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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その七十五


―――竜騎士姫と仔竜の冒険の日々が、二人の心を変えていた。


竜騎士姫の夢は、ガルーナで最も大きな歌となることであったが。


このときはその本能から生えていた衝動さえも、大した価値を持っていない。


守ることの方が大切だと、彼女は選んだ……。




―――荒ぶる仔竜も、かつて片目を奪った竜騎士姫への憎しみも怒りも消えた。


言葉にすることはないが、今となっては誰よりも大切な相棒である。


甘えることはない、高潔なプライドがそれを許すことはなかったから。


気高いことは竜にとって大切であり、竜騎士姫もその気高さを愛している……。




『あーれすは、すなおじゃないんだね!』


「ククク!……ああ、そうだよ。あいつは孤高だった。意固地になっていたのだろう」


「可愛らしいところでもありますね。本当は、甘えたかったのでしょうに……」


「男って、竜でも不器用なところがあるのね。家族にも、素直になれない」




―――二人の最後の旅だった、凍てつく北の空へと向かう。


空に広がった漆黒の翼を、多くのガルーナの民が見上げていた。


若き王も、王都の守りを固めながら見送るのだ。


子を産んだばかりの竜騎士姫を、若き王は心配しながらも信じる……。




―――無数の瞳たちが見送った、悪神への恐怖が薄らいでいく。


悪神はその気配を感じ取ったのか、前線を破壊することを望んだ。


ガルーナの軍に全力で襲い掛かり、その隊伍を押し崩して死を量産した。


邪悪の怒涛の前に、疲れ果てていた戦士らは崩される……。




―――悪神は勝利を確信していたが、業の深さは因果を辿った。


自らが殺し回った北方の諸国、ガルーナ以外の国々の戦士たちも怒っている。


『歌喰い』によって、戦友たちの存在さえも消し飛ばされたとしても。


心に穿たれた空虚の痛みが、奪われた記憶の残滓を告げるのだ……。




―――争い合う北方諸国の王たちは、ガルーナへと向かった悪神を放置する。


悪神への同盟を組みつつも、誰もが祖国を優先した。


竜を擁するガルーナが弱体化することは望ましい、竜騎士姫と仔竜は他国を焼いた。


政治的な判断は、ガルーナへの援護を拒む……。




「……ほ、北方諸国が、一致団結することは……で、出来なかったんですね」


「当然ではあるさ。乱世でもある。ガルーナの竜と竜騎士を恐れたのは、『ラウドメア』だけではない……」


「同盟を組みつつも、裏では自国を優先していた。それって、当たり前かもしれないけれど、何だか……」


「うん。本物の戦士はね、そういうのを嫌うよ。今も、きっと、昔も!」




―――戦友たちが消えた心が痛む、悪神への復讐心だけではない。


王が行くなと命じても、勇敢な北の英雄の一部は破壊の痕跡を追いかけた。


彼らは祖国を捨ててでも、心の空虚が放つ痛みに報いる。


政治的な計略より、誇りを選んで国を持たない身となった……。




「ほらね。そういう戦士も、いたんだよ!」


「王さまと祖国の命令に背いたのですね。二度と、祖国には帰れなくなることを承知の上で」


「すごい覚悟よね……それだけ、『ラウドメア』への怒りが強かった。戦友や、民が殺されてしまったことが、許せなかった……」


「う、歌を……名誉を奪われたとしても、心には残っていたんです。ゆ、勇敢な英雄が、本当はいたことを……か、彼らに応えたかったんだと、思います」




―――祖国を捨てた進軍の果てに、帰るべき家を失くした戦士たちはたどり着く。


壊滅しようとしていたガルーナの軍勢の前に、援軍として現れた。


怒りに身を委ねて、戦士たちは悪神に突撃する。


自暴自棄にまで見えたが、それゆえに迷いのない攻めを組み上げた……。




―――『ラウドメア』はガルーナ軍のせん滅よりも、北から現れた戦士たちを襲う。


息も絶え絶えとなっているガルーナ軍、彼らを後回しにしてしまった。


それが大きな間違いとなることなど、気づきもしないまま。


無私の義勇兵となった諸国からの援軍は、捨て身の力を見せつけた……。




―――『歌喰い』の力にかき消されながらも、突撃を緩めない。


祖国どころか命と歌という名誉まで奪われたとしても、ひるむことなど一切なく。


壮絶な死と消滅を捧げることで、『ラウドメア』に傷を負わせていった。


戦士たちは、あまりにも無欲である……。




「戦士たちは、何もかもを捧げたのね。とても、勇敢だわ。英雄として、歌われることがなくなったとしても……名を残せなかったとしても。悪神に挑めるなんて……」


「悲しみも背負っていたでしょうに。見事に戦ってみせた。戦士としての誇りや、本能に従ったのでしょう」


「……そういう戦士とは、酒を酌み交わしてみたいものだぜ。同盟を裏切る連中だけではない。何もかもを捨てても、義勇を選べる戦士たちもいる……」


「そ、そういう戦士に、ボクも、あこがれます……っ!」




―――全てを捧げながら、戦士たちは死んでいく。


ガルーナ軍の指揮を受け継いだ者たちは、驚きつつも感謝した。


彼は期待などしていなかった、北方諸国の王たちに反して援軍が現れるなど。


義勇の戦士たちを疑いさえしていたが、彼らの奮戦を見て真実を悟った……。




―――ガルーナ軍に残っていた体力を、全て注ぐ。


『ラウドメア』に蹴散らされていく戦士らに、共闘するため突撃した。


それもまた歌の力、『ラウドメア』は心を奮い立たせる力にまた怯える。


激戦が再び起きて、命と歌が消し飛んでいった……。




―――『ラウドメア』は戦士たちを呑み込みつつも、敗北の道を転がり落ちる。


戦士たちを蹴散らしながらも、悪神もまた奪われていたものがあった。


消え去る命で、勇敢な戦士たちは作り上げる。


竜騎士姫と仔竜が、この戦場へとたどり着くまでの時間を……。





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