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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その九十五


―――迷宮都市にある商館の一つで、不安げな議員たちが集う。


リヒトホーフェンにより議会も解体されて久しいからか、彼らは自信を失っていた。


選挙による統治者の権利は、時間制限がつきものだからね。


彼らは自分たちが本当のリーダーなのかについて、自分でも納得できていない……。




―――『他にいない』から、彼らが呼ばれただけに過ぎないんだよ。


そもそも、この立場を『与えてくれた』のは?


ソルジェとガンダラに思えてしまう、二人が拒めば議員たちの立場も消える。


選挙という形に立脚していない状態で、都市の運命を背負うべきなのか……。




―――彼らは自分たちの正当性に不安を抱きつつも、質問している。


『オルテガ』市民にとって、最も大きな利益を守るために。


自分たちが支配されないために、可能な限り抵抗すること。


それだけを選び、ソルジェに怖がりながらも対面していた……。




「オレたちは侵略者になるつもりはない。『ルファード軍』が『オルテガ』を占拠することは、あくまでも帝国軍に対して守りを固めるために他ならない」


「それは、理解しているつもりです……」


「『ルファード』の者たちも、『オルテガ』を奪い取りたいわけじゃないんだ。平時ならばともかく、彼らも疲弊している。帝国の支配から抜け出したばかりで、不安定な状態なんだぜ」


「……我々を、侵略する余力はないと……?」




―――『王無き土地』の都市国家同士は、争いの歴史だ。


とくに城塞が継ぎ足されていき、迷宮とも呼ばれる街並みとなった『オルテガ』は。


疑心暗鬼になって当然だけど、今のところメダルド・ジーに侵略の意志はない。


『ルファード』が通常の状態であれば、侵略したかもしれないけれどね……。




「その通りだ。戦士たちは、誰しもが疲れ果てている」


「……それでも、疲労は一晩寝れば取れるでしょう」


「疑い過ぎることはない。『オルテガ』を奪い取る気は、こちらには毛頭ない。メダルドや『ルファード』のリーダーたちとも、そんな会話はしたこともないぞ」


「……貴方と彼らの関係は、親密なものかもしれません。ジーの一族の長を、名前で呼ぶほどに。しかし……か、彼ら『ルファード』商人たちが、貴方に秘密で何かを企むことはありませんか?」




―――政治は旗幟鮮明でなければ、疑いを招きやすいものだ。


メダルド・ジーという『人買い』と、『自由同盟』の幹部の一人が親しい。


その事実がソルジェに対しての評価を、見えにくくしている。


この議員たちからすれば、ソルジェはまるで狡猾な政治屋にさえ見えた……。




―――人間族と亜人種たちが混成する軍隊、『ルファード軍』の経路も難解だ。


議員たちはこの集団を率いている者を、よく見極めている。


『ルファード軍』の実質的な意思決定者は、ソルジェなのだから。


だからこそ、議員たちはメダルドを使って揺さぶりをかけたんだ……。




「メダルド・ジーに、政治的な野心はない。彼は、いつでも商人だし、その領分を越えたがっているわけじゃない」


「そう、でしょうか。彼は、貴方のそばに来る前は……帝国貴族に接近していました。私たちは、把握しています。ボーゾッド伯爵と、親密にしていたと」


「帝国軍に支配されていた状態だ。『人買い』の仕事も奪われていた。ボーゾッドと組むほか、商いを継続する方法はない。それは、君たち『オルテガ』の商人たちも同じだったはずだ」


「……え、ええ。そうですが……ボーゾッド伯爵は、リヒトホーフェンと敵対していました。ボーゾッド伯爵と『ルファード』の商人たちが組み、『オルテガ』を奪い取る企みをしていたのでは?」




―――老獪な話術の使い手は、仲違いをさせる能力が高い。


結束が力であることを熟知しているからこそ、それを割る術を心得ている。


帝国も脅威だが、『オルテガ』の『敵』は帝国だけとは限らない。


議員たちは、『ルファード』とソルジェのあいだに亀裂を入れたがった……。




―――あくまでも『オルテガ』を守るためであり、それ以外の理由はない。


これは交渉事に過ぎなくて、本音は関係なかった。


『オルテガ』の自治を取り戻そうと、この火事場で議員たちは奮闘している。


ソルジェを怒らせずに、自分たちの会話を聞くように心理操作を試みている……。




「気高いソルジェ・ストラウス卿。我々は、貴方と交渉したいのです。議員としての立場が、選挙に支持されている状況とは断言しかねますが……今この状況で、選挙をしている余裕も、議会を開く余裕もない……」


「市民たちを代表しているだろう。この街を占拠している戦士たちのリーダーの一人であるオレにも怯えず、故郷のために政治をしている」


「……恐怖ゆえに、でもあります。我々は、リヒトホーフェンの侵略を受けたときの議員です。当時の民意を、そのままに伝えることで……職責を果たしたいのですよ」


「攻め込まれたとき、市民たちは反抗した。街の外の勢力に、支配されることを望んでいなかったと」




―――議員たちはうなずいた、自らの正当性に迷いつつも彼らは選んだ。


議員として選ばれたとき、市民から期待されていた方針を貫くと。


ソルジェにもそれは伝わるし、ソルジェから嫌われる態度でもない。


『王無き土地』にある支配を拒む価値観は、放浪者となった亡国の竜騎士に届く……。




―――それもまた、老獪な議員たちは読んでもいた。


竜騎士ソルジェ・ストラウスについての情報を、彼らも集めていたからね。


顔の広さは情報収集には向くし、『プレイレス』を奪還した英雄の存在を知っている。


リヒトホーフェンを倒してくれないかと、とっくの昔に期待したのさ……。




―――『プレイレス』の奪還は果たされて、議員たちは夢見ていた。


自分たちの都市も解放される日が来ることを、願ってはいた。


そして、そう願いつつも警戒してもいたのさ。


議論好きの彼らは、密かな会議で話していた……。




「……私たちこそが、『ルファード』よりも先に貴方と接触できたなら、ここまで警戒することはなかったのです。そうなれば、理想的だったからですね」


「メダルドがいるポジションに、君らがいたと?」


「そう、なりますね。メダルド・ジーと同じか、それ以上に、貴方へ協力的だったかもしれません。私たちは、帝国貴族から迫害されていましたから。彼とは、違って」


「メダルドは、ボーゾッドに毒殺されかけた。それほど疑ってやるなよ。『人買い』も廃業すると誓っている。理解してくれ。オレは、メダルドを信頼しているんだ」




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