第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その八十四
―――空を焦がしながら迫る、巨大な火球。
漆黒の軌跡は正面から挑んだ、小細工など不要である。
『ラウドメア』は竜騎士姫を真似し過ぎている、まるで『ヒトのようだ』。
推し量ることが難しい『ゼルアガ』の権能ではなく、『魔力を使っている』……。
―――「ならば、読める!!お姉さまの力を借りたというのであれば……ッ」
『なおさら、読めるぞ!!たとえ、『歌喰い』で記憶が消し飛ばされたとしても!!』
「理想的だと考える力の使い方を想定すればいい!!大きな力ほど、読解も及ぶ!!」
『タイミング一つで……突破してやるぞッッッ!!!』
「正面から、挑むなんて……無謀が過ぎるわ……ッ」
「ううん。これしかない」
「最善策だ。怯まなければ、勝てる」
「太陽みたいな火球に突っ込むのに、怯まないなんて……やっぱりムチャなハナシだわ」
―――羽ばたきと落下を合わせて、流れ星のように真っ直ぐに。
『歌喰い』に喰われた記憶は戻らないままであるが、戦いは必然に至った。
アーレスはその全身を魔力で補強して、この突撃に挑む。
それは『龍の焔演』、竜騎士姫の奥義であった……。
「わ、忘れているはずなのに?お、奥義を使えた……?」
「他に手段がない。それだけに、自ずと道は似る」
『うん。『どーじぇ』とはじめたあったひも、そうだった。おいつめられたとき、ぼくは、『りゅうのほむらの』をつかえたの!』
「アーレスも、使えるよね。忘れていても、血には刻まれている。竜騎士姫と、いっしょに戦って来たパートナーだもん!」
―――『風』で速さを、『雷』で力を強めた。
突撃していく頭部と牙には、『炎』で鋭さを与える。
火球にアーレスと『影』は正面から突撃し、空を焼き払うほどの爆発が生まれた。
北方諸国のあらゆる国から、天に暴れる炎は見える……。
―――想像していた以上の威力であり、地獄のような痛みが頭部に走った。
突撃に迷いは一切なかったものの、背にいる『影』を庇ってもいる。
そのために首を動かして、彼女が吹き飛ばないように気を遣ったのだ。
結果として、アーレスの頭は揺さぶられて意識は飛ぶ……。
―――「貴方は、本当に……すばらしい竜ですよ、アーレス!!」
「私は吹き飛んでも良かったのに、それでも守ってくれた……」
「貴方は、お姉さまから……そういうやさしさも得たのでしょう……」
「……ですが。ガルーナの竜騎士は、竜の負担にはなりません!!」……。
―――小さな身体が、竜の背の上で必死に動いた。
意識を失った竜に、飛ぶべき方向を伝えるために。
意識はなかったとしても、アーレスは『影』が与える技巧に反応する。
もがくように翼を羽ばたかせ、いまだに空でうねる灼熱の激流を乗り切った……。
―――アーレスは意識の消失のなかで、幻想を知覚する。
『誰かと共に旅をした気がする場所』を、いくつも巡るのだ。
『誰かと初めて会った罪深い母竜殺しの夜空』、『誰かに片目を奪われた森』。
『誰かを背に乗せて、王国の内外にいる強敵たちとの度重なる死闘を勝利した日々』……。
―――遠くまで旅をして、ヒトと生きる世界を認識していった。
竜らしくないような気もしたが、いつの間にかその暮らしをも受け入れる。
大嫌いだったはずなのに、今では違っていた。
赤毛の『誰か』が、この世のどこでもない場所で微笑んでいる……。
―――風に撫でられたような感覚を得て、アーレスの意識は覚醒した。
即座に状況を理解して、飛ぶべき軌道を貫く。
加速しなければならない、『ラウドメア』の火球を抜けたのだから。
守るためではない、勝利のためにこの道を選んでいる……。
―――『勝って、歌を作るぞ!!オレたちの歌だ!!』
山よりも巨大な『ラウドメア』が、その目を見開く。
勝利を確信していたのだ、この火球を『貫かれる』などと想像してもいない。
だからこそ、アーレスは巨敵のふところに飛び込めた……。
―――竜は牙を剥いた、『炎』に強化された鋭さがそこにある。
狙うべき場所は一つだけ、『ヒトは魔力を血で運ぶ』のだから。
『ラウドメア』が竜騎士姫を模倣したとき、身体構造も再現していた。
最も多くの血が流れる『弱点』に向けて、アーレスは牙を叩き込む……。
「悪神の『首』に噛みついた。それが、お前たちの歌だからな。アーレスよ」
―――天も地も揺らしてしまうほどの大きさで、『ラウドメア』が絶命を叫ぶ。
火山の噴火のような赤い奔流が、悪神の血が。
その巨体から噴き上がり、失われていく。
あらゆる力を使い果たした上で、大きな術を使った直後の致命傷……。
―――人々を『歌喰い』の恐怖で呑み込んだ悪神に、限界は来た。
山よりも巨大な全身が、大地に横たわっていく。
命を失い、消滅してしまいながら。
悪神の危機は、こうして終わりを告げる……。
「勝った……勝てましたね、アーレス……っ。これで、これで……っ。ガルーナも、お姉さまの忘れ形見である、お子さまたちの命も……っ。守られる……っ。ああ、ああっ。お姉さまの……名前を、こんなに、お呼びしたいのに……っ」
『……オレの名を、呼ぶがいい。オレは、あいつの分まで、背負っていく』
「……っ。はい。私も、ですよ、ザード……ううん。アーレス。私も、この命が尽き果てるそのときまで……いいえ、死んだあとでも……ガルーナとお姉さまに、お仕えします」
『それでいい。お前は、賢いからな』
―――竜騎士姫の技巧と知識を、何百年の後の世にまで伝えることで。
死をも越えた忠節とすることを、『影』は選ぶ。
愛する主と、憎むべき敵の消えた世界を生きながら。
『影』は、大いなる使命を果たすことになるのだ……。
「でも、今は……さあ!アーレス!皆を安心させてあげましょう!!勝利を、歌うんですッッッ!!!」
『GHAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』




