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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五十三


 ヴァシリ・ノーヴァの力よ。ジャンに勇気をくれた貴方の力を、今またオレに貸してくれ。


 『風』を練り上げる。荒ぶる北方の騎士たちの斬撃だ。駆け抜ける翡翠の『風』の一刀を。


「『魔剣』、『ストーム・ブリンガー』!!」


 『ギルガレア』よ。お前は、真っ直ぐ過ぎるから、視線が強い気配を帯びてしまうのだよ。見ているな。高い場所から、オレの様子を探ろうとしている。


 その強い気配は、かなり離れちゃいるが。


 この空を駆ける翡翠の斬撃ならば、どうだ。


 届くだろう。


 高く。高く。ヴァシリ・ノーヴァたちが教えてくれた『魔剣』が暗がりを裂きながら駆け抜けて、気配に到達したよ。悪くない手応えだ。こちらが、お前の術中から、明確な攻撃を当てられるとは思っちゃいなかっただろう。


「オレの敵になることを選んだのなら、必ず、負けることになるぞ」


 無言だ。


 リアクションが少ないのは、つまらないがね。感触はある。『ギルガレア』の放つ感覚は、もうかなり把握し始めているからな。


 感じ取れる。


 そう。あいつが創り出した、記憶のような夢のような、ここの『使い方』も、ちょっと分かって来た気がする。心や記憶を覗き込むほど、逆手に取ることも可能なのかもな……。


「お前が、オレたちの心を覗き込むほど……こちらに、気配を伝えることになる。魔眼を使えば、お前の心を……覗けるかもな」


 無言。


 そうすることで、話術に乗せられないように工夫しているのかもしれん……『呪術師』でもある男と、不用意な会話をすることはリスクがあると学習したか。だが、それならこちらが仕掛け続けるだけのこと。


 竜太刀に『風』を集めていく。現実ではない世界だ。魔力を、消費することはない。


「攻めまくるぜ」


『―――攻めるのは、こちらの方だ』


「口を開いたか。そうでなくてはな。戦いとは、コミュニケーションだぞ。一方的な展開には、ならない。届いただろう。『魔剣』だけではない。ヴァシリ・ノーヴァたちの生き様が」


『説得にはならんさ』


「オレも、説得はされんぞ。ジャンの記憶を使っても、逆効果だったな」


『ならば……彼女はどうだろう』


「彼女……」


『卑劣な策かもしれんが、彼女の記憶もお前にぶつけてやろう』


「悪趣味と分かっているのならば、しない方がいい」


『彼女も、本当は求めているのではないか?……死者との再会を』


「誰もが、それは望むことがある。しかし、依存していては、ヒトは日々を生き抜けん。そういう死者との関係性は、間違いなんだよ」


『『不滅の薔薇の世界』ならば、ありえないことを叶えてやれるのだ。お前にも、与えてやれるぞ。妹との日々を』


「それは、いつかオレが死んで歌になった後のお楽しみだ。まだ、成し遂げなければならんことは、山ほどある。楽しい夢に逃げ込んでいる場合ではない。ユアンダートを殺さなければ、亜人種と人間族が共存する世界を創れんからな」


『世界を、創る……』


「そうだ。『不滅の薔薇の世界』ではない。本物の世界を力で無理やりに変えて、創り出すのだ!!……お前こそ、オレに手を貸せばいい。人種が共存できる世界を創れたら、迫害される者も減るだろう。『孤独』とやらも、少しは癒せる!!」


『……生者との関わりだけでは、癒せぬ傷がある。それに、応えなければならん。彼女の記憶を、使わせてもらうぞ』


「……レイチェルか」


 夫とサーカス団のために、復讐の鬼となったのがレイチェルだ。愛する夫のことを、今でも海より深く愛している……。


 世界が、また変わった。


 とある夫婦の、なれそめの物語か。


 ……銀色の星が浮かぶ入り江で。


 男が一人、泣いている。滑稽な道化の服のまま。自分の技巧の拙さに、才能の無さに、打ちひしがれて泣いていた。まだ乙女だった『人魚』は、それを見て……。


 海の上に飛び上がる。


 美しい芸だった。


 星々に並ぶ高さで、踊る『人魚』。神々しい光景であり、サーカス芸人の涙を止める魅力があった。天賦の才。圧倒的な芸術との出会いに、男は嫉妬することはなかった。自分だけの宝物にするつもりもなかった。


 多くの者に、見てもらいたいと願ったのだ―――。


「―――ボクたちのサーカスに来ないか!君の舞いは、きっと、たくさんの人々を幸せな気持ちにすると思うから!」


「……何とも純粋な気持ちでしたから。私は、彼のことを愛してしまったのです。とても、楽しい日々を、過ごさせてもらいましたの。息子まで、生まれて……」


 知っているよ。幸せは長くは続かない。


 レイチェルが出産のためにサーカスを離れているときに、帝国兵どもが、その一座を襲った。亜人種の芸人たちも多く、在籍していたから……。


「そこからは。私は、あの人に対して、裏切りを続けているのです」


 闇の奥から、レイチェルが姿を現した。


 レイチェルを刺客に使う気か。『諸刃の戦輪』を、彼女は構えた。オレに向けて。


『……ソルジェ・ストラウス。お前は、女と戦うのが不得手なのだろう』


「記憶を覗けるってのは、便利だな」


『違うさ。『罪』を、覗けるのだ』


「レイチェルに、何の罪があるという」


『知っているだろう。だから、お前は、約束させたのだ』


「私は海から陸に上がった。成すべきことを、決めたから。あの人といっしょに、サーカスをするの」


『彼女は、夫の望むことをしたいのさ』


 ……ゼベダイ・ジスの声が聞こえたよ。


「『ギルガレア』に融けて、アドバイスしているのか」


『愛する者に応えるために、踊った『人魚』だ。夫と、サーカスの観客たちを笑顔にしたかったのだろう。それなのに―――』


「―――それなのに、私は復讐ばかり。多くの敵を、殺してばかり。息子からもサーカスからも離れて。これでは、夫も、笑顔になってくれません。だから、私は、とても罪深くもあるのですよ、リングマスター」


 幻覚なんだよ。


 彼女は、それを罪だと認めたとしても、承知で復讐する。罪悪感が、疼いても。心に刺さって痛みとなっても。


「愛しているから、痛むのだ。痛みがあるから、怒りが生まれる。オレたちにとって、復讐は愛することの一部だ」


「『ギルガレア』に従えば……夢でも幻でもなくなるのです。夫と息子と、私がいるサーカスが実現する。それは、どれほど幸せなことか」


「だろうね。君は、心の底から、それを夢見るだろうよ。オレも、そのサーカスに行ってみたかった。どれほど、素晴らしかったことだろうか」


「ええ。だから、手に入れるのです。私は、貴方に鋼を使いましょう」


 偽りのレイチェルが、悲しく微笑み。


 『人魚』の速さを帯びて、飛び掛かってくる。

 



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