表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4128/5090

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八十


「竜騎士姫は、死んじゃいそうなんだよね?」


「そうだ。この戦いで死ぬことになる。『ラウドメア』に殺されたから、彼女の存在は奪われている。どんな戦いをしたのか、どんな名前だったのかさえ……『歌喰い』の力のせいで、後世には残らなかった。今このときまで」


「か、彼女は……死んでいきながらも、消えてしまいながらも。しょ、勝利を確信していたんですね。ま、まるで、ヴァシリ・ノーヴァさまたちみたいだ……」


『……あれさ・すとらうす…………あーれすは、なにを、しているの……ッ』




―――『歌喰い』の力が始まり、瀕死の竜騎士姫の姿が薄まっていく。


指先が消えてしまい、仔竜ザードは鼻先から感じられる体温もいなくなった。


『いやだ、いやだ!いやだ、いやだ!!おれは、おまえがいないといやだ!!』。


気高いザードも素直になってしまう、この別れはあまりにも苦痛を伴った……。




―――『おれは、つかれているんだ!!ぼろぼろだ、『ラウドメア』にかてん!!』


『おまえがいなければ、あいつにはかてないんだ、あれ……っ』。


忘れられるはずもない名前さえ、心から奪われていく。


歯ぎしりして頭を振って、どうにか無理やり思い出しつづけなければならない……。




―――『歌喰い』の恐ろしさに、仔竜の心は引き裂かれていく。


どれだけ大切であっても、どれほど重要なことであっても。


覚えておくことさえ、許されないのだ。


雄々しさとは真逆の弱さを帯びた、あまりにも悲痛な歌を仔竜は放つ……。




―――竜騎士姫はしかりつけるためではなく、異なる言葉を使おうとしたが。


声を出すことさえ、もう彼女には許されなかった。


彼女を構成するあらゆるものが、何処かに遠ざかる。


死後に魂が行くべき場所ですらない、完全なる虚無……。




―――悪神の腹の奥底に、彼女の魂は呑まれるのだ。


悔しくはあり無念ではあったが、竜騎士姫が最期に選んだのは微笑みである。


勝利を信じる彼女は、人生を振り返った。


十分に戦い抜いた人生であったことは、疑う余地はない……。




―――その戦いの全てが、歌として残らなかったとしても。


あこがれた英雄たちの連なる場所に逝けなかったとしても、彼女のとなりには竜がいる。


泣きじゃくってくれるその顔が、あまりにも愛おしい。


気高くて勇敢な者が泣くための痛み、その始まりには愛があるのだから……。




―――誰よりも竜に愛された姫君は、微笑みを風に残して。


仔竜の前から去り、仔竜の左眼は蘇る。


竜騎士姫に『斬られた』ことさえ、『歌喰い』の力は奪ったのだ。


仔竜は誰よりも遠くを映せる双眸を取り戻したが、涙に揺らぐ視界に彼女はいない……。




―――悲しみに襲われながらも、仔竜は戦い抜いていた。


奪われていく実感を、自らにとどめる方法を模索する。


彼女のことを忘れたくないのだ、消滅に荒されていく記憶を守りたい。


誰も知らない方法を探す、どうすればいいどうすればいい……。




「……ザード、かわいそうだよ。竜騎士姫のこと、こんなに大好きなのに……っ」


「『歌喰い』の力は、それほど圧倒的なものなのですね。ヒトどころか、竜の心からさえ記憶を奪う……」


「死者への想いさえも、奪われる。あまりにも邪悪だわ……」


『…………それでも、ぜんぶは、わすれなかったんだ。あーれす……』




―――仔竜ザードは思い出せなくなる、竜騎士姫の顔さえ分からない。


あれだけ一緒にいたはずなのに、誰よりも見た顔のことも思い出してやれない。


発狂しそうになるほどの大きな孤独に囚われて、空に向かって吼える。


爪を使って大地を引き裂き尾で叩き、痛みと怒りに世界を揺らした……。




―――闘争を最も喜ぶのが竜であるが、それだけが大切ではなかったと悟る。


もはや思い出せない多くのことが、記憶にすら残らない痛みの重さが。


それらの価値を、知らせてくれるのだ。


仔竜ザードは大きな怒りに牙を剥き、去り行く全てに抗った……。




―――『ラウドメア』は仔竜の苦しみの裏側で、大地の深くへとたどり着く。


地の底に残していた、自らのあらゆるものを。


力の全てを集め、その身を肥大化させていく。


あらゆる『歌喰い』で奪い取った力が、この悪神を復活へと導くのだ……。




―――奪ったばかりの竜騎士姫の歌さえも、『ラウドメア』の力に融ける。


死に絶えようとしていた力が、復活していく。


仔竜ザードが叫ぶ場所の奥底で、大地の底で。


邪悪な笑みに『ラウドメア』は愉悦した、再戦と勝利を確信したのだから……。




―――『わすれない……ッ!!わすれる、ものか!!うばわせはしないぞ!!』


『おまえのたいせつだったもののすべてを、おれがまもる!!』


『がるーなを、このとちを、すとらうすを……ッ!!』


『……おまえに、おれをくれてやる!!おまえのなを、おぼえておけないなら!!』




『おれのなまえに、おまえをやどす!!』


『おれは……おれのなまえは、ざーどにあらず!!』


『きけ!!きけ、がるーなよ!!すべてのりゅうよ、すべてのせんしたちよ!!』


『おれのなまえは、このしゅんかんから、アーレスだッッッ!!!』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ