第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五十八
アイデアが浮かんでくれた。
それに。
……感覚も、つかめる。
オットーが教えてくれたことがあるからね。感知できないものも、知識と発想で見抜けるのだ。『サージャー』の感覚は持ってはいないが、オットーが教えてくれたコツと、この『ギルガレア』が創り出した場所ならば、感じ取れた。
笑顔になりたくなるぜ。
逆転の策を見つけたときは、心が躍るものだ。
しかし。
悟られてはならん。
ミアとレイチェルは気づいていない。『ギルガレア』も認識にはないだろう。使ったことのない力については、誰もが明確な意識までは持てないものだからね。
鋼を打ち合わせながらも……。
呼吸潰しの攻めの連続に、追い回されながらでも……。
本心を隠しながら、タイミングを見計らう。
可能な限り、疲れている『演技』をしながらね。ニセモノとはいえ、ミアとレイチェルが相手なのだ。二人とも、目利きだよ。相手との駆け引きも上手い。
こちらの考えを、読まれるリスクはある。こんな状態で、もしも、警戒されたら、負けてしまう。追い詰められているからこそ、有効な策でもあるのだ。こっちも自在には使えない。
耐えて。
隠さなければな。
戦闘はいつだってコミュニケーションだ。表情一つからでも、多くを相手に伝えられる。途切れそうな呼吸に、額に浮かぶ汗。鼻の先に集まり、垂れていく汗。斬られた傷からにじむ血に……まあ、半分以上は演技でも何でもなく、実際のダメージなんだが。
ボロボロだ。
竜鱗の鎧も、『奇剣打ち』が直してくれたというのに、あちこちが軋んでいる。
避け続けるしかないが、身を動かすほどに体力も失っていく。
肺腑も、痛む。打撃の後遺症ではなく、たんに空気が不足し始めていた。猟兵二人がかりの攻めの連携、生き残るだけでも精一杯というのが、正直なところだ。
強がるのも、難しくなっている。
それでも。
肉を切らせて骨を断つ。
絶好の機会を作るために、疲れた体に鞭を打ち、竜太刀の大振りで間合いを取らせた。
『罠』を張る。
これで、警戒されたら負け……。
「空振りさせたよ、レイチェル!!」
「ええ!!仕留めます!!」
空振りした直後には、大きな隙が生まれてしまう。今この瞬間が、まさにそうだ。俊敏な二人に襲われたら、確実に殺されてしまうタイミングだな。
負けだ。
ここが、現実の世界ならば、負けている。
だがね。『ギルガレア』自身が語ってくれたように、ここは『いつもの世界』ではない。オレたちの大陸ではないんだよ。他の神々の権能が働いていない、他の『ゼルアガ』どもに侵略されていない世界ならば……。
この『属性』を、ヒトの身でさえ使いこなせる。
「―――『氷』よ!!」
練っていた『第四属性』、『氷』の魔力を解き放つ!!
『氷』魔術を自分だけで使うことは初めてなんだがね。かつては、この竜太刀にも融けていた。アーレスの力を抑止するために、『氷』の力を秘めた魔石を混ぜていたんだ。まったくもって、縁がないというわけでもない。
オットーからの教えもあるし……。
『ザクロア』で、『氷』の狼を呼んだこともある。あれは、ミストラルと『アリアンロッド』の力でもあったが……感覚は、知っているんだよ。だから、どうにか使えた。
……あとは。呪術師の類は、『氷』の魔術の適性もあるのだろう。レヴェータも、使えたからな。魔術よりも、やや繊細な魔力の管理だ。『裏側』みたいな使い方ってところにある。
いずれにせよ、かなり感覚的ではあるが、『慣れ』と『適性』があり、この場所が『ゼルアガ』の影響で、ヒトから『氷』を使う『権利』を奪われていないのなら、こうして『氷』魔術も放てる!!
「『氷』を……お兄ちゃんが、使うの!?」
「魔石もなしに、どうして―――『ここ』ならば、使えると!?」
「そういうことだ!!『ギルガレア』のおかげというわけだな!!」
ストラウス家の血にも感謝か。潜在的には、三つの属性だけでなく……四つの属性を使う才能も血に流れていたらしい。
『……こちらの力を、逆手に取ったというのか!?ソルジェ・ストラウスめ……ッ!!』
初めての『氷』魔術は、ただの吹雪のようだ。
ミアもレイチェルも、『三大属性』の魔力を練っていれば、見抜いていただろう。
しかし、本来ならばヒトに『氷』は使えない。認識さえも、叶わない魔力だからな。警戒する必要もない。だからこそ、気づけなかった。『氷』が使えると理解したオレでさえ、加減が分からんところもあるほどだ。
つまり、対策不能な魔術ということだよ。
「『氷』だと、どの魔力を練って防げばいいの!?」
「……これは、やられてしまいましたわね」
凍てついていく。吹雪の魔術を浴びて、ミアとレイチェルの体が雪の呪縛へと囚われてしまった。死ぬことはないだろうが、体は動かん。しばらくのあいだはね。
「でも。これぐらいなら、すぐに、動ける……っ!!」
「リングマスターは、こちらを殺せませんからね。あと、もう数秒もあれば―――」
―――その隙があれば。
オレには、じつに多くのことがやれるのだよ。
語り掛けてくれたからな。
おかげで、居所は掴んでいる。
虚空をにらんだ。
竜太刀は、ガチガチと『牙』を生やして歌っているぞ。アーレスも、『ゼルアガ』の力を破るのを楽しみにしている!!
『竜騎士姫』と共に、『歌喰い』を倒した竜なのだから!!
「ここを、ぶっ壊すぞ!!アーレス!!」




