第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その八十九
しばしの休憩時間は終わった。忙しい夜は続く。
ゼファーに乗り、『オルテガ』の上空へと飛んだ。
ガンダラやメダルドと合流することも大切ではあるがね、それよりも先に威圧と偵察をかけておくことにした。
竜太刀を掲げ、その先に『炎』を呼ぶ。
これで遠くからも目立てるわけだよ。『ルファード』軍には、オレたちの健在を伝えられるし、それ以上にしておきたいことは、帝国兵どもへの脅しだ。指揮系統が壊滅しているとは言っても、まだ戦える体力を残したままの兵力も『オルテガ』の内外にいる。
捕虜となったはずだが、状況が変われば意識も変わるものだ。反乱を起こされてはたまらない。
見せつけてやるのだよ。オレたちの勝利をね。
……『オルテガ』の外の闇に潜みながら、こちらを偵察しているはずの敵にもだ。
こいつらの方が警戒すべき点がある。『オルテガ』に近づく敵戦力、空にいるオレたちに気づけば、目立たないように動こうとするだろうよ。
『オルテガ』内外の敵に対して見せつけるために、ゼファーは目立つように旋回した。時間をかけても、かまわん。こちらも地上の状況を確認しておきたくもある。
巨大なイバラが暴れ回ったおかげで、街並みはすっかりと崩壊していた。『ルファード』軍と帝国軍の戦闘によるダメージも、当然ながらある。これを確認して、可能な限り早く補修しておかなくてはらならん。
上空から偵察することで、修理の優先順位を決められるわけだ。
「北東部の城塞が、やけに崩されているな」
「うん。帝国兵を逃がすために、包囲を緩めていたところだよね」
「逃げるときに、帝国兵が破壊工作をしていたってこと?」
「それもあるだろうが、それだけじゃない。見てみろ」
「……地面ごと、えぐられている。あのイバラの怪物どもが、地面の底から突き破ったのね……城塞近くまで」
「ゼベダイ・ジスの意志が反映していたのかもしれんな」
「帝国が『オルテガ』を再攻略しやすいように?」
「そのようにも見える。戦場には、偶然はない。合理的な悪意が支配しているものだ。腐っても、帝国軍人ではあったということだろう」
軍人として最悪の裏切り者ではあったが、こういう置き土産も用意するのは、あの男らしくもある。
「想像していた以上に、破壊されていやがるぜ」
『オルテガ』を守り切るためには、リスクとなる。修理し切らない限り、迷宮都市の頑強さは失われたままだ。
「ど、ドワーフたちを廃鉱から、た、助け出せたのは、ついていましたね。か、彼ら、『オルテガ』での作業にも、慣れているはずですしっ」
「ああ。彼らに工事の指揮を執ってもらうことになるかもな。彼らじゃなければ、『オルテガ』市民の大工だろう」
『オルテガ』外周を旋回して、アタマのなかにある地図に被害状況を書き込んだ後で、街の中心をにらんだ。
「お兄ちゃん、何が気になっているの?」
「……『帝国軍のスパイ』どもの動向を、気にしておきたくてな」
「そっか。これだけの大きな事件だもん。あいつらも、動くよね」
「『寄生虫』の回収を狙うでしょう」
「間違いなくな。『寄生虫』は、『ゴルゴホの蟲』の原型だ」
リヒトホーフェンは政治的にもユアンダートの敵だった。『カール・メアー』を派遣されるほどの異端者であるし、ライザ・ソナーズとも近しい。つまり、レヴェータ側についてもいた。
「調べていただろう。『カール・メアー』から情報を得ていたかもしれん……」
「リヒトホーフェンの拠点に、戦士を送ってもらいましょう」
「……ああ。それが一番だな」
「『ギルガレア』の指摘を気にし過ぎるのも考え物ですわ」
さすがは、レイチェル・ミルラだった。オレは考え過ぎてしまっている。『ギルガレア』は教えてくれた。この魔眼のおかげで、神さまが敵に回りやすいのだと……。
「敵が『悪神にまつわる力』を『集めようとする』のであれば、『帝国軍のスパイ』は典型的な実働部隊ですものね」
「ああ。『ギルガレア』の指摘に、過敏になってもいるのかもしれない」
「ヒトには限界があるものです。リングマスター、もっと周りを頼ることにしましょう。先ほどの若者のように、貴方からの仕事を欲しがっている者も多いのですから」
「……ありがたいことにな」
「私も、命令してくれたら働くわよ?」
「ククク!……やる気のある若者だらけで、楽できそうで何よりだぜ。だが、まずは、補給するとしようか」
「……そうね。もう、射るための矢もないから」
『じゃあ、がんだらたちのところに、おりるね!!』
「おう。頼りになる副官殿にも、しっかりと頼るとしよう」
空をゆっくりと旋回して、ゼファーは『仲間』たちの集まる場所へと降りた。多くの戦士たちが歓声を上げてくれたよ。
「ストラウス卿だああああああああ!!」
「『オルテガ』を守り切ったぞおおおおおお!!」
歓声を浴びるゼファーは心地よさそうにニンマリと笑いながら、ガンダラとメダルドのもとまで歩いてくれた。
「お帰りなさい、団長。お疲れ様でした」
「ああ。そっちもな」
「……どんな敵にも勝てるってことかい。相変わらず頼りになるな、あんたは」
「猟兵は、最強なんだよ」
「……ハハハ。そうらしいぜ。全員、無事だな?……ルチアも……?」
「無事だ。ルチアも、ここにいる」
「……見つけてる。良かったよ、ルチア。君は、オレにとって親族の一人だからな」
「ええ。メダルド・ジー。あなたも、無事で良かった。体調は、大丈夫?」
「……ミスター・ガンダラにも心配されてね。さっき、『オルテガ』の医者にも診てもらったよ。心臓の具合も、良いらしい。案外、タフな男だったらしいぜ」




