表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4122/5091

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その七十四


「『歌喰い』という権能により、生まれてもいなかったことにされるなら、その子供たちも消えてしまう危険があったわけですね」


「ち、父親の方の死体から、『ラウドメア』はおびえて逃げた。だ、だから、『歌喰い』の力に影響されなかった……で、でも。死体になっても悪神を退かせられるなんて、さすがは団長のご先祖さま……っ」


「見習わなくちゃね!」


「なかなか、真似をするのは難しそうだけれど。戦士としての理想ではあるわ」




―――また一人、英雄が歌となった。


ガルーナの戦士たちを、翼将の死は勇気づけた。


勇猛さに火がついた戦士たちは、疲れ果てた体を悪神へと走らせる。


英雄の歌が喚起する力の大きさを、悪神の心はようやく理解した……。




―――自らが喰らい、消し去り続けた力の大きさに恐怖を抱く。


死さえも越えるような力が実在し、失われたはずの力を蘇らせるものがある。


奪い続けた歌という力の本質を、その英雄の死が教え込んだ。


エサとしていたものが、脅威であることに気が付いてしまう……。




―――エサだから喰らっていたが、この瞬間からは違うのだ。


歌を喰らい続けなければ、歌に負けるかもしれない。


この強大な力が帯びた敵意は、『ラウドメア』に注がれているのだから。


エサから敵となったとき、悪神の心は不可逆の変質を強いられる……。




「歌に怯えたんだね」


「認識が増えることで、分からなくなることもありますから」


「ら、『ラウドメア』は、ヒトを学んでしまった……?」


「戦闘というものは、コミュニケーションだからな。望もうが望むまいが、戦い合う互いに影響を及ぼす」




―――圧倒的な力を有していることには変わりなく、優勢のままだ。


それだけに、自らの心に生まれた恐怖が許せない。


恐怖を否定して、『戻らなければならない』と考える。


神としての尊厳に関わることであり、この不自由な劣等から解放されたかった……。




―――戦士たちを消し去るために、自らを取り戻すために。


荒ぶる『ラウドメア』は、戦士たちに次々と死を与えていく。


歌に狂った戦士たちであったとしても、無限の体力が与えられるわけではない。


滅びの怒涛に軍勢が呑まれていき、『ラウドメア』は自信を増やしていった……。




―――子を産んだばかりの竜騎士姫は、双子をその腕に抱きしめる。


してやりたいことは多くあり、共にしたいこともいくらでもあった。


ちいさな口たちに乳を与えて、そのおでこに母親のキスも与える。


寒くないように毛布へとつつみ、腹心の女に双子を託した……。




「……竜騎士姫、赤ちゃんを産んだばかりなのに、戦いに行ったんだね」


「何とも無謀なことですよ。出産したばかりで、悪神と戦うなどと」


「それでも、するしかなかったわけね。戦場では……旦那さんも亡くなってしまった」


「アーレスも、『耐久卵の仔/グラート・ドラゴン』だ。つまり、弱体化した群れの竜を殺している。竜と竜騎士の頭数も減っていた。竜騎士姫に頼るしか、道は残されてなどいなかったのだろう」




―――黒い仔竜は、不満でもあった。


出陣するならば自分だけでも戦える、悪神の一匹や二匹は倒せるはずだと。


守ってやるために残っていたのだ、翼将からも頼まれていたのに。


それでも戦場へと向かおうとする竜騎士姫に、満足するはずもない……。




―――仔竜と竜騎士姫の契約の始まりは、仔竜が強くなるためにあった。


ガルーナの他の竜たちを喰い殺しながら、最強の力を目指すことこそ彼の本能。


竜騎士姫の技巧と知識を『喰らう』つもりで、その契約は成ったに過ぎない。


契約の際は伝統に則り殺し合った間柄だ、左眼さえも彼女に斬られて失った……。




「……あ。お兄ちゃんと、いっしょだね」


「そうらしいな。しかし……アーレスは、どっちの眼もあった…………ああ、そうか」


「ど、どういうことでしょうか?」


「『歌喰い』の力を、逆手に使う方法もあるということですよ」




―――血生臭い縁であり、たんに利用し合うだけの関係のはずだった。


しかし、その契約はいつの間にか変わっている。


竜騎士姫を喰らう気など、とっくの昔に消え失せていた。


ちいさな双子たちのことさえ、心配でたまらない……。




―――仔竜も多くを学び、変わってしまっていたのだ。


それは竜騎士姫も同じこと、母親になることで変化は深まってもいる。


疲れ果てて弱くなってもいるようだが、空のように青い目に宿る光は強い。


不機嫌そうに牙を剥く仔竜の背に、彼女は軽やかに飛び乗った……。




―――仔竜は自らだけで行きたくもあったが、結局は受け入れる。


母竜を自ら殺めたことを思い出しながら、母となった者を背に迎えた。


母竜は強かった、少なくとも自分の殺してきた他の竜たちの誰よりも。


「お前の母になってやろう。なでて、抱きしめてやるぞ」、母の温もりを仔竜は知った……。




―――冷たい雪が降る空へ、『歌喰い』の悪神が待つ北へ。


仔竜と竜騎士姫は向かい、飛び立った。


母となった者は、高い場所から故国を見下ろす。


自らが守って来た王国の隅々までを、微笑みながら瞳に映すのだ……。




―――「私たちだけが助かるのでは、足らないのだ」


「ガルーナと、そこに住む民たちを守らねばならん」


「皆が『ラウドメア』に怯えている。殺されるのではないかと、震えているだろう」


「そんなことは、私とお前が許さない」……。




『……『まーじぇ』』




―――ガルーナで最も大きな歌を持つ者は、大いなる母性を獲得した。


あらゆる敵に恐れられた彼女と、同族さえも喰い散らかす悪しき凶竜。


血にまみれた二人が、その空のなか。


ストラウスと竜らしく、同じ貌で北をにらみつける―――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ