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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八十五


―――『ラウドメア』は滅び去り、ガルーナの民は大いなる歌を獲た。


歓喜と共にアーレスの名を讃える、竜騎士姫にまつわる記憶の多くを失ったが。


アーレスという名の響きに、彼女を感じられる。


山ほど大きな悪神を滅ぼした者たちの歌は、後世まで長く継がれた……。




「アーレスは、思っていた通りのすごい竜だったんだね!」


『うん。あーれす、あくかみを、たおした!……みんなのちからも、かりていたけど。たいようみたいに……おおきな『かきゅう』なんて…………ぼくも、そのうち……ッ』


「良い影響を若手たちに与えられそうで、何よりですわね。それに、リングマスターも、失われていたはずの歴史を知れました」


「ああ。竜騎士姫については、『歌喰い』のせいで伝えられていなかったからな。何とも、得難い経験となったぞ」




―――悪神は去り、北方諸国はいつもの日々へと戻っていく。


野心的な王たちが立ち上がる、戦いで疲弊したガルーナを狙わないはずもない。


『ラウドメア』のために組まれた即席の同盟は、すぐさま失われたのだ。


ガルーナの若王が軍隊を再建するまでの間、アーレスは多くの戦の空を飛ぶ……。




「……『ラウドメア』がいなくなっても、戦いは続いたのね」


「北方諸国らしいだろう。戦がない土地で、竜騎士の伝統が長く続くはずもない!」


「生き生きした顔になるのね。そういう歴史が、ストラウス卿たちを強くしたんだ」


「ガルーナ人は、野蛮な北方人なのだよ」




―――竜騎士姫の忘れ形見である双子を育てつつ、『影』の乙女も空を舞う。


アーレスと共に数多の戦場を飛び、一度たりとも敗北はない。


あらゆる戦において、いかなる強敵にも勝利を続けた。


竜騎士姫に代わり、奪われた竜乗りの技巧と知識を創り直していく……。




「……そんなに、すごかったのに。どうして、『影』ちゃんの歌はないの?」


『そーだよ。どーして、ないの?』


「う、『歌喰い』の影響は、彼女にはないわけですよね?」


「望んだからさ」




―――長い戦いの日々を、『影』は過ごしていく。


戦場でアーレスと共に飛び、双子たちを『教師』として育てた。


竜騎士の戦術と装備も改善し、竜騎士団の力を強める。


何年も何十年も、彼女はストラウス家に尽くした……。




―――名誉と実績は高まったが、彼女は自らの名前を封じるようになる。


「どうして、そんなことをするの?」


双子たちの問いに、彼女は微笑みながら応えた。


「ウフフ。私は、お姉さまと『一緒』がいいのですよ」……。




―――彼女が選んだ道である、仔竜ザードがその名を捧げたように。


彼女もまた自らの名を、竜騎士姫の伝説に捧げることを選ぶ。


「私は、お姉さまの『影』なのですよ。これこそが望みなのです」


双子は師の歌を残したがったが、彼女の意志を尊重することにした……。




「……だから、『影』ちゃんの名前は残っていないの?」


「忠誠心や愛情の形は、人それぞれにあるものですから。『影』にとっては、この形が望ましかったのでしょう」


「うーん。知りたかったな、その子の名前も……でも、その子がいたことが分かって、良かった!」


「覚えておくとしようぜ。竜乗りの技巧の系譜だ。意識することで、得られるものも増えていくだろう。ケットシーであるミアは、とくにな」




―――長い時が過ぎていき、やがて『影』もこの世を去った。


アーレスは自らの子や孫たちと共に、多くのストラウス家の竜騎士と飛び続ける。


数多の歌が生まれて、戦場に多くの命が散っていく。


血に染まり血が継がれ、時間が流れていった……。




―――すべての命に限りがあるように、すべての王国にも限りがあった。


ガルーナ王国と竜騎士姫の竜アーレスにも、終わりの日が訪れる。


東の大国と、裏切りの同盟国の手によって。


ガルーナの歴史は、その日に終わる……。




「……屈辱の日だぜ。バルモアも熊野郎どもも、ユアンダートとファリスも、許しはしねえからな」




―――ストラウスの血を継いだ最後の竜騎士が、左眼を失い戦場で倒れ込む。


アーレスも死に瀕した、終わり方を選んだ。


止まりゆく若い竜騎士の心臓に、遺った全ての魔力を捧げる。


『……竜騎士姫よ。この左眼を、返そう』……。




「お兄ちゃんに、くれたんだね」


「……ああ。命も、左眼も……」


「あ、アーレスと……りゅ、竜騎士姫からも、いただいたんですね」


「なかなか、因縁深いプレゼントだよ」


 知らなかったことを知れた。アーレスが、『ザード』という名を持っていたことも、『影』であることを望んだケットシーの英雄がいたことも、竜騎士姫の戦いも……知らなかったことを多く教えてもらえた。


 ルチアに抱えられている『ギルガレア』の首を見たよ。


「ありがとう、『ギルガレア』。死の間際に多くのことを教えてくれて」


 赤い目がこっちを向いた。空の果てに遠ざかる、もう一つの『オルテガ』から視線を下ろしてくれたのだよ。


 すっかりと疲弊し切っていたし、その輪郭は……虚ろとなっている。消え去ろうとしているのに……長い語りをしてくれた。


『『不滅の薔薇の世界』は、不完全ではあったが……神々の干渉を、跳ね退けていた。お前たちの心を覗いた過程で……竜太刀に眠る竜の記憶も読み解けた……伝えるべきは、今このときしかあるまい』


「感謝する。忘れ去られた物語をも、オレは継承した」


『そうだ。学べ……より多くを知るといい……お前に、託したのだからな……救ってやれなかった者たちを……より多くの弱い者たちを、お前に救ってもらうために……力が必要だ』


「空に浮かぶ城塞は、もらうぞ」


『ああ……竜太刀を掲げて、呼べばいい。お前の望みのままに、顕現してやろう……だが、悪神との戦いにも、備えておけ……『ラウドメア』に喰われた者との絆が、お前は深すぎるのだ』


「この左眼の『おかげ』で、悪神と出会いやすいと?」


『そうだ。お前がその魔眼の力を使うほど、強めるほどに……因果は深まる。祝福でもあり、呪いでもあると認識するがいい』




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