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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五十七


「行くよ!お兄ちゃん!」


「参ります、リングマスター!!」


 『ギルガレア』の殺気も、強烈なものではあったが……この二人を前にした方が、よっぽど、寒気が走る。


 レイチェルが加速し、その影にミアが潜んだ。


 シンプルだが、合理的な戦術である。


 『諸刃の戦輪』が叩きつけられて、竜太刀で防ぐ……というよりも、防がされたと言った方が正しいだろうよ。動きが固まる。レイチェルもだ。それだけの強打であり、一対一ならば、お互いの攻め手が相殺されてしまうだけで済むが……。


 これは、一対二。より戦場的な状況だ。


 ミアが襲い掛かる。


 影の低さではなく、オレを目掛けて飛び蹴りを放ってくれたよ。


 ギリギリの反応を強いられるものの、左の手のひらで受け止めるのに成功する。そのまま握りしめたまま、放り投げた。


 空中で華麗に回りながら、ナイフが放たれる。


 当然だけど。


「『ブランガ』を塗ってるからね!」


 そう。とても正しい。猟兵として、実に正しい。オレなんかと、正面から戦うべきじゃない。


 毒でも何でも、使えばいいのだ。


 必死になって避けるが、けっきょくのところ、追い詰められた行いというものは、どうしたって、より不利な状況へと転がり落ちるものでね。


 レイチェルの前蹴りが、あご先に入れられてしまった。


 あごの骨が、破裂してしまいそうな威力だが……どうにか、逃がせる。危ない。あと一ミリでも深ければ、脳が揺さぶられて意識が消えていたところだ。


 揺れる体に、技巧を使う。


 『千鳥』。


 あえて揺れながら避ける技巧でね、ストラウス家の伝統の技巧の一つだ。酔っぱらったように振れる体と、惑わせるための足運び。おかげで、レイチェルの『諸刃の戦輪』による追撃は、わずかに脇腹に傷を入れられる程度で済んだ。


 痛いか?


 痛いさ。


 確実に肉が切れて、骨まで達している。竜鱗の鎧さえ、呪いの鋼は断ってしまう。


 当たり前だが……。


 『パンジャール猟兵団』の猟兵は、とんでもなく強いぜ、ガルフよ。


「『風』で、追撃!!」


 ミアの放った『風』の球体が、背中に命中した。レイチェルごと、巻き添えにする角度だったが……『人魚』の身体能力は、あいかわらずうらやましくなるぜ。


 瞬間的には、『風』の魔術よりも速く動けるのか。『風』の鉄槌にぶん殴られたのはオレだけだ。踏ん張らずに、『風』の流れに身を乗せて跳躍したから……ダメージを抜くこともやれたものの。


 肺腑が痛む。


 ……これは、持久戦のやり方だ。オレがそれを選ぶしかないからこそ、ミアも乗っている。ニセモノのミアだが、猟兵らしい戦術の選択だった。


 何が狙いか?


 呼吸を壊すことだ。俊敏な二人で、続けざまに、ゆっくりと、削るようにダメージを入れていく。スタミナが持たなくなれば、動きも陰ってしまい、けっきょくは傷も入れられる。


「レイチェル、今度は左右同時に攻めよう!」


 賢いぜ。ミアは。


 あえて戦術を伝えるからこそ、オレも考えてしまう、身構えてしまう。集中力も想像力も、敵になる。敵にされる。話術だけでも、これだけ相手の力を確実に削げるのだよ。


 竜太刀でさばく。


 竜爪で受ける。


 ステップワークで、どうにか避けた。


 しのげる。しのげてはいるが、こちらの想定以上に、状況は厳しい。この世界を突破する方法を見つけるなんて余裕が、消されている。まずいぜ。非常に、まずい。


 傷だらけにされることぐらいは、承知していたのだが。


 あちこちを斬られても、鼻を折られても、骨にヒビを入れられても、問題はない。戦士ならば、耐えられるが……それにしても、さすがは猟兵。二人を同時にして、戦いながら……『ゼルアガ』の術を破る方法を探すなんてことは……。


 少し。


 厳しすぎたかもしれん。


「弱って来ましたね」


「私たち二人を相手にしたら、お兄ちゃんだって勝てない。殺気も、ないから。私たちを殺すつもりで、竜太刀を振れてない。だから、読める。だから、つけ込める。だから、お兄ちゃんのことを、殺せるんだ」


 ……そう。それも、見抜かれている。ミアは大胆に踏み込んだ。やろうと思えば、斬れるのだがね。もちろん、やれない。ニセモノでも、ミアを斬れない―――。


『―――偽りであっても、本物にも劣らない価値を見出すこともやれるのだ』


 『ギルガレア』め。


 説得も続けるか。戦いながらも、オレに認めさせたいか―――!?


「隙ありですわよ、リングマスター!!」


「ぐ、ふううッ!?」


 レイチェルの膝蹴りが、深く入った。みぞおちを貫くような角度で。また、肺腑が引きつる。とっさに空気を吐き出さなければ、肺腑が破裂させられていた。強い。さすがだ。猟兵の強さを体感したことは喜びもあるのだが……それと同時に、そろそろ本気でまずい。


 ふらつく。


 『千鳥』の技巧ではない。ただのダメージに揺さぶられて……まずい。片膝を突きそうになる。


『……死ぬがいい。死んでも、『不滅の薔薇の世界』で、呼び出してやろう。お前の愛する妹も、そばに呼べる。ともに生きればいい。いつまでも、永遠に。『孤独』とは、無縁の時間が続くのだ』


「そんなものは……ニセモノは……いらんと、何度も言っているだろうが!!」


『願うがいい。叶えてやれる。死者さえも、真の愛があれば呼び出せる。ここは、お前たちの大陸とは異なる法則が支配する世界だ。完全に無欠な世界。他の神々の影響さえも、排除された世界。ここでならば、全ての再会が保証されているのだ』


 ……『ゼルアガ』の影響がない。


 死と生の境目もあいまいな場所……。


 ……だと、言うなら。


 『ここ』なら。オレにも、使えるのだろうか。ミアもレイチェルも、ほとんど知らないはずの魔術を……俊敏な二人でも、避けられないはずの魔術を……。




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