第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五十九
『氷』の呪縛が解けるよりも先に、ここから脱出してやる。無限の力はない。ヒトの記憶を覗いたり、大陸にある『ゼルアガ』の干渉を取り除いたり、ニセモノとはいえ、セシルやミアやレイチェルを生み出す。
力を使い過ぎているぜ。
「『ギルガレア』!!オレを倒そうと必死になり過ぎたな!!それゆえに、お前は負けるのだ!!」
両手持ちにして、狙いをつけた。
竜太刀に融けるアーレスも、アーレスのくれた魔眼も、上空にある闇のなかに揺らぎを把握しているのだ。
『……見抜くか!!』
「ああ!!仕留めてやるぞ!!オレの敵となったからには、容赦はしない!!」
『おのれ……ッ!!ならば!!傀儡たちよ!!』
「――――」
「――――」
ミアとレイチェルが、動きを止める。ヒトらしさは一瞬のうちに消え去り、まるで人形のように完全に静止していた。
「二人に、何を……ッ」
つい、心配してしまう。ニセモノだということを、アタマでは理解していたとしても、どうしたって心配してしまう。猟兵は、オレの『家族』だからな。
『氷』の呪縛の奥で、二人の姿が影へと変わる。
真っ黒な人影だ。
それは、流動的になったよ。水のように、あらゆる隙間を抜けられるらしい。つまり、『氷』の凍てつきさえも。
「ヒトの形にこだわらなければ、拘束も抜けられるか。賢いじゃないか!!」
『容赦はしない!!殺してしまえ!!傀儡たちよ!!』
もはや、それらはミアでもなければ、レイチェルでもない。誰にも似ていない。ただの揺らぐ敵意でしかなかった。
大きな間違いをしているぞ。
猟兵に近い動きを保っていたとしても、この影には迫力がない。猟兵とは、あまりにも似ていない。
ならば。
こちらも堂々と斬り捨てられるというものだ!!
『ぎいいいいいいいいいいいいいい―――』
『ぎゃぎぎぎぎいいいいいいいいい―――』
虫けらどもの声だったよ。
二体同時に斬り捨てながら、そのわめき声のあいだを駆け抜ける。
『馬鹿な!?力に、そん色はないはずだぞ!?』
「猟兵を舐めるな!!」
『……ッ』
「動きだけでは足りない。姿かたちがあってこそ、猟兵の心があってこその強さがある!!リーチを変えれば、バランスも崩れる!!オレに働きかける力も、削ぎ落としてしまった!!ヒトを、あまりにも知らないぞ、『ギルガレア』よ!!」
『知っているさ!!お前よりも、長く生きた!!この大陸に流れ着いてから、神として関わって来た!!無数の人々の祈りとも、つながっている!!よく知っているのだ!!』
「それならば、この失敗はしなかった!!」
『お前は、特異な存在に他ならん!!』
『ギルガレア』が抵抗を始める。虫けらどもの羽音が、上空に満ちていく。ヤツが解き放ったのだろうさ。虫けらどもが、集まり……人影を作った。
空から落ちて来やがったよ。その人影どもの群れがな!!
追い詰められたことを、悟っているのだ。正しい認識だぜ。見ての通り、竜太刀の刃には、翡翠に煌めく『風』の魔力が宿っている。『ストーム・ブリンガー』だ。もう一発、撃ち込んでやるぞ。
『ぎぎぎぎぎいいいいいいいいい!!』
『ぎぎぎぎぎいいいいいいいいい!!』
「虫けらだ。しょせんは、虫けらの群れでしかない!!芸が、雑になっているぞ!!手数に頼ろうなどと!!猟兵のニセモノの群れも、作れんのか!!」
たんに猟兵並みに速く、剛力で、長いリーチを持たせたとしても。こんな雑魚どもでは、時間稼ぎにもならん!!
斬撃で、片っ端から斬り捨てていく!!
もちろん。『ギルガレア』に使うべき『風』の魔力は竜太刀に帯びさせたままだ。器用だろう?成長しているからね。何とも、ガルーナの野蛮人らしい感覚的なことであるが、『氷』の魔力を使えたことで、血が覚えたのだ。新たな魔力の動き方を……。
普通の世界では得難い感覚と、接触した。
学べた。
こいつは、大きな宝となるだろう。
『氷』の魔力は認識さえできなかったが、使うこともやれないものの、ちゃんとヒトの身にもあって、魔力の流れを作っていた。
学者じゃないんで。
細かいことまでは分からんが―――使いこなせる。大きなヒントだ。オレは、『風』が刃から『飛ばないよう』に、『氷』の魔力でつなぎ留めている。
『魔力を、削れんだと!?』
「自分でも驚いているぜ!!『ギルガレア』よ、ありがたい!!お前が、『氷』の力を解放してくれたおかげで、また強くなれた!!」
『お前のために、したわけではない!!世界を、創り出すためにしたのだ!!』
知っている。
だとしても、礼も言いたくなるだろう。戦士だからね、強くなれるキッカケを与えてくれたことは、大きい。この魔力の使い方を、忘れんぞ。
追加で上空から降り注いで来やがった虫けらの音をさせる敵どもを斬って裂き―――最適の間合いと角度へと踏み込めた。『ギルガレア』の気配を狙う。両脚を大きく開き、両手持ちの竜太刀を掲げるように高く構えるのだ!!
『おのれ……ッ!!』
「魔剣!!『ストーム・ブリンガー』あああああああああああああああッッッ!!!」




