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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その七十七


―――偽りの竜の姿を選んだのは、恐怖の記憶ゆえのこと。


『ラウドメア』が心に抱く、最強の存在はすでに自身ではなくなっていた。


かつての竜騎士姫の愛竜であり、黒い仔竜の母竜の『最盛期の姿』だ。


それに悪神の力を捧げれば、背後を追いかけてくる敵にも勝てると信じる……。




―――計算高く戦術的であり、それはヒトを学び過ぎた結果であった。


かつての敗北を繰り返さぬようにと、悪神はヒトの戦いを学ぶことに傾倒する。


『歌喰い』の力で集めた記憶の力に、異界から来たこの神は純度を奪われていた。


『ラウドメア』はその事実が歯がゆがったものの、勝利のためには頼るほかにない……。




―――勝者とは程遠い妬まし気な瞳となって、獲物を見下ろした。


当たり散らしてやろうと考え、王都を守るガルーナの王と近衛に悪意を向ける。


楽し気な妄想な時間であった、自分を苦しめたガルーナの戦士たちの頂点。


王を殺せれば、どれだけ心は晴れることになるのか……。




「ヒトのような心理構造ですね。『歌喰い』を続けて、多くの戦士を喰らったせいで……強く影響を受けてしまった。『ゼルアガ』とは、ヒトを取り込み続けると、そうなる種類もいるのですね」


「『ギルガレア』さまも、同じ……『蟲の教団』や、リヒトホーフェン一族の記憶を取り込むことで、変わられてしまった……」


「か、神さまも、人々に影響されてしまうんですよ。ぼ、ボクたちと同じように、心を持っているんですから」


「それでも、『ギルガレア』のおっちゃんは誰かのために戦ってる。でも、『ラウドメア』は、そうじゃないよ。自分のことしか、考えていないんだ」




―――嗜虐の妄想が、『ラウドメア』を満たしていく。


戦場から退かざるをえないほど追い詰められた、自分のみじめさを癒すために。


ガルーナの戦士たちの大切な者を奪う、王を殺してやればいい。


どれだけ口惜しがって泣くことか、それを妄想すると歓喜に口もとが歪んだ……。




―――意地の悪いヒトじみた性格となりながら、王へと向かい悪神は向かう。


竜を模した偽りの姿でならば、王も近衛たちも傷つくだろうとも考えた。


かつての国守の要であった白い竜の姿に殺されたなら、どれだけ悲しむか。


うろこが揺れて瞳がゆがみ、邪悪な笑みのまま王を狙う……。




―――追いつけるはずがないと、たかをくくっていた。


竜の姿を模して、先手を取れてもいるのだから。


空を飛ぶ速さであれば、黒い仔竜などに負けるはずがないと。


知らなかったのだ、竜騎士姫ほどの知識を喰らってはいないのだから……。




「追いつけるよね、お兄ちゃん」


「当然だな。竜騎士を乗せた竜の方が、速いに決まっている」


『……うん。ぼくも、そうだとおもう!』


「だよね。だって、空を飛ぶときに必要なのは、翼だけじゃないんだもの!」




―――北方の冬の青い天空を、白い雪が混じった風が吹いて荒む。


竜騎士姫は竜乗りのための技巧と知識を、共同研究者と共に作り上げた始祖だ。


あらゆる竜騎士の祖であり、母だ。


青い瞳が風を読み、炎のような赤い風を揺らす……。




―――北から来る風は、空を支配する二人のしもべのようだ。


大きく広がった漆黒の翼が、風を受け止め加速を深める。


小賢しい悪神が想像することもできないほどの速さが、時間を撃ち抜いた。


王を殺すために下降したはずなのに、竜騎士姫と仔竜に追いつかれる……。




―――その襲撃はくじかれて、王と近衛たちは二人を讃えて歌をたける。


驚愕の電流が悪神の賢さを焼き尽くし、知性を乱暴に揺さぶった。


ありえないと考えていたことが、また起きてしまう。


恐怖を与えるはずの自らが、どうしてこれほど恐怖させられているのか……。




―――地上から響く歌を浴びながら、戦士たちの蛮勇さを思い出していきながら。


『ラウドメア』は英雄が人々に与える効果を、読解していく。


王ではないのだ、自分が殺さなくてはならない存在はガルーナの王などではない。


殺すべきは竜と竜騎士の歌の中心、ストラウスの血脈……。




「お、王さまよりも、戦士たちの中心にいたんですね。す、ストラウス家は」


「アーレスや、その血族の竜たちと共に、数多の戦場に突っ込んでいくのがストラウス家だからな……」


「だから、狙われちゃったんだ。竜騎士姫にも、『弱点』があるもんね」


「ストラウスの血の象徴……竜騎士姫の、子供たちを狙うべきだと考えた。何とも、ヒトの考える悪意をなぞる。強者の不在を、狙うのです」




―――『ラウドメア』は目標を変えたのだ、ストラウスこそを滅ぼすと。


その他に負ける気はしない、竜と竜騎士と歌の中心を滅ぼせれば勝利は確実だ。


竜騎士姫がどうしても焦る対象を、攻めてやればいい。


生まれたばかりのストラウスの双子を狙えば、母親である彼女は揺らぐと計算した……。




―――飛び去る『ラウドメア』の軌跡から、二人はその意図をすぐに読み取った。


仔竜は竜騎士姫の心臓が、それほど激しく揺れることを知らなかった。


どれだけの強敵に挑んでも、自らと戦い合ったときよりも。


こんなに不安げに揺れることなど、なかったというのに……。




―――ガルーナで最も偉大な戦士が、恐怖している。


愛する子らを悪神が襲うことを思えば、血でも吐きそうなほどの恐怖に苛まれた。


それでも彼女は、疑わない。


自分たちで組み上げてきた強さを信じている、愛しき仔竜の首を撫でささやいた……。




「もう一度、追いつけばいいだけだ。『ラウドメア』を倒すぞ、私の『ザード』よ」





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