第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六十四
竜の歌が響き、『火球』が黄金の爆破を生み出した!!
近距離からの爆撃ならば、いくら薔薇やイバラや信徒どもの面影が立ちはだかろうが、まったくもって問題はなし!!
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!
空気が揺れて、焦げた香りが世界を満たす。
煉獄の灼熱が、あらゆる形を焼き飛ばしていった。砕け散った敵どもの影が残る。二つの迷宮都市を隔てるように空へ広がる花園、その一角が完全に消し飛んでいた。
圧倒的な破壊力だよ。
それでも、なお。
『ギルガレア』は耐えたようだ。空を揺らがせる高熱が去るにつれて、あいつの影が浮かんでくる。巨大化していた。爆破で削れるように飛んでくれるどころか、逆に、ふくらんでいるとは……。
『あいつ……っ。ぼくが、こわしたものを、すいこんだんだ!!』
「風も、吸い込んでるよ。『ギルガレア』のおっちゃんに向かって、風まで呑まれてる……」
「引き寄せているみたいですわね。上も下も。『オルテガ』同士が、彼に向かって集約しようとしている……」
「それこそが、狙いでもあったからな。だからと言って、待ってやることはない!!」
『そうだね!!』
ゼファーが翼で空を叩きつけ、ふくらみ続ける黒い影へと飛び掛かる。
赤い目が、かがやいた。
巨大化しているとはいえ、竜の爪の強打に対して、がっぷり四つで受け止めにかかるとは、恐れ入ったぜ。
『うぐ、うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』
うなりながらも『ギルガレア』は底力を見せる。ゼファーと組み合って、互角以上に渡り合っていやがった。執念だ。あいつにも、背負っているものがある。だが、こちらにもそれはあるのだ!!
『まけない!!このまま、ちからと、おもさで……っ!?』
瞬間、おかしな感覚に襲われる。
シンプルな力比べをしていたはずなのに、いきなりゼファーもその背にいるオレたちまでもが、回転の力に捕らわれた。くるりと、回っていた。天と地が、いきなりひっくり返ったような感覚でね。困ったことに、それは錯覚ではない。
「上に、落ちる……っ!?」
「本物の『オルテガ』の方に、落ちているみたいだわ!!」
「じょ、上昇し過ぎたんでしょうか!?」
「いや……これも、『ギルガレア』が操っている!!」
『うえが、したになったり!!したが、うえになったり!?ふんばれ、ない……ッ』
器用なことをするものだ。
だとしても……。
「こちらには、アーレスからの教えもある」
『……あーれす』
「『自由』に飛ぼうぜ。空ってのは、風に乗って遊んでいいところだ」
『らじゃー!!』
ゼファーは、力比べを放棄する。踏ん張れないのなら、踏ん張らなくてもいいだけのこと。アーレスは教えてくれている。オレを通じて、ゼファーにもな。
身を回転させる。
巨大な力には、抗うだけが対策じゃない。乗っちまえば、返って楽なときも多いものだ。オレと初めて会った日に、教え込んでいる。風に乗る木の葉のような身軽さも、力となる。
それにな。
回るゼファーの重量に、『ギルガレア』がついていけるとは思えんよ。
『ぐ、おおおおおおっ!?』
『やっぱり、ぼくのほうが、つよいんだ!!』
回転しながらの力比べ。
天も地もあべこべな状況のなかでなら、『ギルガレア』のおかしげな力も通用しない。どんなに重力の方向をいじったとしても、こちらは動き続けている。
対応し切れんのは、そちらの方だぜ。
オレたちには、空の自由さがある。
竜巻みたいに飛ぶ日もあっていいわけだ。
「『ギルガレア』を、花畑からぶん投げろ!!こいつの狙いを、戦術を、ぶっ壊しちまえ!!」
『らじゃー!!』
引っこ抜いた。
『ギルガレア』を落下の中心から引きずり出して、花畑から遠ざけにかかる。『ギルガレア』は、この花畑に来た。敵がしたいことを、させなければ勝ちやすくなるものだ。
「う、うう!?あ、あっちは、上ですか!?それとも、下ですかっ!?う、ううう!?」
ジャンは、目を回しているようだな。
「本物の方の『オルテガ』だよ!!ゼファー、追いかけて!!余裕を与えちゃいけない。『ギルガレア』のおっちゃんは、何をするか分からない!!これで、仕留めるんだ!!」
『うん!!』
ぐらつく空のなかを、羽ばたきの力強さで進み続ける。上に落ちようが下に落ちようが、左右に落ちようが、知ったことか。たんに飛べばいい!!
空の果てで、あちこちに散っていて薔薇やらイバラの破片が、『ギルガレア』に集まっていく。
花畑をにらんだ。薔薇どもも、『ギルガレア』に向かいたがっているようだな。少なくとも、薔薇の花弁のあいだから突き出た無数の信徒どもの腕は、必死に『ギルガレア』へと伸びていたよ。
しかし、これだけ距離が開いてしまうと……千年の願いも、祈りも、届かない。そいつらを全て、ぶっ壊してでも……オレたちは守る。
死者のためでなく。
生者のために。
真逆の『正義』だな。
……それでも、なお。オレは笑顔でいる。死者のために必死なあいつは、嫌いじゃない。『正義』同士で戦うのは、どこか楽しみがある。高潔さがあるからだ。どんなに悲惨で激しい暴力の応酬のなかでも。
本物の『オルテガ』に向かって落ちていく神さまに、告げる。
「『ギルガレア』よ!!仕留めてやるぞ!!」
『……来るが、いい!!死者の力は、集められた……『オルテガ』同士をぶつけられなくとも、この身そのものが……聖餐のための破壊となる!!』
「その身を……砲弾代わりにでもするのですか」
芸術家の感性というものは、背筋をゾッとさせることも多い。戦場では、とくに。
『ギルガレア』が、笑った。
左右でそれぞれ違う顔面だけじゃなく。その『全身』で。あいつの巨体には、無数の顔が浮かんでいた。『蟲の教団』の信徒どもは、神さまの元に集まったらしい。




