませた政治と歴史の本も、役立ったのかもね。


ソルジェは、直感的にクラリスがやりそうなことを真似していた……。




「君らにとって有利な条件だったろう。『自由同盟』に対して、こちらから誘った。君らには、それを選ぶ権利が残されている」


「……え、ええ」


「選ぶということは、許容と拒絶の二つの答えがあるわけだ。この戦況では、起きえないとは思うが、『自由同盟』から『離脱する権利』があるように思える」


「お、起きえませんよ。我々は、帝国に支配されたいわけではありませんから……」




「それでも、君らにとって少しばかり有利な条件になる。オレは寛大な戦士でありたいと願ってはいるが……『同盟を裏切る』という行いだけは、許しがたくてね」


「……そ、そうでしょうな。かつて、貴方の祖国は……」


「ファリス王国という同盟国がいたが、ガルーナが滅びる日に、裏切りやがった」


「心中お察しいたします……」




「察するか。この9年間、あちこちの戦場を渡り歩いたがね。あれほどの苦痛を覚えた瞬間はない。痛みというものは、固有の感覚だ。オレ以外には、あの痛みは分からないと思うのだよ。君らとは異なり、故郷は完全に奪い取られてしまった」


「……に、似てはいる境遇ですが、たしかに、貴方のほうがより過酷な苦しみなのかもしれません。ですが、我々も、耐えがたい艱難辛苦の日々を……歩んでいるのです」


「ああ。すまないな。君らとオレと、どちらが苦痛を背負っていたかなど、比べたいわけじゃないんだ。そんなことには、意味がない。すべきことは、別にある」


「……この交渉に、貴方は……何を求められるのでしょうか?」




―――政治家であるのなら、手土産もなしに交渉の席に座るべきではない。


政治家であるのなら、手土産もなしに民衆の前に立つべきではない。


あらゆる戦いは、権力と金のために行われるものだ。


ソルジェは議員たちから、見返りを求めるべきだった……。




―――『オルテガ』を帝国から解放しただけでも、大きな戦果ではある。


それでもボクたちの正義が、『自由同盟』が望む未来のためには求めるべきだ。


より大きな政治的な力がいるんだよ、世界を力尽くで変えるためには。


仲間である議員たちからも、勝ち取らなければならない……。




「君らを『自由同盟』に誘おう。そのために、オレが伝える条件を受け入れて欲しい。君らとオレとで、より対等な契約を結ぶためにな。政治家である君らが市民に状況を説明するとき、手土産が必要なように……オレにもいるのだ。『自由同盟』の同胞たちに、君らを新たな仲間だと紹介するときにね」




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