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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八十一


『……あーれすは、そばに……いたんだ』


「自分の名前を、変えたのですね。竜騎士姫を覚えておくために。彼女の名残りを持つ名前に変えた……」


「それだけ、竜騎士姫のことが大切だったんだね。竜にとっても、名前って、大切だもん。自分の歌が残るためには……アーレスは、本当に、心の底から。竜騎士姫のことが、大好きだったんだね」


「……竜騎士姫に仕えた、紳士な竜か。アーレスよ。何とも、お前らしい」




―――祝福はつながった、最強を求める本能に逆らって。


自らの名誉だけを求めることはせず、黒い仔竜は名前を捨てて受け継いだ。


竜騎士姫の名を継ぐことで、『歌喰い』の権能にさえ逆らう。


後悔することは一度もない、このときよりガルーナで最大の歌はアーレスとなった……。




―――仔竜アーレスは長い首を振って、涙を北の風に払い捨てる。


金色の双眸は健在だ、竜騎士姫から『戻してもらった』。


魔力は回復してくれる、完璧でなくとも十分だ。


空をにらみつけ、あらゆる歌が還るべき場所へと猛りを放つ……。




『GHAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』




―――血が湧き立って、迫るべき敵を待つ。


大地の底でうごめく『ラウドメア』も、気づいているのだ。


竜騎士姫は死んだとしても、まだアーレスが地上に君臨している。


爪で大地を切り裂くように握りしめ、世界で最も怖い顔で待ち受けた……。




―――『ラウドメア』は地上へと向かい、動き始める。


全ての力をかき集め、奪い取ったあらゆる歌を使い。


ガルーナの竜を滅ぼすために、地上へと向かった。


勝利を確信している、たった一匹残った敵ごときと軽んじる……。




―――だが、アーレスだけではない。


地上にいたのはもう一人の英雄、歌となることを自ら拒んだ竜騎士姫の『影』。


双子を預けられていた、ケットシーの乙女。


主と共に、竜乗りの技巧と知識を紡いだ謳われぬ英雄……。




「……ケットシー?誰……?」


「オレも知らん。竜騎士姫の『影』……か」


「そ、そういう方もいたんですね」


「生まれたばかりの双子を預けるとは。竜騎士姫が、誰よりも信頼していた『腹心』ということでしょう」




―――「お姉さま、お姉さま!!……待っていてください、今すぐ行きますから!!」


乙女は泣きながら、雪の積もった道を駆けている。


『歌喰い』の力に、大切にしていた記憶を奪われながらも。


涙をぬぐい捨てながら、思い出せなくなった主のことを探した……。




「……『歌喰い』のせいで、竜騎士姫のことを……この子も、思い出せなくなっているんだ……っ!!ひどい……ひどいよ、『歌喰い』って、本当にサイテーだ!!」


「ええ。かわいそうに。愛する者の名前さえ、覚えておくことがゆるされない。体が裏返るほどに、叫びたくなったでしょう」


『……うん。きっと、すごく……さけんでいた』


「か、悲しいですね。こ、こんな悪神は……本当に、最悪です……」




―――黒髪を振り乱しながら、『影』はその場にやってくる。


捨て身の墜落により穿たれた、大地の長い傷跡の果て。


仔竜アーレスが座して待つ、竜騎士姫が消えた場所。


愛を求めて来たが、それだけではない……。




「だろうな。彼女が、ガルーナの英雄と言うのであれば。戦士であるのならば。ストラウス家を守るべき使命のために、戦うためにやって来たのだ」


「ザードが……ううん。アーレスが、地上に激突したとき、気づいたんだね。自分が『最後の砦』になるかもしれないって……ザードと、竜騎士姫が、どっちも死んじゃうかもしれないって……」


「双子を預かっていたのです。彼女こそが、ストラウスを守る最後の忠臣……」


「……竜や竜騎士姫を倒したかもしれない悪神に、彼女は……ひ、一人で、立ち向かう覚悟をしていたってこと?……真似、出来ないわ……」




―――「ザード!!ザード!!思い出せないんです!!」


「お姉さまの顔が……声が……名前が……っ!!」


「どんなことをしていただいたのか……わ、忘れているんです!!」


「忘れるはず、ないのに!!忘れて、いいはずがないのにっ!!」




―――『……オレの名前は、ザードじゃない。アーレスだ』


「……アーレス?……しゃべり方も……どうして、変わっているのです?」


『あいつの名前を、オレが背負う。あいつの歌は、オレの歌となる』


「…………お姉さまの……名前…………っ!!」




―――聡明な猫は気づくのだ、仔竜のしたことの意味を。


「……ああ。アーレス……たしかに、お姉さまの、気配がします……っ」


『オレが歌われたならば、あいつも歌われる。この名こそが、オレたちだ』


「……はいっ。ガルーナで、最も大きな歌となってください……っ!!」




―――竜騎士姫の『影』は、牙を見せるように笑う。


奪われていく記憶のなかにいる竜騎士姫とそっくりな、戦いのための笑みだった。


『影』を二つの双眸で見つめながら、仔竜アーレスは求める。


『……オレの背中に、乗れ』




「……えへへ。この子も、やっぱり、竜騎士なんだね!!」


「ケットシーの、竜騎士か。竜騎士姫の、相棒……」


『なんだか、みあみたいだね』


「だよね。私も、そう思う。がんばれ……相棒さん!」




―――「無理だわ!!……だって、私は……お、覚えていないもの!!」


「お姉さまと、作ったはずの技巧も……知識も……竜乗りの方法は……っ」


「ぜんぶ、お姉さまといっしょに作ったんだから!!」


「だから、だから……おぼえていないの……っ」




「大丈夫さ―――」


「―――大丈夫だよね」


「竜乗りの技巧と知識は―――」


「―――血が覚えているんだもの!」




―――『乗るがいい。怖がらずに、乗るんだ。オレと共に、戦ってくれ』


「ザード……ううん。アーレス……あなたが、そんなことを言うなんて……」


『……認めよう。『ラウドメア』という敵は、強い。オレだけでは、勝てん』


「……っ!!それを、認められるように、なったのですね……っ」




―――『そうだ。オレは、オトナになったんだ。ガキのままではいられん』


「……ええ。お姉さまも、もう……今は……いないのですから」


『そのとおりだ。だが、オレは、一人じゃない。ストラウスの竜騎士は、まだいる』


「…………はい。私が、お姉さまの代わりを、務めさせていただきます」




―――記憶は失った、知識を失った。


それでも、『歌喰い』に蝕まれない本能めいた感情があった。


仔竜ザードの背に、『影』は飛び乗る。


感覚さえ忘れているが、それでも血と肉と骨に刻み付けた経験が踊った……。




―――腰を低くし、前かがみになる。


竜の背に密着するようにして、竜の感覚の全てと一つに融け合った。


感じ取るのだ、倒すべき敵の気配を。


大地は揺れて、その奥底から邪悪は来る……。




―――「……来ますよ、アーレス。地面が、怖がるみたいに震えている」


『そうだな。あいつも、怖がっているんだよ』


「……フフフ。そうですね。だって、あの悪神は……」


『このオレたちと、戦わなければならんのだからなあッッッ!!!』




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