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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九十六


―――議員たちは、新しく得た情報に驚いた。


メダルド・ジーが暗殺されかけたことを、彼らは知らなかったのだから。


交渉の戦術において、それは痛手でもある。


リヒトホーフェンから受けた迫害が呼ぶ同情が、弱まってしまう……。




―――彼らからすれば、大きな問題だった。


ソルジェのような戦士が、傷を高く評価しがちであることを彼らは知っている。


戦士や軍人たちは共感を、勝利か苦痛に抱きたがるものだから。


メダルドは死にかけたが、彼らはそこまでの痛みを与えられていない……。




―――ソルジェを抱き込むための口実が、一つ減ってしまった。


ソルジェとメダルドのあいだにある信頼は、彼らの想定よりも強い。


戦場を共有したことで、とっくの昔に戦友となっている。


どちらの都市の声が、この竜騎士の耳に通りやすいのか……。




―――彼らは自分でも口にしていた通り、出遅れてしまっていた。


もしも、ソルジェとの接触がメダルドよりも早ければ?


もう少し彼らに有利な交渉がやれたかもしれないが、もはや手遅れだ。


運命をいきなりやって来るし、それをやり直すことも許されない……。




「……ストラウス卿は、ジーの一族の改心を信じられるのですな……無条件に?」


「死に瀕した状態でも、あいつの行動は一貫していたぞ。娘のように想っている姪のことを守ることが、第一だった」


「一族を守ることです。ジーたちは、そのために何でもした。しかし、それは『人買い』という彼らの生業と一体だったのですよ」


「知ってるよ。メダルドとビビアナ・ジーと過ごして、彼らは『人買い』であることを誇りに思っていたことも知っている。しかし、時代は変わるのだ。メダルドは、亜人種の奴隷たちの全員を解放したから、ここにいる」




―――交渉というものは戦いで、ソルジェも『攻める』必要があった。


目の前にいる議員たちと同じく、説明して説得しなければならない立場なのさ。


議員たちが抱いている不安を解消し、結束を強める必要があった。


これからも続く戦いのために、より有益な関係性を築くのも仕事だ……。




「……これは、君らが知らない事実だろう。一人の乙女の出生にまつわる秘密があってな。それを教える。他言は無用だ」


「……聞きましょう。私たちは、『ルファード』の自治を確保するための、根拠が欲しいのです。感情論や、戦場で培った絆ではなく、より明確な保証が」


「メダルドの姪である、ビビアナ・ジーは『狭間』だ」


「……あの令嬢が、『狭間』……っ!?そんなことは、ありえません。ジーの一族は、亜人種を奴隷にしていました。信じられません……」




「信じられなかったとしても、事実なのだよ。ビビアナが『狭間』だからこそ、メダルドは『人買い』という一族の伝統を捨てることもやれた。あいつにとって、一族は全てだ。自分が死にかけたとき、すべきことが見えた。ビビアナのために変わるのだと」


「……た、確かに。メダルド・ジーには『兄』がいましたな。商いを継ぐはずだったが、出奔し、病死したものと……」


「彼は『南のエルフ』の女性と結婚し、子を成した。それがビビアナだ」


「……奴隷にしていた女と、結婚していたと……」




「ありえないことかい?だが、これが真実だ。ビビアナの従姉妹が『風の旅団』の……『南のエルフ』の若い戦士たちで作られた傭兵団のリーダーでもある。彼女の証言なら信じられるか?……この街の防衛のために忙しき働いている彼女を、今ここに呼ぼうか?」


「……い、いいえ。十分です。にわかに信じがたいですが、それも、真実なのでしょう。古来、人間族と亜人種のあいだに愛が成立したこともある。『狭間』という言葉が、その証だ」


「メダルドは、ビビアナのためにも一族の伝統を変えた。『自由同盟』も、ジーの一族の心変わりを信じてくれる証拠になるだろう」


「……彼らが『人買い』であった過去を、許されることで……貴方は政治的な力を失うことにはなりませんでしょうか?」




「なるかもしれないな。『人買い』であった過去を、許せないという者たちからは、不信の目で見られるかもしれん。君らのように」


「私たちは……貴方のことを偉大な戦士として信頼していますよ」


「それはありがたいことだ。だが、それでも君らはメダルドや『ルファード』の商人たちのことを、信じてはくれないか」


「……残念ながら、不安はぬぐい切れません。このまま、『ルファード』の者たちが城塞内にい続けることを脅威に感じます」




「ならば、出て行けとでも?帝国と戦うためにも、彼らがいた方が有利だ。それどころか、我々の結束が乱れれば、この街はあっという間に帝国に攻め落とされるかもしれんぞ」


「……避けたい破滅ですな。ですが、我々も、確証が欲しいのです。『ルファード』と……その、あの…………」


「……『オレ』が、『オルテガ』を占領するかもしれないと、本気で怯えているのかな」


「……え、ええ。正直になることを、許していただけれるのなら……」




―――ソルジェはガルーナ王になる予定だし、軍人として十分な実績もある。


それでも政治家としての経験は乏しく、自分の権力に無頓着でもあった。


これは自覚を深めるための、いい訓練になるだろう。


もはや一戦士ではなく、いついかなるときも政治力学を引き連れた政治家だ……。




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