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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その七十三


「死地に赴く覚悟をしていた……ストラウス卿の先祖でも、そこまでの覚悟が必要だった相手……」


「いつどこの戦場で死ぬかは、誰にも分からん。強かろうが、弱かろうが、大して関係のないことだ」


「……そう、よね。そうだ。それは、確かにそうだけれど……ストラウス卿は、しぶといもん」


「簡単に死んでいる場合ではないからな。帝国を、倒さねばならん。ご先祖さまも、同じように考えていたのだろう。彼にとっては、妻子の命が自分よりも大切だった」




―――歌となった伝説たちが、その祝福を編んでいく。


男の目論見は当たっていたのだ、勇敢さと恐怖で飾られた強い物語が力を成した。


人々は記憶している、竜騎士姫と仔竜が成し遂げた勝利を。


ガルーナの守護神である者たちを、敵からすれば最悪の破壊者を覚えている……。




―――『歌喰い』の力も無限ではない、喰えないほどの大きな歌を紡げばいい。


決戦の土地へと向かう道すがら、男は過去と現在をつなぎ合わせて因果を縫った。


生きた者と死んだ者たち、歌と歌が融け合いつながり合っていく。


強大な悪神の力に挑めるほど、その歌は強さを持った……。




―――北の村々を踏み潰し、数多の偉大な戦士たちの存在を喰らったあとで。


『ラウドメア』はガルーナの国境線へと到達し、戦士たちと相対する。


翼将の地位にある男は、城塞に陣取り悪神との戦いの指揮を執った。


空を貫くように高く伸びた、邪悪な敵をにらみつけ……。




―――『ラウドメア』は巨大であり、その姿は悪夢のように定まることはない。


おぞましい滅びの化身、異なる世界をいくつも渡った世界を穿ち喰らう淀み。


竜たちが空を飛び、騎士が野を駆け振り上げた鋼を投げつけた。


炎を浴びても矢と槍に貫かれても、滅びの怒涛は止まることはなし……。




―――ガルーナの戦士たちが呑まれていく、消えて行く若い命が男の耳を突く。


呼ぶべき名さえ『歌喰い』の力に奪われて、全てが無になった。


奮ったはずの勇気も、死と消滅への覚悟さえも。


父親になったばかりの男は、消えていく若い命を守りたくもなった……。




「当然だよね。ガルーナの戦士は、きっと、そうなる。ストラウス家の血なら、そうなるんだよ!」


「で、ですよね。団長の、ご先祖さまなら……きっと、歌まで奪われることに、激怒する……生まれて来なかったことに、されるなんて……」


「子供が生まれると、男性もまた変わるのですね。きっと……あの人も…………」


「いいことさ。命のことを知って、より強くなれるってのは」




―――誰かの夫であり、誰かの父親であり。


ガルーナの翼将であり、戦士であった。


男は前に出る、半ば衝動だ。


歌も命も奪い取る、その悪神を許せるはずもない……。




―――無数の眼で、悪神は片腕の男をにらみつける。


巨大な塔のような悪神に比べれば、あまりにも小さなその姿。


恐れるべきはどちらであったのか、巨大な口があざけるために歪みを帯びる。


破壊の津波へと化けて、男を滅ぼすために身を踊らせた……。




―――ストラウスの本流ではない家に生まれ、貴族でも騎士でもなかった。


土仕事をして育ち、空を駆ける風の自由に憧れを抱く。


旅をすることを好み、かつての旅の果てに白竜と並び悪神を封じた。


年を取り父親となった男は、蘇った悪神に向けて襲い掛かる……。




―――かつて以上の勇猛さと、迷いの無さで。


魔術で風を編み、滅びを打ち破るほどの鉄槌を成した。


悪神の津波のような巨体がえぐれ、打ち抜かれる。


隻腕と加齢で弱まったはずの男は、ありえないことに以前より強かった……。




―――『ラウドメア』は、恐怖を刻み付けられる。


自分が喰らった英雄たちを、忘れ去られた者たちの力も思い出したのだ。


神さえも倒してみせた、歌に残らなかった者たちの力を。


恐怖の在り処を知ったのだ、それは悪神の心のなかに在る……。




「『ラウドメア』と戦った昔の戦士たちは、怖くなかったんだね。ちょっとは、怖かったかもしれないけど。それよりも、もっと……勇敢だった」


「ああ。『歌喰い』に挑めるような戦士たちだ。勇敢さは、桁外れだぜ」


「き、きっと。その戦いで、誰よりも怯えていたのは……『ラウドメア』だったんですよ。つ、強いはずの自分に、挑んで来る力を感じて……思い知ったんです」


「……恐怖と感動は、不知と罪悪感から生まれますから。自らの不全を感じたのですよ。ありえないことを理解して、動揺した。神さまよりも強い者がいる。それを彼が示したことで、神としての罪を背負った」




―――想像力が『ラウドメア』を捕らえ、恐怖はふくらんでいく。


絶対の自信はその瞬間に崩されて、命を燃やし尽くしながら魔術を使う男に怯えた。


男はにらみつけたまま、残っていた方の腕まで失う。


全てを捧げた魔術が一つ、悪神を打ち据えて恐怖を完全に叩き込んだ……。




―――死んだはずの男にさえ、『ラウドメア』は怯えてしまう。


喰らってしまえるはずなのに、その死体にさえ逃げてしまった。


男はその死で、祝福を完成させていた。


ストラウスの血から『ラウドメア』が逃げたとき、血筋の破滅は防がれる……。




「そうだ。竜騎士姫は、『ラウドメア』に殺されてしまうが、オレたちストラウス家は遺った」





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― 新着の感想 ―
[一言] 最も幸せな男 ストラウスの歌は帰還する 竜騎士姫の方もっかい見たくなった。
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