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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その七十二


―――『ギルガレア』は語るのだ、悪神に奪われたはずの忘れ去られた物語を。


旧い時代、ガルーナの戦士たちは『ラウドメア』に挑んだ。


英雄たちの封印を破り、『ラウドメア』は目覚める。


悪神は北方の戦士たちと衝突し、彼らの軍勢を圧倒した……。




―――多くの戦士たちが悪神に殺され、存在した事実さえも消し去られる。


勇猛果敢な北方の戦士たちでさえ、この苦痛には耐えかねた。


存在を消し去れることで、生まれてもいなかったことにされることで。


勇敢さを示した記憶は、世界から奪われてしまうのだから……。




「ガルーナ人にとっては……いや、あらゆる戦士にとっての『天敵』と言ったところだな」


「……うん。酷いよね。必死に戦ったことまで、忘れ去られちゃうなんて……」


「称えられるべき死も……忘れ去れてしまうのね」


「家族として生きたコトさえも、失われる。愛情を注いでいたはずの家族まで、思い出せないなんて……とんでもない地獄ですわね」




―――誰もが記憶に何かを求める、死の慰めも生きた理由も。


『ラウドメア』という悪神が使った、『歌喰い』の権能。


それを多くの戦士は怯えてしまう、当たり前のことだ。


自分の存在の全てが失われてしまうという孤独は、あまりにも大きすぎる……。




―――北の海に浮かぶ島から、『ラウドメア』は封印を破り現れた。


火山のなかから蘇った巨体は、不定形であり塔よりも巨大である。


戦士たちを喰らいながら、存在を消し去ってしまいながら。


悪神の蹂躙が、北の土地に破壊を刻み付けていく……。




―――『ラウドメア』が狙ったのは、ガルーナだった。


戦士たちも、民草も。


あらゆる命を破壊していきながら、その侵略は南下する。


悪神は竜の力を恐れて警戒し、消し去ろうと試みていた……。




―――『ラウドメア』を封じた竜がいた、白き古竜が。


ガルーナの守護者であり、アーレスの母親であった白竜。


竜に備わる本能によって、白竜は息子である黒竜と戦い死んでいた。


竜の王朝は、継承されようとしていたのだ……。




『……あーれすは、あーれすの『まーじぇ』とたたかったんだね』


「竜の本能だ。『耐久卵の仔/グレート・ドラゴン』は、自分の王朝を建てるために、弱体化した竜の群れとも戦う」


『うん。それは、わかる。ひつようなことだから』


「……竜って、壮絶な生き物なのね」




―――全ての命、生態系の頂点に立つものが竜である。


力の霊長であるためには、その本能は容赦なく過酷なものだ。


母竜をも倒した竜は、新たな王朝を継ごうとしている。


『ラウドメア』は、全ての竜を殺すためにガルーナを狙った……。




―――竜騎士姫は黒竜と契約を交わし、多くの敵と戦い抜いていた。


若き王を助けるために戦ったこともあれば、侵略者と戦い侵略者であったこともある。


絶対的な才能を用い、竜騎士の技巧と知識を作り上げていく。


竜騎士たちの『母』であり、ガルーナの新しい守護神だ……。




―――ガルーナを守る最強の竜騎士姫と、荒ぶる魂を翼に宿す黒い仔竜。


『ラウドメア』が復活したとき、彼らはその始まりの戦いに参加していなかった。


優先するほかない任務があった、竜騎士姫は出産しようとしている。


新たなストラウスの血を産むときと、邪悪な敵の襲来は一致していた……。




「ずるいよね、『ラウドメア』!赤ちゃんが生まれるタイミングを見計らったんだ!作戦としては……有効だけど。そういうのは、嫌い。戦士のすることじゃないもん」


「そうだな。竜騎士姫とアーレスに、怯えていたようだ」


『……あーれすも、たたかいじゃなくて、『まーじぇ』になろうとしている、りゅうきしひめを、まもってた……?』


「そうなのでしょうね。ゼファーを見ていれば、分かる。アーレスの血は、とても紳士的なのですから」




―――竜の血は激しくも、気高いものだ。


孤高であるが、孤独ではない。


ガルーナの竜には、そのかたわらに竜騎士がいるのだから。


黒い仔竜には、約束もある……。




―――竜騎士姫の伴侶である男、片腕の英雄がいた。


かつて白竜と共に『ラウドメア』と戦い、片腕を喰われてしまった男だ。


男は翼将として戦場へと向かう、竜騎士姫と生まれたばかりの子供たちを残して。


黒い仔竜に約束した、守ってくれと……。




―――片腕の翼将は、ガルーナの軍勢を率いて悪神へと向かう。


『歌喰い』という権能に抗うために、祝福の呪術を仕掛けながら。


存在を消し去る『歌喰い』の力に抗うため、子供たちのストラウスの始祖の名を与える。


歴史のある名前を使い、歴史と子供たちの絆を深めようとした……。




「ご先祖さまも、呪術師の才能があったらしいぜ」


「お兄ちゃんと同じだね!」


「き、きっと、すごい方だったんでしょうね」


「『ゼルアガ』の権能に抗うための呪術……『忘れ去られないための力』として、名前や歴史を使う……そういうのも、ヒトにはやれるんだ……すごいわ、ストラウス卿のご先祖らしい」




―――歌を喰らわれないように、存在を奪われないように。


男は必死であった、自分が『歌喰い』に晒されたなら?


生まれたばかりの子供たちに、悪い影響が及ぶかもしれない。


存在は連鎖してつながっている、親が存在しないことになったなら……。




―――戦いで死ぬことよりも、子供たちが消されることを父になった男は恐れた。


旧い歴史を持つ名前と、竜騎士姫と自らの歌にも頼る。


歌われる伝説は、人々との絆そのものだ。


ガルーナの英雄たちの力で、歌という祝福の呪術を創り上げていく……。




―――ガルーナの大地と空に座する、大きな歌の力に自分たちを保存した。


『ラウドメア』と戦い、命を失ったとしても。


『歌喰い』の力が、子供たちに及ばないように。


父親になったばかりの男は、この激戦が不帰のものとなることを悟っていた……。




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