第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五十六
『ヴァルガロフ』で学んだ技巧を使う。鎧に鋼を当てさせてから、回転に巻き込むんだよ。タイミングがとても難しいのだがね。ミアの動きは、よく知っている。
ピュア・ミスリル・クローが鋼に触れる瞬間まで待って、ドワーフ・スピンの要領で回転した。
「……ッ!!」
完璧な暗殺者であるミアだが、武装は速度優先の軽さがある。それは、正面からの突撃を仕掛ける上では、大きな不利となった。
普通の相手ならば、鎧の継ぎ目を狙えるだろうが……オレを相手にしたときは無理だよ。オレだってね、ただこの間合いに入られたわけじゃない。
戦いは、いつだってコミュニケーションだ。
構えや、視線、重心の揺らし方。そういう細かくて重要な要素が、ミアの動きを誘っている。戦場は単純なものでね。不可能なルートを選ぶことはない。
間合いに入られてはいるが……好き放題にされてはいなかった。だから。竜鱗の鎧が機能してくれる。
ピュア・ミスリル・クローの先端が、わずかに鎧の鋼に突き立った。そのまま巻き込むようにしての回転だった。ミアの小さな体が、飛ばされていく。
オレの力でもあるし、自分でも跳んだわけだ。接近戦を、オレとまともに続けることは、小柄なミアには不利だったからな。欲張らずに、奇襲が通じなかったときは距離を取ることを最初から想定していた。
いい判断だよ。
ミアは、ピュア・ミスリル・クローを折られることもないまま、やわらかく地上に降りれた。細さがある爪だからね、力を加えると折れてしまうはずで、そうなれば良いなとも狙っていたが……ミアの方が、一枚上だ。
ただし。
一連の奇襲のアイデアを失った。ミアは、出し惜しみをすることはない。最適を叩き込む。とくに、オレを想定したときは、必ずな。
「読み合いが得意な敵に、そう何度もつけ込めるチャンスはないものだ」
「うん。ガルフおじいちゃんが、教えてくれたよね。お兄ちゃんも」
だから。ミアはオレに対しての最適の動きを使ってしまっている。二度目の勝率は、大きく下がった。
「オレに勝ちだぞ」
「うん。私の負けだね。仕留めるつもりだったのになあ」
戦士の悪癖だ。本物のミアじゃないのは、理解しているが……オレへの本物の殺気を放つミアは、敵として好ましさがある。強い敵が、自分のことを全力で殺そうとしてくれるなんて、戦士にとっては名誉でしかない。
「でも。猟兵は、一対一にこだわらないもんね」
「ああ。戦場に、一対一なんて特殊な状況を持ち込む必要はない」
「今度は、レイチェルと一緒に襲うよ」
音を立てないステップで、ミアはレイチェルのそばへと跳んだ。
「遊びはお終いですか」
「うん。お兄ちゃんのことを、殺してあげないとね。私もママと暮らしたいもん」
「……『ギルガレア』め。その言葉は、ミアにとっての侮辱だぞ。ミアはママのことを愛しているが、生きることを望んだ。死んだ母親を置いて、奴隷ハンターから逃げた。二人の同意がある行いだぜ。生きることを、二人は誰よりも望んだ!!」
『……二人して、『生きられる』。そういう世界を与えられるのだ』
「死者と生きるということは、そんな形ではない!!」
『……言葉では、説得することは不可能だな』
「お互いにな」
『お前の部下たちが二人だ。一人ずつであれば、お前は勝てるらしいな。だが、二人同時に相手となれば、殺されるだろう』
「心配してくれているのか?やさしさを通り越して、侮蔑にも等しい。敵のことを、それほど考える必要はない」
『……ああ。さらばだ、ソルジェ・ストラウス。『不滅の薔薇の世界』には、お前の居場所もある。お前は、そこで望ましい再会を果たすだろう』
「お兄ちゃんも、家族に会えるよ」
「素敵なことですわね、家族がそろうなんて」
「本物の君らは、そんなセリフを絶対に言わないんだぜ」
竜太刀を構える。
ニセモノではあるが、戦力は本物と遜色はない。同時に、相手か。戦士として楽しくもあるが……勝率を考えれば、何とも低い。そもそも、ニセモノとはいえ、二人のことを斬るなんてことは、やれそうにないな。
シアンに、また怒られそうだ。各個撃破していれば、それで問題はなかったと。たしかに、その通りではあるのだが……やれんよな、アーレス。我々の生き様に、相応しくない。『家族』は斬れん。たとえ、ニセモノでも。
だから。
この状況で選ぶことは一つだけ。
「来い」
……防戦を選ぶ。圧倒的に不利だが、そうするほかにない。鋼の速射を浴びることになるだろうが、生き残らねばならん。
当然ながら、あきらめているわけじゃないぜ。耐えながら、『探す』。『ギルガレア』よ。ここはお前の権能の世界らしいが……お前の創った世界は、いつも『外』とつながっていたな。
『侵略神/ゼルアガ』だとしても、無限の力はない。綻びがあるはずだ。分かりやすく穴が開いていなくても、『斬って開くべき脆い点』ぐらい、あるだろ。
そこを見つけるとしようぜ、アーレス。
お前のくれた魔眼と、竜太刀があれば……こんな世界ごとき、斬って裂ける!!




