第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六十三
魔力の流れというものは、血が覚えてくれるものでね。『氷』を瞬間的にでも使えたことは大きい。魔力への理解が、かつてよりも進んでいる。
『風』の術を使いながらも、『ストーム・ブリンガー』を形成するための魔力は消えちゃいない。
そいつをね。『蟲の教団』の信徒どもの身を張った壁が消えたこのタイミングで、使うんだよ!!
がら空きだぜ、『ギルガレア』!!
「魔剣!!『ストーム・ブリンガー』ああああああああああああああああッッッ!!!」
翡翠色の斬撃が空を駆け抜けて、炎に化けた『ギルガレア』に追いついた!!
斬るべき場所は見えている。
炎となったとしても、この素直な神さまは『守ろうとした』場所があるのだからな。ヒトの臓腑や急所といった部位とは異なるが、問題はない。戦闘というコミュニケーションが教えてくれている。
燃え盛る炎の一角、『ストーム・ブリンガー』が健在であることを知り、わずかに遠ざけたそこを目掛けて放てばいい。
逃れようとする紅蓮の巨体に追いついて、翡翠の一刀が炎を両断した!!
『ぐ、ふううううう!?』
「『ギルガレア』さま……ッ」
『ギルガレア』の巨体が弱々しく揺れる。その身が、またたく間に小さくなっていた。
「効いてるカンジだよ!!」
『はあ、はあっ。おのれ……ここまで、追い詰めてくるか……』
イバラの奥底へと隠れるように逃げるが、ゼファーは構わず突撃していく。ここが、決めるべきタイミングだからな。
『にがさない!!』
薔薇とイバラの包囲にゼファーは頭から突っ込んでくれる。黒ミスリルの鎧が、この勇敢な攻めによる傷を減らしていた。薔薇を貫き、イバラに絡め捕られながらも、弱まった『ギルガレア』に肉薄する。
赤い目の力は陰ってしまっていた。闘志こそ尽きていないものの、炎に化けてもいられないのだろう。炎は消え去り、獣と蟲の混じった姿へと戻っていくのだ。薔薇に身を支えられるようにしながらね。
勝負所というわけだ!!
『ぐぐぐ!!とどか、ない!!』
ゼファーは暴れながら、さらに近づこうとする。イバラと薔薇を蹴散らしながら近づこうとしくれたが、ついに止まった。
『竜であっても、そのような無謀な突撃では、届かん……』
諭すように『ギルガレア』は告げる。
ゼファーは、挑発だと受け取った。
『うるさい!!ぼくは、りゅうだ!!だれにも、まけない!!』
翼を羽ばたかせ、脚でもがいた。首を伸ばして邪魔な植物どもを噛みついては、引きちぎっていく。原始的で、野性的な大暴れを用いて、この拘束を作り上げた薔薇もイバラも破壊しながら前進していった。
赤い目が、驚きに見開かれる。
『そんな力が、あるのか!!』
「ゼファーは仔竜だからな!!日々、成長をし続けている!!そして、竜は突撃で傷つくことを恐れはしない!!」
『そのとおりだあああああああああああああああああ!!』
近寄るイバラを蹴散らすゼファーは、じつに竜らしい荒々しさに満ちていた。ガルーナの竜騎士の心が踊ってしまうぜ。
もちろん。猟兵も仕事をしているぞ。振り落とされそうになるほど大暴れしてくれるゼファーの背にいながらも、竜太刀を振り、ナイフを投げ、戦輪で叩き斬り、ジャンは片手で引き千切る。
「こ、こんなに暴れる竜の背にいながら、みんな、そこまで武器を扱えているっ。猟兵は、本当に、すごい……ッ!負ける……もんか!!」
ゼファーの闘争本能は戦士に伝染する。ルチアもナイフを投げた。こちらの背後を取ろうと回り込んでいたイバラに突き刺さる。巨大なイバラであっても、『ブランガ』の毒が塗られたナイフは有効だ。
我々の守りもあり、ゼファーは『ギルガレア』を追いかけられる。一緒に戦うということの心地良さがあるんだよ。『孤独』とは、遠い瞬間だからな。
『守るのだ!!』
『『ギルガレア』さまを、お守りしろ!!』
『我らが悲願の達成を、誰にも邪魔させるな!!』
旧い祈りどもが、『ギルガレア』の前に群れを成す。捨て身である。いや、とっくの大昔から、捨て身だった。千年を費やして得た機会か。
「相手にとって不足はない!!オレたちの力を、示すぞ、ゼファー!!」
『うん!!ぼくたちは、こいつらにまけているばあいじゃない!!たくさんのなかまを、まもるんだ!!しんでるやつらに、ころさせてたまるかあああああッッッ!!!』
牙が、爪が。
尾が、翼が。
群れ成す旧い祈りどもを打ち払っていく。
これこそ戦士らしい行いだ。『仲間』の命のために戦う。
「見るがいい、『ギルガレア』!!これがオレたちの『正義』だ!!生きている者たちのために、戦う!!」
『死者を、忘れるというのか!!』
「忘れられるはずもない!!背負って、それでも前を向いて生きるだけだ!!」
『彼らを、見捨てられん!!』
「それならば、それでいい!!戦いとは、『正義』と『正義』で衝突し合うことだ!!お前の救いたい者たちのために、抗ってみろ!!」
『抗っている……っ。死者たちよ、力をッッッ!!!』
「『ギルガレア』のおっちゃんが……」
「姿を変えていきますわね」
「ああ。それでいい。背負っているものの大きさは、知っている!!力を見せろ、『ギルガレア』!!オレたちも、容赦なく、力を叩き込む!!」
ゼファーが、ウロコを逆立たせる。全身に魔力が奔り、牙の列のあいだに力が満ちた。
「ゼファー!!歌ええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GHAOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』




