第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その六十一
『こいつ!!とまれえええ!!』
ゼファーが急降下しながら、爪の強打を物見の塔にぶち込んだ。塔が揺れながら崩れる。だが、崩れたはずの塔の破片が空中に浮かびやがる。虫けらに化けていった。この空にあるもう一つの『オルテガ』は、虫けらで創り出されているのか……破片を虫けらに変えたのか。
いずれにせよ、破片どもが素早く結び合わさっていく。時間が戻ったのかような光景だった。炎に変わった『ギルガレア』は、再生された塔を駆け上ってしまう。
『こいつ!!』
『思い通りに、世界を操れる!!この世界は、完全に掌握しているのだ!!やれぬことなど、何もない!!不可能は、この世界にはないのだ!!』
『ギルガレア』が物見の塔に頂点に達すると、空に向けて……上空の薔薇の畑に向けて、大きく長い火柱へと変化する。まるで、火山の噴火のような勢いだった。広がりながらも、天高く、その炎は走り去ってしまう。
「お兄ちゃん、何か、まずそう!!」
『ど、どうしましょうか!?だ、団長!?』
「追いかけるぞ!!あいつが、花畑に向かうのなら、オレたちも向かう!!」
邪魔をする。妨害をする。それこそが、一般的な『防御』の戦術だ。『ギルガレア』の狙いを、挫かなければならん。
『みんな!のって!!』
物見の塔に爪を立てたゼファーの尻尾に、跳んでつかまった。態勢などお構いなしに、善意で飛び乗った。ジャンは『巨狼』からヒトの姿に戻ってな。
とにかく、急がなければならん。
「全員、乗ったぞ!!ゼファー!!」
『らじゃーぁああああああああああああああああああッッッ!!!』
物見の塔を蹴散らしながら加速して、ゼファーは空を駆ける炎を追いかける!!
羽ばたきを重ねて、火の粉をまき散らしながら花畑に迫る炎との距離を詰めていく……。
「あ、あいつ!!何をするつもりでしょうか!?」
「さてな。追い詰められた……オレたちを説得することも、戦うことさえもあきらめた。無理やりに、目的を遂げようとしているのだろう」
「となれば、『不滅の薔薇の世界』とやらの完成……聖餐の実行……生贄を、捧げる……」
「でも。薔薇のとこには、誰もいないよね?空だもん?」
「ヒトがいるのは、本物の『オルテガ』だけのはず……ということは!?」
『ばらを、『おとす』のかな?ほんものの『おるてが』に?』
顔が強ばる。
薔薇を支えるイバラどもは、まるで塔のように巨大だ。その先端から生える薔薇も、家屋を潰すことぐらいはやれるだろう。
あんなものが人々の集まりに落下しようものなら、どれだけ死人が出ることか……。
それを想像するだけでも、血の気が行方不明になっちまうような恐怖があるのだが、レイチェルの芸術家としての感覚は、それ以上の危機を察知して教えてくれた。
「あれは、ちょうど二つの『オルテガ』の境目にあります。まるで、二つの『オルテガ』を隔てているように。あの花畑が消えたら、『支え』はどうなるのでしょうか?」
「き、消えちゃうってことですか!?じゃ、じゃあ、え、え、ええと!?」
「こっちの『オルテガ』が、あっちに落ちちゃうの?」
「……かもしれん」
街同士が衝突するなんてことになれば、全滅は必死だ。全員が生贄になってしまうかも。
「で、でも!『ギルガレア』さまは、『蟲の教団』の連中を助けたがっている……ッ。二つの『オルテガ』をぶつけるなんてことをすれば……ッ」
『にせもののほうは、すぐに『もどった』よ!!』
「ああ。物見の塔は、崩したはずなのに……破片どもが虫けらになって、集まった。すぐに元通りになる」
「じゃあ。本物の『オルテガ』ごと壊して、そこにいるみんなを生贄にして、そのあとで『ぜんぶ元に戻す』ってこと?」
「本物の『オルテガ』も、そこにいる全員も、虫けらに再現させるつもりなのかもな。追い詰め過ぎてしまったか!!」
「大丈夫ですわ。間に合いますもの」
『うん!!あいつより、ぼくのほうが、ずっとはやいんだから!!』
空で竜に勝てる者はいない。ゼファーは翼に力を込めて、羽ばたきの回数を増していく。やがて、炎に追いつき、並走する形へとなった!!
「逃がさんぞ、『ギルガレア』!!お前に、これ以上は何もさせん!!」
『この姿に、そちらの攻めが通じるとは思ってくれるなよ!!』
「通じるんだよ!!」
竜太刀を構える。『風』の魔力を集めるのだ。
『また、『風』の魔剣を!!』
「また?」
「『ギルガレア』に見せられた夢のなかでな!!」
「い、一瞬だったんですが……そのあいだも、夢で戦っていたんですね!?」
あれが一瞬だったか。
時間の流れまで変える。たしかに、とんでもない権能だ。神さまの一種には違いない。
だが。
「オレたちが守るべき者たちの脅威になるのであれば、敵でしかない!!斬るべき場所が見えるぞ、『ギルガレア』!!お前は、オレと戦い過ぎた!!」
『ストーム・ブリンガー』の威力も、教え込まれている。だからこそ、身を守ろうとした。本能的な反射だ。それを読めばいいだけのこと。お前は、とても素直な武術を使うのだから。
知り合うことは、戦いを有利にも不利にもする。
どちらにとってもな。
戦闘はコミュニケーションだと、記憶の中にいるガルフが教えてくれている。こちらが相手を読めるようになったときは、相手にも読まれているときなのだと。
知っているさ。
この花畑が、我々と『ギルガレア』の、どちらにとって有利な戦場なのかなんてことに、疑問も比較も必要なかった。




